ヒトの全細胞

200種類あると言われる人の細胞を、一つ一つ、全てまとめるつもりです。
2019/1/6 human-cell.comにサイト移転します。よろしくお願いします

2017年12月

血小板
(Platelet)

○血小板とは


 血小板は、止血にかかわる血液の成分である。造血幹細胞が分化して巨核細胞となり、その細胞質がちぎれて形成される。血小板は核や小胞体を持たず、正確には細胞ではない。大きさはおよそ2μmで、赤血球や白血球よりも小さく、血液1μL中に30万個程度含まれている。通常は円盤状であるが、血管が損傷を受けると偽足とよばれるアメーバ状の突起を伸ばし、形を変化させる。


図1 血小板の放出
Wikipediaより



○一次止血


 血管内皮細胞が傷つけられて血管内皮下組織(主にコラーゲン)が露出した時、まずは血中や血小板内部に含まれるヴォン・ヴィレブランド因子(vWF)がそのコラーゲンに結合する。するとvWFは構造変化を起こして血小板の膜上の糖たんぱく質、GP1bに結合するようになり、血小板と傷の部位とを結びつける。

vWF因子と結合した血小板においては続いてインテグリンの一種であるGPⅡb/Ⅲa複合体が活性化され、活性化されたGPⅡb/Ⅲa複合体には血中の繊維素であるフィブリノーゲンが結合する。さらにフィブリノーゲンは別の赤血球のGPⅡb/Ⅲa複合体とも結合し、血小板を集めていく。このような止血を一次止血、形成される血小板の塊を白色血栓という。

 
 なお、傷がない場合に血栓が起きないよう、通常時の血管内皮細胞は血栓形成の抑制物質としてプロスタグランジンI2や一酸化窒素を産生している。



図2 一次止血

○二次止血

 
 血小板とフィブリノーゲンからなる一次止血は弱いので、それに引き続いてさらに強固な二次止血が起こる。二次止血は、トロンビンという酵素がフィブリノーゲンに作用してフィブリン繊維を作り上げ、そこに赤血球を巻き込むことによって行われ、塊を赤色血栓という。かさぶたとも、血餅ともいう。




図4 二次止血


二次止血と関係する物質をまとめて凝固因子と言い、Ⅰ~XⅢまでの12種類が存在する(ⅵは歴史的事情により欠番)。内因性と外因性の2つの経路にいずれかによって、最終的にトロンビン(Ⅱa)が活性化される


まず内因性経路は、第12因子が負に帯電した固体(岩・ガラスなど)に触れて活性化されることに始まる。活性化した第12因子は第11因子を、活性化した第11因子は第9因子を、活性化した第9因子は第10因子をそれぞれ活性化し、第10因子がトロンビンを活性化する。


一方で外因性経路は、傷害した細胞が出す組織因子が第7因子を活性化し、第7因子が第10因子、第10因子がトロンビンを活性化する経路である。


血栓塞栓症の治療薬として第10a因子を阻害する薬剤がよく用いられており、2018年の世界の薬の売り上げでは第四位(エリキュース)と第五位(ザレルト)がランクインしている。

○フィブリンとトロンビン


フィブリンの前駆体であるフィブリノーゲンは、α鎖、β鎖、γ鎖という3つのペプチドが2本ずつ逆並行した直線構造をとっており、中央付近をEサブユニット、両端をDサブユニットという。酵素であるトロンビンが中央Eサブユニットに属するペプチドを切断すると、フィブリノーゲン同士が結合をとれるようになる。

フィブリノーゲンからペプチドが切断された後の状態をフィブリンの構成単位として「フィブリンモノマー」と呼ぶ。フィブリンはさらに第13因子の影響を受けて架橋反応を起こし、血小板に加えて血球を巻き込んで強固な血栓を作る。


トロンビンはフィブリンを合成する酵素であるのみならず、血小板の膜上GPCRに受容され、血小板を「活性化」する働きもある。血小板の「活性化」には、内部でアクチン繊維を伸長して偽足を作り、接着度を高める作用や、トロンボキサンA2やvWF、フィブリノーゲンなどの放出を促進する作用、GPⅡb/Ⅲa複合体を活性化して凝集を促進する作用などが含まれる。

○線溶

 血栓が失われることを、線溶という。フィブリンを分解するタンパク質、プラスミンが線溶の主役となる。通常、プラスミンはプラスミノーゲンとして血中に存在するが、回復した血管内皮細胞が組織型プラスミノーゲン活性化因子を出すとプラスミンとなり、働くようになる。フィブリン分解産物を、Dダイマーと呼ぶ。また、役目を果たした血小板は分解される。




○関連項目

巨核球

〇参考文献
・日本血液製剤協会
http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/hemophilia/hem_02.html
・医学書院
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02952_07
・福岡大学 生化学 講義資料
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/adhmol.htm
・Wikipediaの各項目
 血小板
 凝固・線溶系
 インテグリン
 フィブリン


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造血幹細胞
(Hematopoietic stem cell:HSC)


○造血幹細胞とは


造血幹細胞は、白血球・赤血球・血小板等すべての血液成分に分化能を持つ幹細胞である。ヒト成体においては、胸骨・肋骨・脊髄・骨盤の骨髄に多く見られる。細胞分裂で二つに分かれる際に片方が分化し、もう片方は自己複製として未分化状態を維持している。一度分化した血液の細胞は自己複製能を持たず、寿命があるため、造血幹細胞はそれらが不足しないように補給し続ける働きがある。

○分化経路


造血幹細胞の分化様式として、リンパ球系前駆細胞(リンパ芽球)と骨髄性前駆細胞という二つの道筋が見られる。まずリンパ球系であるが、これはNK細胞、B細胞、T細胞へと分化する(図右側)。一方の骨髄系(図左側)は、骨髄芽球・赤芽球・巨核球・マスト細胞の4系統に分化する。骨髄芽球はさらに顆粒球(好中球・好塩基球・好酸球)と単球(マクロファージ・樹状細胞)へ、赤芽球は赤血球へ、巨核球は血小板へと分化する。

図1 造血幹細胞の分化



○骨髄と分化抑制


造血幹細胞が位置する骨髄は、骨の内部のことを指す。骨は外側に緻密骨という硬い部位があり、その中にスポンジ状の海綿骨・骨髄がある。骨髄には多くの毛細血管が走っており、酸素が供給されている。骨髄には赤色骨髄と黄色骨髄とがあるが、黄色骨髄は脂肪からなり、造血にはあまり関与しない。



図2 骨の構造


造血幹細胞の存在する骨髄は、骨を作る骨芽細胞と、毛細血管の内皮細胞の間の空間である。G0期の造血幹細胞は骨芽細胞に接着し、分化は毛細血管付近で行われている。骨芽細胞には複製を抑える働きがあるが、これには血管から遠い低酸素環境で幹細胞を無傷に維持するという意味がある。


造血幹細胞が「分化せよ」というシグナルを受け取ると、骨芽細胞近傍から血管内皮細胞付近へと移動し、分化と自己複製を行う。なお、その穴は骨芽細胞付近の造血幹細胞の自己複製で補われるため、造血幹細胞は酸素から遠い環境の中で無傷で保存されることとなる。


○白血病

造血幹細胞の異常(白血病幹細胞)が引き起こす病気が白血病である。分化の向きによって骨髄性白血病とリンパ性白血病に大別され、さらに慢性と急性に分けることができる。ただし急性・慢性は症状を表すというよりも、急性は芽球が分化できないことによる異常、慢性は分化した細胞の異常である。発熱・出血傾向・貧血という3つの症状が顕著ながんの一種である。
 
最も多いのは急性骨髄性白血病である。血液検査によって、顆粒球や単球といったリンパ球以外の白血球の減少、赤血球・血小板の減少や芽球の増加が確認される。どの段階で分化が止まっているかによって、骨髄性前駆細胞が増えているもの(M0)や骨髄芽球が増えている(M1)、赤芽球が増えている(M6)など、8種類に分類されている。異常が起きた幼弱な細胞は無制限に増殖して血液を流れ、肝臓や脾臓にも入って転移し、やがて死に至る。

○白血病の治療


白血病治療には、化学療法や骨髄移植が用いられる。化学療法は薬の投与によって分裂の早い芽球細胞を適度に殺し、正常なものほど回復が速いことを利用した治療法である。貧血や日和見感染の副作用が見られる。正常値に戻ることを寛解という。

一方で骨髄移植は、再発した場合などにおいて用いられる、他人の造血幹細胞を導入することによる治療法である。まず致死量の抗がん剤投与や放射線照射によって患者自身の造血幹細胞を死滅させ、ドナーの骨髄液(骨髄血)を輸血する。すると骨髄液内部に含まれた造血幹細胞が骨髄に定着し、患者は造血能を取り戻すのである。この際、血液型は提供者と同じものになる。


図3 骨髄液
 腸骨から骨髄液(血)を採取しているところ


○HLA


移植の際に重要となってくるのがHLA(ヒト白血球型抗原)という、体内で自己抗原認識に関与する分子(MHC)である。全ての細胞の細胞膜上に生えていて、白血球はこれを認識して自己を判断している。

この型が患者と提供者で一致していない場合、導入された造血幹細胞からできたリンパ球が患者自身を異物と認識し、攻撃してしまう。GVHD(移植片対宿主病)と呼ばれるこの疾患は重篤で死に至ることもあるため、HLA型が一致した人の骨髄液を導入することが重要である。骨髄バンクに登録していた人と、HLA型が一致した場合にのみ移植される。

HLA遺伝子は数百種類が認められている。両親由来の2つのHLAが組みをなしているため、親子での一致はまずありえず、兄弟姉妹であってもその一致率は4分の1である。




○関連項目

巨核球
血小板
肥満細胞
赤血球
好中球
好塩基球
好酸球
・マクロファージ
・樹状細胞
T細胞
・B細胞
・NK細胞


〇参考文献 
・シンプル病理学 南江堂
・がん情報サイト 骨髄異形成症候群の治療
 http://cancerinfo.tri-kobe.org/pdq/summary/japanese.jsp?Pdq_ID=CDR0000378089
・造血幹細胞制御と白血病 黒川峰夫
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/5/97_1098/_pdf
・国立がん研究センター 急性骨髄性白血病
 https://ganjoho.jp/public/cancer/AML/index.html 
・Wikipediaの各項目
 造血幹細胞
 骨髄移植
 骨髄
 HLA
 急性骨髄性白血病

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網膜神経節細胞
(Retinal ganglion cell)

○網膜神経節細胞とは


網膜神経節細胞は、双極細胞やアマクリン細胞から受け取った情報を処理し、視床外側膝状体へと伝える神経細胞である。長い軸索をその特徴とし、網膜全体で150万細胞ほどが存在する。双極細胞に対応したオン型とオフ型とが存在し、その受容野は双極細胞と同様に中心周辺拮抗型である。神経節細胞にはミエリン鞘がなく、間脳が突出したものとされる。



図1 網膜
 黄色で示されているのが神経節細胞である。




○スパイク


オン型錐体双極細胞が光受容のシグナルを受けてグルタミン酸を発すると、オン型の神経節細胞のAMPA/KA受容体に結合する。神経節細胞は暗時でも自発的に活動電位のスパイクを出しているが、グルタミン酸を受容すると発火の頻度が上昇する。オフ型はこの逆であり、光があたる場合にスパイク頻度が抑制される。スパイクの頻度を情報として下流に伝えている。


図2 スパイク
 中心オフ型神経節細胞は、中心がオフで周囲がオンの場合にもっともよく発火する。



○視神経交叉


神経節細胞の軸索が集まったものを視神経という。神経節細胞の軸索は鼻側半分と耳側半分とでまとめられ、一つの目からは二本の神経が伸びている。そのうちで、耳側半分の神経線維は同じ側(右目なら右側)の視索(交叉後の神経束)に入り、鼻側半分のものは反対側に入る。右目と左目からの神経線維は視床の近くで交わり、これを視神経交叉という。


交叉した視神経は間脳の視床外側膝状体(左右)に投射される。この仕組みによって、右視野の情報は左の外側膝状体で、左視野の情報は右側の外側膝状体で処理されることとなる。



図3 視神経交叉
 http://www.js-brain.com/kankaku/sikousa.html より引用

○視床外側膝状体


外側膝状体は視床の一部をなす部位であり、左右に一対存在する。6層の構造を持って腹側を第1層と呼び、1、2層に位置する神経細胞をM細胞、3,4,5,6層をP細胞、間にあるものをK細胞という。M細胞(大細胞)は高速で簡単な処理を、P細胞(小細胞)は低速で詳細な処理を行う。K細胞(顆粒細胞)に関してはよくわかっていない。また、外側膝状体と同じ側に位置する目(耳側)の情報は2,3,5層に、反対側の目(鼻側)は1,4,6層に投射される。

外側膝状体で処理された情報は、大脳一次視覚野へと向かう。


図4 外側膝状体


○神経節細胞の種類


外側膝状体のどの細胞に投射するかに応じて、神経節細胞はいくつかの種類に分かれている。


1.Midget細胞(小人細胞)
 外側膝状体のP細胞に投射する神経節細胞である。受容野は小さく、色に応答する。応答速度は速い。

2.Parasol細胞(日傘細胞)
 外側膝状体のM細胞に投射する神経節細胞である。受容野は大きく、コントラストに応答する。応答速度は遅く、持続する。

3.Bistratified細胞(二層細胞)
 外側膝状体のK細胞に投射する神経節細胞である。受容野は中間で、色・コントラスト共に応答する。応答速度は中くらいである。

4.光感受性神経節細胞
 色素としてメラノプシンを持ち、それ自体が光を受容する神経節細胞である。視交叉上核に投射し、概日周期に関係する。



○関連項目

双極細胞
アマクリン細胞

〇参考文献
・脳の仕組みと役割
 http://www.js-brain.com/kankaku/sikousa.html

・Wikipediaの各項目
 神経節細胞
 概日リズム
 外側膝状体 
 視神経

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アマクリン細胞
(Amacrine cell)

○アマクリン細胞とは


アマクリン細胞は、網膜の桿体双極細胞から神経節細胞へのシグナル伝達を担う細胞である。抑制性の神経細胞であり、グリシン放出型、GABA放出型の二種類に大別される。情報処理に関与するとされるが、不明な点も多く残されている。


図1 網膜の細胞
 緑色で示された細胞がアマクリン細胞である。橙色の双極細胞と黄色の神経節細胞が接する付近に存在し、信号を修飾する





図2 GABAの構造
 GABAは日本語ではγーアミノ酪酸という。カルボニル炭素に隣接するCがα、その隣がβ、その隣がγであり、そこにアミノ基がついていることからこの名がついている。神経抑制性物質である。


図3 グリシンの構造
 GABAと似た構造をしており、こちらも興奮抑制性である。

○A2アマクリン細胞(rod pathway interneuron)


A2アマクリン細胞と呼ばれる種類のアマクリン細胞は、桿体双極細胞(オン型のみ)の信号を受容して、錐体経路オン型の信号を促進し、オフ型を抑制する働きを持つ。

桿体双極細胞は、受容野の中心に光が当たった時に神経伝達物質のグルタミン酸を放出する。A2アマクリン細胞はAMPA/KA型受容体を持ち、グルタミン酸を受容すると脱分極する。
オン型錐体双極細胞はA2アマクリン細胞とギャップ結合によってつながっているため、結果として桿体双極細胞の活性化によって錐体双極細胞は脱分極側に振れる。

一方でオフ型錐体双極細胞に対しては、脱分極したA2アマクリン細胞は興奮抑制性物質グリシンを放出する。グリシン受容体はGABAA受容体に類似しており、リガンド結合に応じてClイオンを流入させることで、過分極側へ作用する。


図4 アマクリンA2細胞と過分極・脱分極の関係性

○多軸索アマクリン細胞


多軸索アマクリン細胞は、広範囲の桿体双極細胞からの信号を受信し、広範囲の錐体双極細胞へと発信する種類のアマクリン細胞である。首を振るなどして視野が動いた時に混乱しないよう、情報処理を助けているとされる。また、動いている物体への強く反応にも寄与している。


○スターバーストアマクリン細胞


スターバーストアマクリン細胞は、物体の動きを検知する細胞である。ON型とOFF型のサブタイプがみられ、GABAを放出する。GABAのほかにも、興奮性神経伝達物質のアセチルコリンを合成する酵素、コリンアセチルトランスフェラーゼを放出するという特徴がある。


図5 スターバーストアマクリン細胞 eyewire.orgより

○アマクリン細胞の多様性


アマクリン細胞はこの他にも、脊椎動物で30種類が認められている。なお、これは形態の差で判断されているため、役割としてはもっと多様かもしれない。わかっているのは、脳に信号が到達する前の網膜での複雑な情報処理に関与するという事実ばかりである。



○まとめ


・アマクリン細胞は、桿体双極細胞から情報を受けて神経節細胞に伝える細胞。

・錐体双極細胞にも影響を与える。

・多様な形態が確認され、様々な視覚の情報処理を行っていると考えられている。


○関連項目

・双極細胞
・網膜神経節細胞


〇参考文献
・On and off retinal circuit assembly by divergent molecular mechanisms. Scicence 2013

・滋賀大学 痛みと鎮痛の基礎 「網膜」
 http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/basic-eye.html
・埼玉医科大学生理学 「網膜の視覚情報処理」
 http://www.saitama-med.ac.jp/uinfo/seiri2/research-retina.html
・中央大学 上村修二 「多機能な網膜」
 http://www.bio.chuo-u.ac.jp/nano/kisoseibutsu/retina.pdf 

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水平細胞
(Horizontial Cell)

※先に双極細胞の記事をお読み下さい

○水平細胞とは


水平細胞は、網膜に存在し、視細胞から双極細胞にむけてシグナルを伝える細胞である。双極細胞それ自体も直接視細胞からのシグナルを受け取るが、水平細胞は双極細胞の周囲に存在し、周囲の幾つかの視細胞からのシグナルを受容する。桿体細胞の一種類、錐体細胞の三種類に応じて、水平細胞は四種類存在する。


○水平細胞の働き


その役目は、双極細胞のオン中心、オフ中心の機構を協同的に生み出すことにある。すなわち、オン型双極細胞がオンのシグナルで活性化された時、その周囲の水平細胞もオンシグナルを受けていれば、双極細胞を抑制するように働く。逆に水平細胞がオフシグナルを受けていれば、双極細胞を活性化する向きに作用する。水平細胞の役割は、シグナルを修飾することとも表現される。

まとめれば、双極細胞の受容野とは、双極細胞それ自身が直接シグナルを受け取る視細胞の受容野を中心として、水平細胞がシグナルを受け取る視細胞の受容野が周辺に広がった領域である。オフ型双極細胞がオフ中心と、オン型双極細胞がオン中心と呼ばれる所以である。


図1 双極細胞と水平細胞
 図は、オン中心型の双極細胞を示している。
 左図では、光を受容して過分極した視細胞のシグナルを受け取り、脱分極している。
 一方右図では、双極細胞は直接は視細胞からのシグナルを受け取らないが、間接的に水平細胞からシグナルを受け取り、過分極している。

○分子機構


水平細胞は、AMPA/KA型グルタミン酸受容体を持ち、グルタミン酸を受容すると脱分極する。水平細胞は脱分極した状態において、視細胞に向けてGABAを放出する。


GABAは興奮抑制性の神経伝達物質である。GABAA受容体に結合し、Clイオンを流入させて過分極を起こす。すなわち視細胞が光受容したのと同じ向きに作用し、放出グルタミン酸の量を減らす効果がある。

まずはオン中心型双極細胞を考える。オン中心型の場合、視細胞から双極細胞へのグルタミン酸はシグナル抑制に働いている。双極細胞は中心のみが光がオンで外側がオフの時に最も強いシグナルが働くが、この時受容野周辺部では光を受容せず、グルタミン酸は多く放出されている。水平細胞は脱分極し、GABAを放出する。GABAを受容した視細胞はグルタミン酸の放出を減らす。これは双極細胞直下の視細胞にも作用するため、結果としてオン型双極細胞のグルタミン受容はさらに減って、より強いシグナルを受け取ることとなる。

図2 オン中心型の機構
 →は活性化(脱分極)、T字は抑制(過分極)を表す。
 中心の視細胞に光が当たると、中心の視細胞からオン型双極細胞への抑制が弱まり、双極細胞を活性化する向きに働く。一方、周辺の視細胞に光が当たると、水平細胞の活性化が弱まる。すると水平細胞による中心視細胞への抑制効果が小さくなって、オン型双極細胞は抑制される。



オフ中心型においては、この逆である。すなわち、中心がオフ、周囲がオンの時にシグナルが強く表れる。オフ中心型双極細胞はグルタミン酸を受け取って活性化するが、オンの刺激を受けた水平細胞は過分極し、GABAをあまり出さない。すると中心の視細胞は大いにグルタミン酸を放出することができ、結果として双極細胞が強いシグナルを発することとなる。


図3 オフ中心型の機構
オン中心型とは、中心の視細胞のグルタミン酸によるオフ型双極細胞の反応のみが異なる。




○関連項目

双極細胞
桿体細胞
錐体細胞

○参考文献

・滋賀大学「痛みと鎮痛の基礎知識」
(http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/basic-eye.html)
・東京女子大学「生物学特論」 第12回 講義資料
(http://www.cis.twcu.ac.jp/~asakawa/MathBio2010/lesson12/)
・下垂体脊椎動物網膜の水平細胞から錐体への情報伝達に関する研究の進歩 高橋恭一

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