(Cone cell)
錐体細胞とは、網膜の中心窩付近に存在し、色を検知する円錐型の視細胞である。もう一つの視細胞である桿体細胞は暗所にて働く一方で、錐体細胞は明所で働く。光の三原色に対応する三種類の細胞があり、色を検出することができる。色素としてフォトプシンを持つ。
図1 錐体細胞
光は図の下側から差し込む。1と示されている領域に色素が存在する。
○中心窩
中心窩とは、網膜の中央部に存在する直径1mmほどの窪みである。錐体細胞と神経節細胞が密に存在し、視野の中央に対応して視力を決定する。中心窩の周りではキサントフィルと呼ばれる黄色い色素が存在し、黄斑と呼ばれている。
中心窩にはわずかな光を検知する桿体細胞が存在しないため、暗い星を見る際は目線をそらすのが良いとされる。桿体細胞は黄斑や中心窩の外側に存在することで、広い視野で物体の動きなどを検知することができる。
○フォトプシン
錐体細胞が持つ色素、フォトプシンは、桿体細胞のロドプシンと同様、オプシンというGPCRとシス型レチナールとが可逆的に共有(シッフ塩基)結合した物質である。シス型レチナールが光を浴びてトランス型に変化するとオプシンから外れ、フォトプシンが活性体(メタII体)となり、Gタンパク質のトランスデューサーを介してホスホジエステラーぜを活性化する。ホスホジエステラーぜはcGMPの濃度を下げることで過分極(膜電位の低下)を誘発し、下流にシグナルを伝える。
フォトプシンは活性体であるメタII体の崩壊がロドプシンに比べて早いため、シグナルの増幅は小さく、錐体細胞の感度は低くなる。逆にメタII体の生成や回復も早いため、桿体細胞に比べて素早い光応答や、素早い順応が可能である。
○錐体細胞の種類
光の三原色に対応して、錐体細胞には赤錐体、緑錐体、青錐体の三種類が存在する。それぞれの吸収波長に応じてL錐体.M錐体.S錐体ともいい、それぞれ別のフォトプシン(GPCR)を持っている。ロドプシンが一種類しかないのに対して人が三種類のフォトプシンを持つのは、わずかなアミノ酸配列の違いで吸収波長が変化していることに起因する。
図3 吸光スペクトル
S、M、Lはそれぞれ錐体を表し、Rは桿体を示す。
○錐体細胞と進化
人の遠い祖先にあたる爬虫類は4種類の色素を持っているが、かつて夜行性であった哺乳類は色覚を必要とせず、2種類にまで退化してしまった。青を検知するS錐体と、赤を検知するL錐体である。いまから3000万年前に霊長類の祖先がL錐体が変化したM錐体(緑錐体)を獲得したため、現在のヒトは三色覚である。この形質は、果実を採るのに優位であったと言われている。
M錐体は性染色体のX染色体上にあるため、はじめはそれをホモ接合で持つ女性のみが三色覚を保有していた。ある時に相同組み換えがおこってX染色体上にM錐体の遺伝子が二つ重複して乗るに至り、男性も三色覚となったという。
○色覚異常
色覚異常は、少なくとも一種類の錐体細胞を欠損している人が持っている障害である。全て、もしくは二種類の錐体細胞を欠損すると、一色覚となる。一色覚は珍しいが、ミクロネシアのピンゲラップ島で多くみられる。これは、かつて台風で住民が壊滅した時の生き残りである20人の中に一色覚の人がいたためだと考えられている。
一種類の錐体細胞を欠損した人は二色覚と呼ばれている。よく見られるのは、M錐体を損失した赤緑型色覚異常であり、男性に多い。先述のようにM錐体はX染色体上にあるため、X染色体を一本しか持たない男性は、その染色体がM錐体を欠損する場合に色覚異常となる。一方で、女性は二本とも欠損している場合にのみ色覚異常となるため、その割合は低い。
「色盲」が問題となった事件としては、香淳皇后の家系に「色盲」がいるとして山縣有朋が婚姻に反対した、宮中某重大事件が有名である。
○関連項目
・桿体細胞
受容野
ロドプシン

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。