ヒトの全細胞

ヒトの体は37兆個の細胞から構成され、その種類としては約200種であると言われています。「赤血球」「神経細胞」「骨細胞」などの体内の細胞と、「iPS細胞」「HeLa細胞」などの培養細胞を解説します。

培養細胞

iPS細胞

投稿日:2020年6月24日 更新日:

iPS細胞
(Induced pluripotent stem cell)

iPS細胞とは

 iPS細胞は、複数の遺伝子を発現させることによって多様な分化能力(分化多能性)と無制限の自己複製能を獲得させた、体細胞由来の幹細胞である

京都大学の山中伸弥教授らによって2006年にマウス、2007年にヒト細胞から樹立され、2012年にノーベル医学・生理学賞が授与された。正式な日本語名称は人工多能性幹細胞という。「iPS」の名前はiPodのように普及してほしい、との願いから付けられている。

iPS細胞のコロニー
図 iPS細胞 (Cell, 2006)
山中教授のグループによってはじめて報告されたiPS細胞のクローンの画像

ES細胞の問題点

iPS細胞の開発以前、分化多能性を持つ人工的な幹細胞としてES細胞が作られており、1998年に作製されたヒト由来のES細胞が治療に用いられることが期待されていた。

しかしながら、①ヒト受精卵から樹立することへの倫理的問題②移植された人の免疫がES細胞を攻撃してしまう移植拒絶反応の問題が存在し、治療応用は困難であった。患者本人の体細胞から幹細胞を樹立する技術が求められていた

ローマ法王によるES細胞の批判
図 ES細胞への批判の例 : AFPの記事(2008年12月12日付)

iPS細胞の樹立

1990年代前半から、薬剤によってES細胞と融合した体細胞が多能性を獲得することが知られており、ES細胞の細胞質中に多能性獲得を誘導するタンパク質が含まれることが示唆されていた。

そこで、山中教授らはES細胞中に特徴的に発現する24の遺伝子を選択し、レトロウイルスを用いて体細胞(MEF細胞、マウス胎児線維芽細胞)に導入し、ES細胞特異的な転写因子を発現するようになるかを網羅的に調査した。

具体的な方法としては、ES細胞特異的な転写因子Fbx15の代わりに薬剤G418への耐性遺伝子を付けて、G418処理で生存する細胞(クローン)数を計測している。

24遺伝子の中から1つずつを導入してもES細胞状に変化することはなかったが、24遺伝子全てを同時に導入した体細胞はES細胞様に変化した。導入する遺伝子の数を徐々に減らし、ES細胞状への変化に必要なタンパク質を絞り込むことにより、最終的に4つの遺伝子がES細胞様への変化に必要だということが明らかになった。

この時明らかになった4遺伝子,[c-Myc, Kif4, *Oct3/4, Sox2]は山中4因子と呼ばれている。 後の研究では、山中4因子のほか、複数の組み合わせでのiPS細胞の樹立が可能であることなどが確かめられている。

*Oct3/4:1991年にOct3と名付けられ、同じ遺伝子が一か月後にOct4と名付けられたため、併記されている転写因子。一種類の遺伝子であり、ただ”Oct4″と表記されることも多い。

山中教授らは変化した体細胞をiPS細胞と名付け、ES細胞同様の多能性があることを明らかにした。マウスへの導入の翌年には、同様の手法を用いてヒト成人の真皮の線維芽細胞を用いたヒトiPS細胞の樹立に成功した。6歳から81歳まで様々な年齢のヒトからiPS細胞の作製に成功している。

iPS細胞の利用

再生医療

iPS細胞の応用技術として、iPS細胞から分化させた健康な細胞を体内に移植することで疾患を治療しようという、再生医療が期待されている。これまでにiPS細胞からは内胚葉・中胚葉・外胚葉(神経細胞など)由来の細胞のいずれにも分化できることが明らかとなっている。

またiPS細胞からは腎臓・肝臓・脳・腸などのミニチュア臓器(オルガノイド)を作製できることが報告されている。2016年にはマウスiPS細胞から毛包を含む皮膚オルガノイドが作製され、2019年には、発生過程を再現することで肝臓・胆管・膵臓の三つをまとめて作製できることが報告されるなど、現在も日進月歩研究が進んでいる。

毛の再生医療

図 マウス皮膚に移植したiPS細胞由来の皮膚(緑)から生えた毛
アデランスの研究開発 ホームページより

再生医療の治験はこれまでに加齢黄斑変性やパーキンソン病、心臓病、再生不良性貧血(血小板)の患者で実施されている。

創薬

iPS細胞は再生医療のほか、創薬にも応用されている。遺伝性の疾患をもつ患者の細胞から作製したiPS細胞を用いて、治療効果を持つ薬剤の探索が行われている。

例えば2020年6月には、家族性アルツハイマー病患者のiPS細胞を用いて効果が発見された薬剤の治験が始まった。研究に用いられた患者はプレセネリンという遺伝子に変異を持ち、アルツハイマーの原因物質であるアミロイドβが増えている状態にある。

既存のアミロイドβ低減薬は副作用の問題や認知症治療効果が現れなかったといった理由で実用化に至っていないが、すでに安全性が確認されているパーキンソン病の既存薬剤がアミロイドβを低減させることがiPS細胞の研究から判明し、アルツハイマー病の有効な治療薬となることが期待されている。

-培養細胞

執筆者:


  1. 音雨哀衣 より:

    かなり難しい分野ですが、凄く参考になりました❗
    私も、色々とは、お勉強をしておりますが、大学も出てないから、一つ一つ調べながらとなります❗
    宜しくお願い致します❗

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