ヒトの全細胞

ヒトの体は37兆個の細胞から構成され、その種類としては約200種であると言われています。「赤血球」「神経細胞」「骨細胞」などの体内の細胞と、「iPS細胞」「HeLa細胞」などの培養細胞を解説します。

血液に関する細胞

造血幹細胞

投稿日:2017年12月24日 更新日:

造血幹細胞
(Hematopoietic stem cell: HSC)

造血幹細胞は、白血球・赤血球・血小板等すべての血液成分に分化能を持つ幹細胞である。ヒト成体においては、胸骨・肋骨・脊髄・骨盤の骨髄に多く見られる。細胞分裂で二つに分かれる際に片方が分化し、もう片方は自己複製として未分化状態を維持している。一度分化した血液の細胞は自己複製能を持たず、寿命があるため、造血幹細胞はそれらが不足しないように補給し続ける働きがある。

○分化経路

造血幹細胞の分化様式として、リンパ球系前駆細胞(リンパ芽球)と骨髄性前駆細胞という二つの道筋が見られる。まずリンパ球系であるが、これはNK細胞、B細胞、T細胞へと分化する(図右側)。一方の骨髄系(図左側)は、骨髄芽球・赤芽球・巨核球・マスト細胞の4系統に分化する。骨髄芽球はさらに顆粒球(好中球・好塩基球・好酸球)と単球(マクロファージ・樹状細胞)へ、赤芽球は赤血球へ、巨核球は血小板へと分化する。

bnk
図1 造血幹細胞の分化




○骨髄と分化抑制

造血幹細胞が位置する骨髄は、骨の内部のことを指す。骨は外側に緻密骨という硬い部位があり、その中にスポンジ状の海綿骨・骨髄がある。骨髄には多くの毛細血管が走っており、酸素が豊富に供給されている。骨髄には赤色骨髄と黄色骨髄とがあるが、黄色骨髄は脂肪からなり、造血にはあまり関与しない。

ほね
図2 骨の構造

造血幹細胞は骨髄の中で、骨を作る骨芽細胞と、毛細血管の内皮細胞の間の空間に存在する。G0期の造血幹細胞は骨芽細胞に接着し、分化は毛細血管付近で行われている。骨芽細胞には複製を抑える働きがあるが、これには血管から遠い低酸素環境で幹細胞を無傷に維持するという意味がある。

造血幹細胞が「分化せよ」というシグナルを受け取ると、骨芽細胞近傍から血管内皮細胞付近へと移動し、分化と自己複製を行う。なお、その穴は骨芽細胞付近の造血幹細胞の自己複製で補われるため、造血幹細胞は酸素から遠い環境の中で無傷で保存されることとなる。

○白血病

造血幹細胞の異常(白血病幹細胞)が引き起こす病気が白血病である。分化の向きによって骨髄性白血病とリンパ性白血病に大別され、さらに慢性と急性に分けることができる。ただし急性・慢性は症状を表すというよりも、急性は芽球が分化できないことによる異常、慢性は分化した細胞の異常である。発熱・出血傾向・貧血という3つの症状が顕著ながんの一種である。

最も多いのは急性骨髄性白血病である。血液検査によって、顆粒球や単球といったリンパ球以外の白血球の減少、赤血球・血小板の減少や芽球の増加が確認される。どの段階で分化が止まっているかによって、骨髄性前駆細胞が増えているもの(M0)や骨髄芽球が増えている(M1)、赤芽球が増えている(M6)など、8種類に分類されている。異常が起きた幼弱な細胞は無制限に増殖して血液を流れ、肝臓や脾臓にも入って転移し、やがて死に至る。

○白血病の治療

白血病治療には、化学療法や骨髄移植が用いられる。化学療法は薬の投与によって分裂の早い芽球細胞を適度に殺し、正常なものほど回復が速いことを利用した治療法である。貧血や日和見感染の副作用が見られる。

一方で骨髄移植は、再発した場合などにおいて用いられる、他人の造血幹細胞を導入することによる治療法である。まず致死量の抗がん剤投与や放射線照射によって患者自身の造血幹細胞を死滅させ、ドナーの骨髄液(骨髄血)を輸血する。すると骨髄液内部に含まれた造血幹細胞が骨髄に定着し、患者は造血能を取り戻すのである。この際、血液型は提供者と同じものになる。

骨髄液
図3 骨髄液
腸骨から骨髄液(血)を採取しているところ

○HLA

移植の際に重要となってくるのがHLA(ヒト白血球型抗原)という、体内で自己抗原認識に関与する分子(MHC)である。全ての細胞の細胞膜上に生えていて、白血球はこれを認識して自己を判断している。

この型が患者と提供者で一致していない場合、導入された造血幹細胞からできたリンパ球が患者自身を異物と認識し、攻撃してしまう。GVHD(移植片対宿主病)と呼ばれるこの疾患は重篤で死に至ることもあるため、HLA型が一致した人の骨髄液を導入することが重要である。骨髄バンクに登録していた人と、HLA型が一致した場合にのみ移植される。

HLA遺伝子は数百種類が認められている。両親由来の2つのHLAが組みをなしているため、親子での一致はまずありえず、兄弟姉妹であってもその一致率は4分の1である。




○関連項目

巨核球
血小板
肥満細胞
赤血球
好中球
好塩基球
好酸球
マクロファージ
・樹状細胞
T細胞
B細胞
・NK細胞

〇参考文献
・シンプル病理学 南江堂
・がん情報サイト 骨髄異形成症候群の治療

http://cancerinfo.tri-kobe.org/pdq/summary/japanese.jsp?Pdq_ID=CDR0000378089
・造血幹細胞制御と白血病 黒川峰夫
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/5/97_1098/_pdf
・国立がん研究センター 急性骨髄性白血病
https://ganjoho.jp/public/cancer/AML/index.html
・Wikipediaの各項目
造血幹細胞
骨髄移植
骨髄
HLA
急性骨髄性白血病

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