ヒトの全細胞

ヒトの体は37兆個の細胞から構成され、その種類としては約200種であると言われています。「赤血球」「神経細胞」「骨細胞」などの体内の細胞と、「iPS細胞」「HeLa細胞」などの培養細胞を解説します。

目に関する細胞

桿体細胞

投稿日:2017年12月19日 更新日:

桿体細胞
(Rod cell)

桿体細胞は、眼球の網膜に存在し、明かりを検出する細胞である。色素としてロドプシンを持っているが、一種類であるため、色を認識することはできない。暗所において機能し、明所に働く錐体細胞とともに、まとめて視細胞と呼ばれている。網膜は眼球の基底に存在する膜であるが、その表(外界)側に神経が走っており、桿体・錐体細胞はそれよりも内側に所在する。色素が存在する外節、ミトコンドリアなどがある内節、シナプス領域からなり、円柱型である。外節は扁平な袋状の円板膜と呼ばれる構造をしており、膜上にロドプシンが刺さる。一次繊毛が変形してできたこの構造によって、神経細胞層を透過してきた光を効率よく吸収することができる。

桿体細胞

図1:桿体細胞(Wikipedia)

○ロドプシンとレチノール

ロドプシンは視細胞に存在する色素であって、深青色に吸光ピークを持つため、補色によって視紅と呼ばれる。7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体のオプシンと、オプシンに可逆的に共有結合するレチナールから成る。レチナールはビタミンA(レチノール)が酸化されてできるアルデヒドであるため、ビタミンAの欠乏は夜盲症をもたらす。レチノールからレチナールへの酸化反応は、網膜に豊富に存在するアルコール脱水素酵素が担う。メタノールを飲むと失明するのは、メタノールからアルコール脱水素酵素によって生成されるホルムアルデヒドが有毒なためである。

ビタミンAから合成されたレチナールはビタミンAと同じくトランス型を取るが、酵素イソメラーゼによってシス型となり、オプシンに収納される。ロドプシンに光が当たるとレチナールはシス型からより安定なトランス型に変化し、オプシンから外れる。この時、ロドプシンはメタロドプシンⅡという活性体となっている。

レチノール
図2:レチノール
末尾のアルコールがアルデヒドになったものがレチナールである。

○シグナル伝達

一分子のメタロドプシンⅡはGタンパク質であるトランスデューシンを介してホスホジエステラーゼを活性化し、細胞内のcGMPが分解される。網膜には環状ヌクレオチド依存性Na,Caチャネルが存在しており、cGMP濃度が低下すると閉じるため、過分極が起こる。通常状態における桿体細胞はやや脱分極状態にあり、シナプス末端から双極細胞へ、神経伝達物質のグルタミン酸が放出されている。過分極はこのグルタミン酸の量を減らし、双極細胞→神経節細胞へと、下流の神経へシグナルを伝えることができる。

網膜の細胞

図3 網膜の構造
視細胞は一番下層の視細胞外節層で光を受容し、シグナルを外核層→内核層(双極細胞)へと伝える。

 

○シャットダウンと回復

光を受容した桿体細胞は、間もなく元に戻り、新たな光を吸収する必要がある。その機構として、メタロドプシンⅡとGタンパク質の不活化や、cGMPの合成促進が行われている。メタロドプシンⅡはロドプシンキナーゼによってリン酸化され、さらにアレスチンというタンパク質に結合することで、Gタンパク質の活性化能を失う。そのGタンパク質は、GAP(GTPase Activating protein)の働きを受けて不活性型に変化する。cGMPに関しては、細胞内Ca濃度の低下で活性化されるグラニル酸シクラーゼによって合成される。合成されたcGMPはチャネルを開いて脱分極を引き起こし、桿体細胞をもとの不活状態に戻す。アレスチンによるロドプシンの不活化が強力であるため、ヒトの桿体細胞の回復には30分程度の時間がかかる。




〇関連項目
錐体細胞

〇参考文献・視細胞の光受容メカニズム 今元泰

・ロドプシンー脳科学辞典(https://bsd.neuroinf.jp/wiki/ロドプシン)
・桿体細胞-Wikipedia (https://ja.wikipedia.org/wiki/桿体細胞)
・Rod cell-wikipedia (https://en.wikipedia.org/wiki/Rod_cell)

-目に関する細胞

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