○巨核球とは
巨核球は、血小板の前駆細胞である。血小板は巨核球の細胞質がちぎれることによって形成される。巨核球は分裂することなしに遺伝子複製を行うため、遺伝子を64Nか32Nも保有(一般の細胞は2N)し、巨大な核を持つ。細胞の直径は40µm~160µmと、赤血球(7µm)に対して圧倒的に大きく、骨髄最大の細胞である。
造血幹細胞を始まりとし、骨髄性前駆細胞や巨核芽球を経て巨核球に分化する。一つの巨核球からは1000個もの血小板が産生され、全ての細胞質を失って裸核となるに至り、マクロファージに食される。
関連:造血幹細胞
図1 巨核球 Wikipediaより
骨髄の標本であり、巨核球は矢印で示されている。
○トロンボポエチン
トロンボポエチンは、造血幹細胞から巨核球への分化を促す主要なシグナル分子である。トロンボポエチンは主に肝臓で分泌されて血中を流れている60kDa程度の糖タンパク質であり、血小板が不足した際は骨髄や脾臓にてさらに産生される。トロンボポエチンが造血幹細胞の膜上にあるc-mplという受容体に受容されると、受容体は2量体化してチロシンリン酸化、JAK-STAT経路の活性化が起こり、分化方向へシグナルが伝わる。
c-mplは分裂を誘導する働きがあることから、がん原遺伝子(Proto-Oncogene)に分類される。レトロウイルスの一種、骨髄増殖性白血病ウイルス(MyeloProliferative Leukemia virus)が持つ、v-mplという遺伝子との相同性からこの名がつけられた。
トロンボポエチン以外にも、数種のインターロイキンやエリスロポエチンも血小板産生の方向に働く。
エリスロポエチンは赤血球の分化を誘導する因子として知られているが、トロンボポエチンと構造・機能がともに類似している。
○細胞内分裂(endomitosis)
巨核球は幹細胞(2N)からの分化の過程で細胞質分裂を伴わない細胞周期サイクルを回していき、遺伝子量を増大させる。この機構を細胞内分裂(endomitosis)という。
図2 endomitosis
https://www.researchgate.net/figure/RhoA-coordinates-cytokinesis-of-promegakaryocytes-and-endomitosis-of-megakaryocytes-by_fig1_255737220 より引用
巨核球の細胞周期において、G1期、S期、G2期は通常と同じであり、S期にDNAは2倍に複製される。分裂期も分裂中期=Metaphase、分裂後期=Anaphase onsetまでは普通であり、染色体は凝集して中央に並び、紡錘体によって両側に引っ張られる。ところが中央に位置するアクチン収縮環が消滅しないために細胞質分裂を起こすことができず、やがて再び細胞は丸くなり、多核化する。アクチン収縮間の消滅にはRhoAというGタンパク質がかかわっており、巨核球においてはRhoAが働いていない。

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。