ヒトの全細胞

200種類あると言われる人の細胞を、一つ一つ、全てまとめるつもりです。
2019/1/6 human-cell.comにサイト移転します。よろしくお願いします

セルトリ細胞

(Sertoli cell)


○セルトリ細胞とは

 

セルトリ細胞は、柱状の形態をとった精細管の上皮細胞である。セルトリ細胞間の密着結合によって血液精巣関門を形成し、また精子形成を助ける「ナース細胞」としての役割を持つ。1865年にこの細胞を発見したセルトリ博士からその名がつけられている。

関連:精子


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図1 セルトリ細胞

セルトリ細胞(7)は血液精巣関門(8)を形成し、生殖細胞の分化(1-6)を支えている。



 



○セルトリ細胞の形態


セルトリ細胞の形態学的な特徴は、①核が大きく、②Cytosolic Armと呼ばれる構造を持ち、③精細胞と接していることにある。セルトリ細胞の核は基底膜に近いところに位置し、球形ではなく刻みの入った形をしている。



クロマチン構造は密集していないユークロマチンが主であり、大きい核は薄くしか染色されないため、PAS染色での識別は困難である。その一方で、核内構造体である核小体は逆に非常に濃く染まり、近接する二つのChromosome center satelliteとともに、三つ一組で観察される。核を確認するためのマーカーとしては、AR(アンドロゲン受容体)やSOX9、WT1といった転写因子が用いられている。



Cytosolic Armは接触する精子を包み込んでいる、厚さわずか50nmの薄い構造体である。一つのセルトリ細胞から何本のもArmが伸びており、細胞の表面積は16000μm2にも及ぶ。直径10umの球形細胞の表面積が300μm2程度であるから、これは非常に大きな値であることがわかる。



 

○精子形成の補助


セルトリ細胞は精子分化のための環境を提供するとともに、各種シグナルによって分化を促進すると考えられている。精原細胞のみを体外に抽出したin vitroの条件でも精子は一定率で分化するが、その効率は精巣内部に大きく劣ることが確かめられている。



精原細胞から精細胞への分化過程にある細胞は、常にデスモソームやギャップ結合、接着結合を介してセルトリ細胞に接しながら、セルトリ細胞の細胞間隙を基底膜から内腔側へと移動する。内腔まで至った精細胞は鞭毛を内腔側に伸長していくにつれてセルトリ細胞の奥深くに貫入し、核の近くにまで迫る。セルトリ細胞の側ではApical Ectoplasmic specialization(ES) と呼ばれる構造が精細胞との接着面とアクチン繊維とをつなぎ留め、薄いArmの形態を支えている。



最終的に十分成熟した精細胞はアクチン―ミオシンモーターの力で内腔側へ押し返され、セルトリ細胞が精細胞の細胞質の大半を食作用によって回収し、精子は精細管内腔に放出される。放出された細胞質を残余体と呼ぶ。



セルトリ細胞はまた、内分泌されたFSH(卵胞刺激ホルモン)やテストステロンのシグナルを受容し、精細胞に転送する働きを持つ。シグナルを受容したセルトリ細胞はビタミンAを傍分泌し、精原細胞A型からA1型という段階への分化を促す。


 


○血液精巣関門



セルトリ細胞同士の密着結合とそれに結合するBasal ESは、血液精巣関門(Blood testis barrier : BTB)を形成する。血液精巣関門は血漿成分を完全に遮断するため、関門を超えて内腔側に移動した細胞は、すべてセルトリ細胞からの栄養供給を受ける。具体的には、例えば鉄イオン輸送に関して、セルトリ細胞がトランスフェリンを産生して鉄を集め、それを内腔側に放出していることが知られている。セルトリ細胞には精細胞の不要物を回収する働きもあり、グルタチオン還元酵素やCYP450といった薬物代謝酵素群の発現が顕著に高くなっている。



精原細胞からの分化過程での細胞移動の際には、セルトリ細胞は適切に密着結合やESの構造を組み替えて関門を乱さずに通過させることができる。一方で、血液精巣関門は免疫細胞や抗体を通過させないため、精細管の中は免疫の無い状態が維持され、免疫細胞による精子の攻撃が抑えられている。精子の形成が始まるのがすでに免疫寛容が終了した生誕後であるため、免疫細胞は精子を異物と認識してしまうのだ。睾丸の怪我で免疫細胞と精子が接触してしまうと精巣炎を発症し、最悪の場合男性不妊に陥るらしい。



セルトリ細胞は別個体に移植されても生存し、またともに移植された細胞をも免疫反応から守る働きがあるため、放出する物質によって化学的にも免疫阻害を行うと考えられている。具体的にはアポトーシス阻害物質(SERPINA3N)や補体阻害(CD55ほか)、抗炎症サイトカイン(TGFB1)などが報告されている。この機構をうまく利用して、糖尿病患者にインスリン放出β細胞とセルトリ細胞を移植するなどの医療応用が可能で

あろうと考えられている。


○幹細胞ニッチ


精巣において、幹細胞はセルトリ細胞と精細管基底膜との間の”幹細胞ニッチ”に所在しており、セルトリ細胞はGDNF(グリア細胞由来神経栄養因子)を放出することによってこの幹細胞ニッチを支えている。


GDNFは幹細胞の分化を抑制し、自己複製を促進する働きを持つ。GDNFの放出はFSHやFGF2による正の制御と、幹細胞が膜に生やしているNotchリガンド(DLL/JAG)の負の制御によって調節されている。幹細胞の増加はセルトリ細胞のNotchシグナルを活性化し、GDNFの放出抑制を引き起こす。幹細胞の減少はこの逆の効果を生み出すことで、幹細胞の数が維持されている。


index

図2 幹細胞の維持








○参考文献

・The Sertoli Cell: one hundred fifty years of beauty and plasticity (L. R. Franca. et al., 2016)


精子
(Spermatozoon)


○精子とは


精子は男性の生殖細胞である。頭部と尾部とに大別され、頭部は先体と核から、尾部は頸部、中片部、鞭毛から成る。頭部・尾部の長さはそれぞれ5μm、50μm程度であり、精巣で毎日一億個ほどが生産されている。

動物のみならずシダ・コケ・藻なども精子を保有しており、これらを総称して英語では「Sperm」と呼ぶ。中でもヒトのように単一の移動性鞭毛を保有するものを「Spermatozoon/Spermatozoa(複)」と呼び、藻の精子のように移動しないものを「Spermatium」という。


図1 精子の構造 英語版Wikipediaより



○精子の頭部


精子の移動先端には、精子核の帽子のような構造体、先体(アクロソーム)が位置している。先体はゴルジ体が変化して生じた細胞小器官であり、ヒアルロニダーゼ等の加水分解酵素群を含む。これらの酵素は受精の際に卵膜を通過する反応、先体反応に必要である。卵子が細胞膜の周囲に纏う透明帯が精子と接触すると、先体反応が発生する。

精子の核は一倍体であり、常染色体を核一本ずつと性染色体を一本(XorY)で、合計23本の染色体を含んでいる。それぞれの染色体はDNAのCpGアイランドに適切なメチル化を受けており、受精後の発現が抑制される。これをゲノム刷り込み、もしくはゲノムインプリンティングという。また精子のヌクレオソームヒストンは塩基性アルギニン残基に富んだプロタミンというタンパク質に90%程度置換されており、DNAは高度に凝集している。

核と頸部の間は後輪(Posterior ring)と呼ばれる構造が観察され、また核の脇には先体から頸部に向かうManchetteと呼ばれる微小管の束が存在し、物質輸送に関与している。

○精子の尾部


核の直下にある精子で最も細い領域を頸部という。頸部には二本の中心小体(27本の微小管から成る円筒構造)が存在し、核に近いものを近位(proximal)中心小体、それと垂直に交わっているものを遠位(distal)中心小体と呼ぶ。卵子は中心小体を持たないため、受精後には二本の中心小体が二つの細胞分裂極として機能する。

Centriole
図2 頸部の二本の中心小体
The sperm centrosome: its role and significance in nature and human assisted reproduction より


頸部の直下にあり、10-14層のらせん状に連なったミトコンドリアが位置する領域を中片部という。Jensen ringもしくはRing centrioleと呼ばれる構造が鞭毛部との境界に存在し、物質の行き来を妨げている。

頸部の遠位中心小体=基底体を構成する微小管が長く伸びたものが、鞭毛の軸糸につながっている。中心小体が微小管のマイナス端、軸糸先端がプラス端である。軸糸は中央に2本の中心微小管と、その周りに2本の微小管9対(周辺微小管)が囲った9+2構造をとっており、間を架橋するモータータンパク質ダイニンがATPのエネルギーによって波打ち運動を起こしている。精子は鞭毛運動による推進力を利用して分速数ミリメートルの速度で移動することができる。鞭毛の先端部は細胞膜が存在せず、裸の状態で外部に露出している。

○精子の形成


精子は、精巣にびっしり詰まった精細管の中で精原細胞から分化する。Spermatogenesisと呼ばれるこの過程はおよそ74日かかると考えられている。

まず精細管の基底膜に接触しているA型精原細胞が有糸分裂によってB型精原細胞となり、少し内腔側に移動したB型が有糸分裂で一次精母細胞となり、そして減数第一分裂で二次精母細胞となり、最後に減数二次分裂で精細胞、成熟して精子となる。この精子の分化過程はすべてセルトリ細胞に接触して起きており、分化の段階を経るごとに精管の基底膜から内腔へと移動していく。

セルトリ細胞同士は密着結合と、精巣特異的なESと呼ばれる細胞接着により、細胞間隙からの免疫細胞や物質の行き来を妨げており、これを血液精巣関門 Blood testis Barrierと呼ぶ。精母細胞が分化して内腔へ向かう際には既存のBTBが分解されて新たなBTBが基底膜側に作られるため、精母細胞はBTBを乱さずに通過することができる。

精細管内腔まで到達した丸い精細胞を、英語ではSpermatidと呼び、SpermatidからSpermatozoon(精子)に分化する過程をSpermiogenesisという。25日程度を要するSpermiogenesisはゴルジ体期、先体期、鞭毛形成期、成熟期の四段階に分けられる。ゴルジ期にはミトコンドリアとゴルジ体が反対側に移動して極性を生むと同時に核の高度凝集が起こり、先体期、鞭毛期にはそれぞれの構造が形成され、成熟期になるとリボソームなどの不要な細胞質を含む小胞、残余体が放出され、セルトリ細胞の食作用を受ける。残余体を失うまでは精細胞同士は細胞質を介して互いに繋がっている。


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図3 精子分化
 基底膜(1)から内腔側に移動しつつ分化(2~6)する。精細胞は分化中常にセルトリ細胞(7)に接触し、セルトリ細胞同士は血液精巣関門(8)を形成している。

○精子の旅

精子は、精巣において精原細胞が減衰分裂することによって生じる。発生した精子ははじめ運動能を持たないが、精巣上体に排出されてから成熟し、やがて運動能を獲得する(Maturation)。精巣上体は精管につながっており、射精管、尿道へと続く。精子は運動能を獲得したのちも、精巣上体から尿道までの移動は平滑筋による蠕動運動で輸送されている。

精子は射精によって対外に放出されたのち、女性の体内に入った場合、卵子に引き寄せられて卵管を移動し、やがて受精に至る。細胞がある方向に誘引されることを走化性と呼ぶが、精子の走化性の原因物質は黄体ホルモンのプロゲステロンが候補として考えられている。

○無精子症


男性精液中に精子が観察できない状態を無精子症と呼び、男性の1%が罹患していると考えられている。物理的に精管が閉塞している状態を閉塞性無精子症、精子形成不全を非閉塞性無精子症と分類することができる。非閉塞性の大きな原因の一つは高プロラクチン血症である。プロラクチンは、脳下垂体前葉から放出されるタンパク質ホルモンであり、生殖行動を女性的に促進する働きを持つ。

非閉塞性無精子症の不妊治療としては、かつては第三者から提供を受けるしか手段がなかったが、現在は精巣を手術することで3~4割の患者に若干の精子が認められることが明らかになった。




○参考文献

・Current biology 「Spermatogenesis」(Hitoshi Nishimura, 2017)
・The sperm centrosome: its role and significance in nature and human assisted reproduction ( 2011)
・ヒト精子の超微形態と妊孕性(年森清隆、2008)
・筑波大学下田臨海センター稲葉研究室ホームページ
・Wikipediaの項目
 Spermatozoon 

肺胞上皮細胞
(Pneumocyte)


○肺胞上皮細胞とは

肺において血液ーガス交換を担っている肺胞の上皮細胞は、扁平なI型肺胞上皮細胞と、四角いII型肺胞上皮細胞という二種類の細胞から構成される。


I型肺胞上皮細胞は70平方メートルにも及ぶ肺胞の表面積の95%を占めており、酸素と二酸化炭素を交換する働きを持つ。一方、5%を占めるⅡ型肺胞上皮細胞は肺サーファクタントを分泌することで肺胞を表面張力から守り、肺胞の形態を維持する役目を果たしている。また、Ⅱ型肺胞上皮細胞はACE2というタンパク質を細胞膜に発現しており、コロナウイルスとの関連が注目されている。



Alveolar-sac-01

図1 肺胞
 https://embryology.med.unsw.edu.au より引用
 alveolus: 肺胞
 alveorar tyoe 1 cell :Ⅰ型肺胞上皮細胞
alveorar tyoe 2 cell :Ⅱ型肺胞上皮細胞


○血液空気関門


I型肺胞上皮細胞は厚さ0.2μmの扁平な形態をとり、片面が肺胞(外気)に、基底膜を介してもう片面が毛細血管に接触している。細胞小器官はあまり発達しておらず、異物を取り込む飲作用小胞=ピノソームのみ観察される。



隣接する肺胞上皮細胞は密着結合しているため、隙間からの無制御な物質交換は無く、すべて肺胞上皮細胞、基底膜、血管内皮細胞を経由することとなる。これを血液空気関門と呼び、その厚さは約2.0μmである。密着結合には組織液の流出を防ぐ働きもある。


Ⅰ型肺胞上皮細胞は外気からの毒などの刺激を受けやすく、したがって傷つきやすいが、自身には分裂能がない。傷ついた場合にはII型肺胞上皮細胞がI型肺胞上皮細胞に分化して置き換わることによって、傷を修復する。


○酸素と二酸化炭素の交換


空気に触れているⅠ型肺胞上皮細胞は末端組織に比べてO2濃度が高くCO2濃度が低く保たれており、毛細血管を流れる赤血球のヘモグロビン酸素解離曲線に従って酸素を受け取ることができる。


無極性分子である酸素は細胞膜や基底膜を容易に通過するため、酸素の交換には特別なチャネルやトランスポーターを必要としない。二酸化炭素も酸素と同様に膜を通過することができるが、I型肺胞上皮細胞は分化の過程で二酸化炭素の透過能を二倍に向上させることが知られている。この機構には水チャネルのアクアポリン5が関与するという。

○肺サーファクタント

肺胞上皮の外気側には上皮被覆液と呼ばれる水の層が存在し、その表面張力は表面積を小さくする向き、すなわち常に肺胞を縮める向きに働いている。Ⅱ型肺胞上皮細胞は肺サーファクタントと呼ばれるリン脂質(界面活性剤)を分泌し、水層の表面を覆うことによって表面張力を弱め、肺胞の形態を支えている。


図 肺サーファクタントは上皮被覆液の表面張力を弱める。



○ACE2とTMPRSS

ACE2は、新型コロナウイルスやSARSの表面のスパイクタンパク質と結合しする受容体として注目されているタンパク質であり、スパイクタンパク質を切断するプロテアーゼであるTMPRSSと共に、新型コロナウイルスの細胞内侵入を促す分子として注目されている。TMPRSSによる切断を受けたウイルスタンパク質は活性化され、細胞内侵入が可能となる。


ACE2とTMPRSSの両方を細胞膜上に発現している細胞は、Ⅱ型肺胞上皮細胞や気管支細胞、鼻粘膜細胞、腸管の吸収細胞を挙げることができる。したがって、肺胞に至った新型コロナウイルスはACE2、TMPRSSを介してⅡ型は肺胞上皮細胞に侵入し、増殖することが想定される。


ACE2とスパイクタンパク質の結合を阻害し、侵入を防ぐ薬剤であるナファモスタットが、ウイルス感染を防ぐ薬剤になるのではないかとして注目されている。


○参考文献

・呼吸器系組織の創出に向けた基礎研究の進展 田所友美
・二酸化炭素の細胞膜透過に関る「CO_2チャネル」は存在するのか?  -科研費
・呼吸器とアクアポリン(日本小児アレルギー学会、2001)
・急性肺損傷(ALI),急性呼吸促迫症候群(ARDS)の 病態と診療 -藤島清太郎
・Wikipedia
   Ⅰ型肺胞上皮細胞
   肺胞
   Pulmonary alveolus
 急性呼吸窮迫症候群
・東大保健センター 研究紹介

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HeLa細胞
(HeLa cell)

○HeLa細胞とは


HeLa細胞は、ヘンリエッタ=ラックスという黒人女性の子宮頸癌を由来とする細胞株である。1951年に確立されたHeLa細胞はヒト培養細胞の中で最も長い歴史を持ち、分裂の速さや環境変化に対する生存力の強さ、付着細胞であることが培養を容易にしているため、現在でも多くの研究室でin vitroモデルとして用いられている。

HeLa

図1 HeLa細胞
 DNAをHoechestという色素によって染色したもの。左側の細胞は分裂期に入っている。




○不死化


通常のヒト細胞を組織から分離してシャーレ上で培養しようとする場合、何回かは分裂を繰り返すが、ある回数以上は分裂することができない。これをヘイフリック限界と言い、ヘイフリック限界を無視して無限に分裂を繰り返す細胞を,不死化した細胞、と呼ぶ。

ヘイフリック限界の分子的原因はテロメア短縮である。細胞周期を一周するごとにDNAは二倍に複製されるが、その両端を完全に複製することは不可能であり、DNAの両端に存在する「テロメア」という遺伝情報の乗らない繰り返し配列(TTAGGG)が分裂ごとに短くなっていく。テロメアは分裂カウンターの役割を果たすと言われ、5kbを切ると分裂周期は止まってしまう。ガン細胞などの不死化した細胞はテロメアを延長するテロメラーゼという酵素を多く発現しているため、ヘイフリック限界を回避できることが知られている。

○ヒトパピローマウイルス


HeLa細胞の場合、ヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮頚部に感染したことが不死化の原因であるとされる。HPVは二本鎖のDNAウイルスであって、複数のタンパク質をコードする(Open reading frame)配列を持つ。その中に位置するE6,E7と呼ばれるたんぱく質が不死化の原因になったと考えられており、それぞれp53,pRBの働きを阻害する。p53はDNA損傷や環境変化に応答して修復やアポトーシスを誘導するタンパク質であり、pRBはS期に進行させる転写因子E2Fと結合して抑制する働きを持つ。p53,pRBは共に著名ながん抑制遺伝子である。

さらにp53はテロメラーゼの発現を抑えることが報告(Xu, et.al, 2000)されており、結果としてE6はテロメラーゼの発現増強の原因の一つにもなっていると考えられる。

なお、長い歴史の中ですでにパピローマウイルスのDNAはHeLa細胞のゲノムに挿入されており、HeLa細胞を扱ってもウイルスに感染する心配はない。

○HeLa細胞の異数性

通常、細胞は1-22番の常染色体を2本ずつと性染色体2本で、合計46本(2n)の染色体をもつ。しかしながら、HeLa細胞は異数性であり、それより多くの染色体をもっていることがしられている。

下の図は2006年に発表されたHeLa細胞の染色体の様子であるが、全ての染色体が異常に多いことがわかる。染色体の本数は細胞ごとに異なり、平均して82本程度になっている。



図2 HeLa細胞の染色体数は異常である。
Smirnov et al., 2006 より


○HeLa細胞の培養


HeLa細胞は付着細胞であり、シャーレ(ディッシュ)の上で育てることができる。分裂はおよそ24時間に一回であり、シャーレ上を細胞が埋め尽くした状態を(100%)コンフルエントという。例えば今50%コンフルエントであれば、100%コンフルになるのは明日、と考えられる。HeLa細胞に限らず、コンフルエントに至ってしまった培養細胞は形質が変化することが経験的に知られているため、そうなる前に数を調整する必要がある。

シャーレに付着した細胞をトリプシン処理によって剥がし、数を減らして別の新しいシャーレに撒きなおす作業を「継代」と呼ぶ。継代もまた数をこなすごとに細胞の形質が変化するので、その回数を記録したり、継代回数の少ない細胞を冷凍保存しておく必要がある。

培地はE-MEM(最小必須培地)と呼ばれる液体にウシ胎児血清(FBS)を加えたものが用いられる。一般的に血清を加えないと細胞は分裂しないことが知られているが、その原因物質は成長因子であると推測されるが、特定はされていない。ただし、HeLa細胞はFBS無しでも分裂することができるともいう。

○まとめ

  • HeLa細胞は、60年前に確立された最古のヒト培養細胞

  • 黒人女性ヘンリエッタ=ラックスの子宮頸がん細胞が由来

  • パピローマウイルスの影響で不死化



〇参考文献

・<総説>ヒトの老化・ガンとテロメラーゼ 井出利憲・田原栄俊

・Downregulation of telomerase reverse transcriptase mRNA expression by wild type p53 in human tumor cells.
Xu,D et al  oncogene, 2000

・HeLa 商品詳細
http://www.saibou.jp/service/kensaku/detail.php?catalogno=EC93021013-F0

・細胞培養講座「血清はなぜ必要?」
http://www.saibou.jp/service/know07.php

・Wikipedia
テロメア
HeLa細胞
ヒトパピローマウイルス

好中球
(Neutrophil)

○好中球とは


好中球は、白血球の細胞の一つである。好酸球、好塩基球と共に顆粒球に分類され、細菌や真菌を捕食して、殺菌する働きを持つ。骨髄において造血幹細胞から分化し、成熟すると核が分葉する。

メチレンブルー(塩基性色素、青)、エオシン(酸性色素、赤)、azure Bの混合液による染色をギムザ染色という。血液にギムザ染色を用いると、好酸球はエオジンによって赤く、好塩基球はメチレンブルーで青っぽく、好中球は両者で赤紫に染まることから、それぞれの名が付けられている。

Blausen_0676_Neutrophil_(crop)
図1 好中球 英語版Wikipediaより




○分化と成熟


造血幹細胞、前駆細胞、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、桿状核球、分葉核球=好中球、の順に分化成熟する。骨髄芽球までは好酸球、好塩基球に分化する可能性を残すが、前骨髄球以降は好中球への分化が運命づけられている。分化の各段階でその数を増加させており、一つの造血幹細胞から生じる好中球はおよそ300億個である。


480px-Bloodcelldifferentiationchart(Japanese)

図2 造血幹細胞の分化 Wikipediaより

好中球は四種類の顆粒を持っており、前骨髄球の段階で生じる顆粒のことを一次顆粒(アズール顆粒)と呼ぶ。その後、骨髄球まで分化すると二次顆粒が生じ、桿状核球で三次顆粒、分葉核球に至って分泌顆粒が生じる。一次~三次顆粒は食胞と融合して細菌を殺すために用いられる。一方、分泌顆粒は”分泌”と名がついている通り、細胞膜と融合する顆粒である。ATPなどの顆粒内物質を分泌することのほかに、分泌顆粒の膜に刺さっている様々な受容体を炎症に応答して表出させる働きを持つ。


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図3 分泌顆粒

体内の好中球のうち、末梢血を流れている循環プールはおよそ半数で、もう半数は脾臓や肝臓に辺縁プールとして蓄えられている。さらに骨髄にも前駆細胞を合わせた大量の滞留プールがあり、緊急事態への備えとなっている。感染症や炎症反応で放出された各種物質の刺激を受けると、プールから好中球が血液に流入し、その機能を果たす。


○好中球による防御


好中球は、体に侵入した細菌類に対する防御の役割を果たしている。ただし、細胞寄生細菌や細胞内ウイルスに対しては無力である。


細菌が侵入すると、まずは末梢に位置するマクロファージや樹状細胞が貪食し、インターロイキンを放出して炎症反応を引き起こす。すると血管内皮細胞の透過が亢進され、血液中を流れていた好中球が組織へと浸潤するようになる。さらに炎症した細胞はケモカインを放出しているため、浸潤した好中球は受容体を介してシグナルを受け取り、アクチン骨格を形成することによってケモカイン濃度が高い方、すなわち炎症部位へと遊走する。


そして好中球が細菌に接近すると、膜上の受容体によって細菌の細胞膜/細胞壁、もしくは付着した抗体IgG(オプソニン)や補体を認識し、貪食を開始する。細菌が取り込まれて形成された袋を食胞と呼び、そこに顆粒を融合させることによって殺菌処理がなされている。


殺菌の方法は活性酸素を用いるものと、用いないものとに大別される。酸素依存性の機構においては、好中球はNADPH(還元剤)を材料として過酸化水素/活性酸素を合成し、アズール顆粒(一次顆粒)内のミエロペルオキシダーゼがCl−イオンを用いて亜塩素酸を合成する。亜塩素酸は強力な酸化剤として細菌の様々な物質を無差別に酸化するので、細菌は死ぬ。


非酸素依存機構には細胞壁を分解するリゾチーム(三次顆粒)、細菌の生存に必要な鉄を奪うラクトフェリン(二次顆粒)、プロテアーゼの一種であるエラスターゼ(一次顆粒)などがある。


細菌を貪食して殺害したのちに好中球もアポトーシス(自発的な死)し、マクロファージに食されるか、膿となって体外に出される。

○まとめ

  • 酸性色素・塩基性色素の両方に染まる顆粒球を、好中球という。

  • 造血幹細胞から分化する。

  • 身体に侵入した細菌を殺菌するはたらきを持つ。




〇参考文献

・第75回日本血液学会学術集会
 教育講演5 好中球分化異常と疾患  平位秀世
 http://www.myschedule.jp/jsh2013/detail.php?session_unique_id=EL-05&sess_id=8&strong=1
・Wikipedia 好中球

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