樹状細胞
Dendritic cell
目次
樹状細胞とは
樹状細胞は、細菌やウイルス、腫瘍などの非自己を認識・貪食して抗原提示を行い、ナイーブT細胞を活性化する役割を持った免疫細胞である。1973年にスタインマン博士により発見され、樹枝のような突起が見られることから「樹状細胞」と名付けられた(2011、ノーベル医学生理学賞)。
免疫系や皮膚など、全身に広く分布している。皮膚の樹状細胞は特にランゲルハンス細胞と呼ばれる。
樹状細胞のタイムラプス映像
樹状細胞の分化
樹状細胞(DC)は骨髄の造血幹細胞から分化し、一週間程度で入れ替わり続けていると考えられている。樹状細胞の分化は、
- 造血幹細胞(HSCs, Haematopoietic stem cell)
- 多能性前駆細胞 (MPP, Multipotent progenitor)
- 共通ミエロイド前駆細胞 (CMP, common myeloid progenitors )
- 単球-DC前駆細胞 (MDP, monocyte–DC progenitors)
- 共通DC前駆細胞 (CDP, common DC precursor )
- 樹状細胞前駆細胞 (pre-DC)
- 樹状細胞 (DC, Dendritic cell)
という段階に分けられる。
(参考文献:Genetic models of human and mouse dendritic cell development and function, Nature immunology(2020))

多能性前駆細胞(MPP)は造血幹細胞が分裂して生じる二つの娘細胞のうち、自己複製能を有さないが多能性を有する細胞である。MPPはリンパ球へ分化していくリンパ系共通前駆細胞(CLP)か、それ以外の細胞に分化する共通ミエロイド前駆細胞(CMP)かのどちらかに分化する。
その後、CMPが単球・マクロファージと同じ分化の系統を辿り(MDP)、MDPがFlt3Lを受容すると共通DC前駆細胞(CDP)に、M-CSFの存在下では単球へと分化する。単球はさらに、炎症時にはGM-CSF依存的に単球由来前駆細胞(moDC, monocyte derived DC)へと分化することができる。
CDPはpreDCへと分化し、preDCは最終的に樹状細胞となる。preDCの一部は血中を流れてリンパ組織で分化し、古典的樹状細胞(cDC, Classical DC)となり、また一部は骨髄で分化して形質細胞様樹状細胞(pDC, plasmacytoid DC)となる。
樹状細胞の分類
古典的樹状細胞 (cDC)
preDCが骨髄から血中に入り、リンパ節などの二次リンパ組織で分化して生じた樹状細胞を、古典的樹状細胞という。外来の異物を貪食して抗原をMHCに提示し、ナイーブT細胞を活性化する役割を果たしている。
形質細胞様樹状細胞 (pDC)
骨髄に留まっていたpreDCが分化して生じる樹状細胞を、形質細胞様樹状細胞(pDC) という。
エンドソームにToll様受容体であるTLR7とTLR9を高発現しており、ウイルス由来の核酸を認識(TLR7:一本鎖RNA、TLR9:CpG)するとMyD88、NFκBの活性化を介して大量のI型インターフェロンを産生するという特徴を持つ。
単球由来樹状細胞 (moDC)
単球から分化する樹状細胞を、単球由来樹状細胞(moDC)と呼ぶ。ウイルスの感染時や炎症時、がん周辺でその数が増加し、キラーT細胞を活性化する。
樹状細胞の活性化
未成熟樹状細胞
安静時の樹状細胞は未成熟樹状細胞と呼ばれ、免疫を抑制する向きに働いている。制御性T細胞(Treg細胞)を誘導し、また共刺激分子を持たないことで、T細胞のアナジー(抗原に反応できない状態)を引き起こす。
未成熟樹状細胞は貪食能はあるものの、MHCクラスⅡ分子や共刺激分子の発現量が低く、ナイーブT細胞を活性化することはできない。
微生物が感染すると、感染部位に集積した好中球やマクロファージが放出するTNFαなどの炎症性サイトカイン、微生物由来の成分を認識した樹状細胞のToll様受容体からのシグナルによって樹状細胞の活性化がひきおこされる。
成熟樹状細胞
活性化(成熟)した樹状細胞では、MHCクラスⅡや共刺激分子の発現増強、抗原プロセシングの増強、ナイーブT細胞の活性化を促進するIL-12などのサイトカイン分泌増強が起こり、抗原提示の能力が向上する。また細胞骨格も変化し、名前の由来にもなった樹枝のような突起が形成される。
樹状細胞の働き
MHCクラスⅡを介した抗原提示
成熟した樹状細胞はケモカインであるCCR7に誘導されてリンパ管に入り、リンパ節へと移る。そして取り込んだ異物(細菌など)をリソソーム内のカテプシンなどの酵素で加水分解して産生した抗原ペプチドを、MHC(主要組織適合抗原)上に提示する。

樹状細胞は、異物(A)をエンドサイトーシスによって取り込み、リソソーム(D)で分解・プロセシングして、MHCクラスⅡ(緑)に乗せて細胞膜上に提示する(H)。
出典:Wikipedia
樹状細胞はMHCクラスⅡを介してナイーブT細胞に抗原を提示し、また同時に適切なサイトカインを分泌することで活性化を誘導し、エフェクターT細胞へと変化させる。
MHCクラスⅠ (クロスプレゼンテーション)
樹状細胞は、取り込んだ異物をMHCクラスⅡだけでなくMHCクラスⅠにも提示することができる。この現象を「クロスプレゼンテーション」という。MHCクラス2は抗原提示細胞のみが発現するのに対し、MHCクラス1は全ての細胞が発現し、細胞の内容物を提示する分子である。ウイルス感染時などに提示された異常な抗原を認識するキラーT細胞(CD8+)を活性化する役割を持つ。
樹状細胞はがん細胞やウイルス感染細胞などの異常な細胞を食し、内容物をMHCクラス1にクロスプレゼンテーションすることでキラーT細胞を活性化し、異常な細胞の傷害を促進していると考えられている。
マクロファージと樹状細胞の違い
マクロファージと樹状細胞は機能が似ているが、マクロファージは異物の貪食に特化し、樹状細胞は抗原提示に特化した細胞であるといえる。
どちらも組織に存在し、外来の異物をエンドサイトーシス(貪食)してMHCクラスⅡ分子に抗原提示を行う。樹状細胞の方がよりリンパ節に移行しやすく、また活性化することで多くのMHCクラスⅡを発現し、高い抗原提示能を示す。
参考文献
Monocyte-Derived Dendritic Cells Dictate the Memory Differentiation of CD8+ T Cells During Acute Infection (Front. Immunol., 16 August 2019)
自己免疫をより理解するための免疫学 第8回 樹状細胞
https://www.jbpo.or.jp/med/jb_square/autoimmune/immunology/im08/01.php
樹状細胞と免疫療法 アレルギー 63(7) 914-919, 2014
Dendritic Cell – Antoine Tanne, Nina Bhardwaj, in Kelley and Firestein’s Textbook of Rheumatology (Tenth Edition), 2017
休み時間の免疫学 第3版 講談社

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。