(Horizontal Cell)
※先に双極細胞の記事をお読み下さい
○水平細胞とは
水平細胞は、網膜に存在し、視細胞から双極細胞にむけてシグナルを伝える細胞である。双極細胞それ自体も直接視細胞からのシグナルを受け取るが、水平細胞は双極細胞の周囲に存在し、周囲の幾つかの視細胞からのシグナルを受容する。桿体細胞の一種類、錐体細胞の三種類に応じて、水平細胞は四種類存在する。
○水平細胞の働き
その役目は、双極細胞のオン中心、オフ中心の機構を協同的に生み出すことにある。すなわち、オン型双極細胞がオンのシグナルで活性化された時、その周囲の水平細胞もオンシグナルを受けていれば、双極細胞を抑制するように働く。逆に水平細胞がオフシグナルを受けていれば、双極細胞を活性化する向きに作用する。水平細胞の役割は、シグナルを修飾することとも表現される。
まとめれば、双極細胞の受容野とは、双極細胞それ自身が直接シグナルを受け取る視細胞の受容野を中心として、水平細胞がシグナルを受け取る視細胞の受容野が周辺に広がった領域である。オフ型双極細胞がオフ中心と、オン型双極細胞がオン中心と呼ばれる所以である。
図1 双極細胞と水平細胞
図は、オン中心型の双極細胞を示している。
左図では、光を受容して過分極した視細胞のシグナルを受け取り、脱分極している。
一方右図では、双極細胞は直接は視細胞からのシグナルを受け取らないが、間接的に水平細胞からシグナルを受け取り、過分極している。
○オン・オフの分子機構
水平細胞は、AMPA/KA型グルタミン酸受容体を持ち、グルタミン酸を受容すると脱分極する。水平細胞は脱分極した状態において、視細胞に向けてGABAを放出する。
GABAは興奮抑制性の神経伝達物質である。GABAA受容体に結合し、Clイオンを流入させて過分極を起こす。すなわち視細胞が光を受容したのと同じ向きに作用し、放出グルタミン酸の量を減らす効果がある。
まずはオン中心型双極細胞を考える。オン中心型双極細胞の場合、視細胞から双極細胞へのグルタミン酸はシグナル抑制に働いている。双極細胞は中心のみが光がオンで外側がオフの時に最も強いシグナルが働くが、この時受容野周辺部では光を受容せず、グルタミン酸は多く放出されている。すると周辺部の水平細胞は脱分極し、GABAを放出する。GABAを受容した視細胞はグルタミン酸の放出を減らす。これは双極細胞直下の視細胞にも作用するため、結果としてオン型双極細胞のグルタミン受容はさらに減って、より強いシグナルを受け取ることとなる。
図2 オン中心型の機構
→は活性化(脱分極)、T字は抑制(過分極)を表す。
中心の視細胞に光が当たると、中心の視細胞からオン型双極細胞への抑制が弱まり、双極細胞を活性化する向きに働く。一方、周辺の視細胞に光が当たると、水平細胞の活性化が弱まる。すると水平細胞による中心視細胞への抑制効果が小さくなって、オン型双極細胞は抑制される。
オフ中心型においては、この逆である。すなわち、中心がオフ、周囲がオンの時にシグナルが強く表れる。オフ中心型双極細胞はグルタミン酸を受け取って活性化するが、オンの刺激を受けた水平細胞は過分極し、GABAをあまり出さない。すると中心の視細胞は大いにグルタミン酸を放出することができ、結果として双極細胞が強いシグナルを発することとなる。
図3 オフ中心型の機構
オン中心型とは、中心の視細胞のグルタミン酸によるオフ型双極細胞の反応のみが異なる。
○関連項目
○参考文献
・滋賀大学「痛みと鎮痛の基礎知識」
(http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/basic-eye.html)
・東京女子大学「生物学特論」 第12回 講義資料
(http://www.cis.twcu.ac.jp/~asakawa/MathBio2010/lesson12/)
・下垂体脊椎動物網膜の水平細胞から錐体への情報伝達に関する研究の進歩 高橋恭一

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。