周皮細胞は、毛細血管と小静脈において内皮細胞を囲うように存在する、多能性間葉系細胞である。
血管形成や毛細血管の構造維持、血流の調節に関与し、脳においては神経血管単位を成して血液脳関門の維持に働く。非毛細血管の構造を支えている平滑筋細胞と合わせて、血管壁細胞ともいう。
周皮細胞の核は楕円形であるため、扁平な血管内皮細胞とは明確に区別することができる。周皮細胞は血管内皮細胞と直接接触しており、傍分泌やギャップ結合によってシグナルを伝えている。
図1 周皮細胞は内皮細胞の外側に位置する細胞である。
Mills et al., 2013 を日本語に翻訳
関連:血管内皮細胞
○PDGFと周皮細胞
周皮細胞が血管内皮細胞の近傍に集積するためには、血管内皮細胞が分泌するPDGF-B(血小板由来政調因子)が重要な役割を果たすことが知られている。PDGF-Bは241アミノ酸から成るタンパク質であり、周皮細胞の膜状に位置するPDGFR-βという受容体に受容され、増殖・移行が促進される。
特に血管新生の場面において、周皮細胞は盛んに集積する。「血管新生」は既存の血管が枝分かれを起こす現象のことを意味し、創傷治癒や子宮、がんにおいて観察される。
血管内皮細胞が分泌するPDGF-Bによって新生血管の近傍に移行した周皮細胞は新生血管の構造を安定化する。またそれと同時に、周皮細胞はVEGF(血管内皮増殖因子)やAngiopoietin-1を分泌して血管内皮細胞の分裂を促す。また、VEGFを受容した内皮細胞はMMP(マトリックスプロテアーゼ)を放出して基底膜を分解するため、さらに周皮細胞は血管新生を促進する働きも果たしている。
図2 血管新生(Angiogenesis)と脈管形成 (Vasculogenesis)
○血液脳関門
脳においては、周皮細胞は血液脳関門を調整する働きを持つ。血液脳関門とは、血液から脳に流入する物質を規定している機構のことである。血液に触れている内皮細胞が密に密着結合することで間隙からの無制御な物質通過を許さず、細胞膜上のABCトランスポーターやチャネルが選択的な物質交換を行う。また、脂溶性が高い分子は細胞膜を透過して、関門を通過することができる。
グルコースを例とすれば、血管内皮細胞は血液側に発現したSGLTによってグルコースを取り込み、脳側膜上に発現したGLUT1によって脳の側に供給することができる。血液脳関門はほかのエネルギー源である脂肪酸は通過させないため、脳にとってグルコースが唯一の栄養源となり、血糖値の維持が脳の機能にとっては重要となる。グルコースのほかにもアミノ酸等が脳内に取り込まれ、神経伝達物質等の不要物が血中に入る。
血液脳関門において、内皮細胞の周囲には周皮細胞、その周りにはアストロサイトが存在している。周皮細胞はAngiopoietin1というタンパク質を発現しており、血管内皮細胞の細胞膜上の受容体(Tie2) と結合することにより、血管内皮細胞の密着結合関連の遺伝子発現や細胞分裂を誘導している。周皮細胞を無くした条件においては、血液脳関門が形成されないことが報告されている。
○周皮細胞の分化
周皮細胞は中胚葉由来の細胞であり、平滑筋細胞と前駆細胞を共通している。また周皮細胞自身も多能性間葉系細胞としての側面を持ち、骨芽細胞、マクロファージ、神経細胞、オリゴデンドログリア、脂肪細胞、シュワン細胞、線維芽細胞への分化能が認められている。
関連: 骨芽細胞 マクロファージ 神経細胞 オリゴデンドログリア 白色脂肪細胞 シュワン細胞 線維芽細胞
○関連項目
〇参考文献
・Pericytes promote endothelial cell survival through induction of autocrine VEGF-A signaling and Bcl-w expression(2011); Marcela Franco et.al.
・タカラバイオ 製品概要
http://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.php?unitid=U100007073
・Wikipediaの各項目
Pericyte
血液脳関門
・なぜ周皮細胞か? 吾郷哲郎
・Pericytes regulate the blood–brain barrier(2010), Annika Armulik et.al
・脳科学辞典 血液脳関門

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。