ヒトの全細胞

ヒトの体は37兆個の細胞から構成され、その種類としては約200種であると言われています。「赤血球」「神経細胞」「骨細胞」などの体内の細胞と、「iPS細胞」「HeLa細胞」などの培養細胞を解説します。

結合組織に関する細胞

骨芽細胞

投稿日:2018年2月12日 更新日:

骨芽細胞
(Osteoblast)

○骨芽細胞とは

骨芽細胞は、骨を形成する細胞である。産生する有機物質はコラーゲンが主であるが、オステオカルシン、オステオポンチンもわずかに産生する。これらは骨の有機成分として、骨芽細胞が生み出す無機成分のハイドロキシアパタイト(Ca10[PO4]6[OH]2)を沈着させることで硬い骨となる。間葉系幹細胞から分化する。協働する同種の細胞の集まりは、骨単位と呼ばれている。

○骨の役割

骨の役割は、第一に身体の構造を支えることである。骨はコラーゲンを中心とする有機マトリックス(オステオイド)に無機物のハイドロキシアパタイトが沈着した構造をとっているが、前者は引き延ばされる負荷、後者が縮められる向きの負荷に対する強度を生み出している。

骨の役割の第二は体内にカルシウムやリン酸イオン濃度、及びpHの恒常性を維持することにある。

○骨リモデリング

骨は一見不変であるかのように思えるが、実際は一生の間、常に形成と分解を繰り返している。骨リモデリングと呼ばれているこの機構は、負荷を受けて傷ついた骨を修復し、高い強度を維持するのに役立つ。1年で20%程度が入れ替わっていると言われている。骨を形成する細胞を骨芽細胞、骨を破壊する細胞を破骨細胞と呼ぶ。

関連:破骨細胞

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図1 骨リモデリング
アステラス製薬のホームページより

骨リモデリングに関係するホルモンとしては、女性ホルモンのエストロゲンが重要である。エストロゲンは骨形成を促す働きを持っているため、閉経後の女性の骨形成低下は顕著であり、骨粗鬆症のリスクが増大する。不安定になった骨は折れやすく、骨折はQOLの大幅の低下を招くとして、ビスフォスフォネートをはじめとしたさまざまな薬が目下開発中である。

○分化

骨芽細胞は間葉系幹細胞から分化する。骨芽細胞は骨の外側部である緻密骨に多く表れるが、内部の海綿骨には少ない。この理由として、骨髄の脂肪組織が骨芽細胞への分化を抑制することが報告されている。

○コラーゲンと有機物質

骨に見られるコラーゲンは、Ⅰ型である。骨の長軸の向きに整列して線維が並んでおり、引き延ばしに対する強度を高めている。コラーゲンが中心であり、まだ無機物のついていない形成途中の骨を類骨と呼ぶ。

オステオカルシン・オステオポンチンはコラーゲンと無機的基質をつなぐ役割を持つと考えられているが、ノックアウトマウスで何も問題がなかったと報告されており、はっきりとはわかっていない。骨形成のマーカーとして用いられている。また、オステオカルシンは膵臓β細胞でのインスリン分泌、脂肪細胞からのアディポネクチン分泌を促すホルモンとしての役割も持っている。

○骨の石灰化

コラーゲンにリン酸カルシウムやハイドロキシアパタイトの結晶が沈着することを、骨の石灰化と呼ぶ。隣接する骨芽細胞が協働して石灰化を起こしており、反応が起こっている場所のことを石灰化前線と呼ぶ。石灰化は以下の反応による。

 6(HPO4)2− + 2 H2O + 10 Ca2+ ⇌ Ca10(PO4)6(OH)2 + 8 H+

骨芽細胞は密着結合によって細胞外液と骨を完全に分けており、カルシウム(促進拡散)やリン酸のイオン濃度(能動輸送)を精密に制御することで、反応を制御している。また右向きの反応を促進させるために骨の周辺のプロトン濃度は低く保たれ、アルカリ性となっている。

全ての骨芽細胞が骨形成を起こしているわけではなく、多くの細胞は既存の骨の表面で休止していることが知られている。活動中の骨細胞にのみアルカリフォスファターゼという酵素が発現しており、マーカーとして用いられている。

○まとめ

・骨芽細胞は、Ⅰ型コラーゲンとヒドロキシアパタイトを分泌して骨を形成する。
・環境をアルカリ性に保つことで骨の石灰化反応を促進する。
 
・間葉系幹細胞から分化する。

〇参考文献

Qシリーズ 新組織学

アステラス製薬 骨粗鬆症はなぜ起こるの?

・Sciencedirect Osteoblast

-結合組織に関する細胞

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