胃小窩細胞
(Foveolar cell)
○胃小窩細胞とは
胃小窩細胞は、胃の単層円柱上皮細胞である。持続的に粘液を分泌することで細胞が塩酸や消化酵素に分解されることを防ぐ。表層に位置するものを表層粘液細胞(上皮細胞)、胃腺の上部に存在するものを頚部粘液細胞(副細胞)と呼ぶ。表層粘液細胞は粘液を分泌する働きとともに、内腔に微絨毛を持つ。
図1 胃腺の構造
胃小窩細胞はこの図の上皮細胞・副細胞に対応する。
○粘度
粘液は、その名の通りねばりがある液体である。粘り気が強いことを、粘度が高いと表現する。生物とは直接関係しないが、粘度の定義を以下に記す。
粘性のある物体(液体)を面積S、間隔hの2枚の平板に挟み、平板を相対速度Uで動かすと、動く方向とは逆向きに、剪断応力τが生じる。τは、実際に発生した力をFとしたときに、F/Sで表せる面積当たりの力である。それは間隔hの逆数と相対速度Uに比例し、
τ=F/S=μU/h
と表現できる。このμを粘度という。
粘度は温度に依存し、液体は温度が上がると低下する。
単位はPa・秒であるが、1Pa・秒=10P=1000cP(ポアズ)とする単位も用いられる。
主な液体の粘度を以下に示す。
図2 液体の粘度
出典:https://www.keyence.co.jp/ss/products/process/flowmeter/selection/viscosity.jsp
ちなみに血液の粘度は3~4 m(ミリ)Pa・秒程度である。
○胃粘液の粘度
胃粘液の剪断応力はUに比例しない(非ニュートン流体という)。したがって、各Uの値に対応してμが計算されている。
図3 胃粘液の粘度 出典はこちら
単位、CpはmPa・秒と等しい。胃粘液は、灯油やオイスターソースと同じくらいの粘度を持っているということがわかる。
さてこの論文によると、潰瘍を患った人のの粘液は高い粘度を示すことが報告されている。これは、潰瘍を患ったことを検知した胃が防御を固めているためと考えらえる。粘度が高ければ、容易には胃上皮から流れ出さず、粘液の厚い層を構成できると推定される。
○ムチン
粘液の主成分である糖たんぱく質を、ムチンという。ムチンは、アポムチンと呼ばれるコアタンパク(10~80残基)に多数の糖鎖が修飾した巨大分子である。コアタンパクは大半がセリン・トレオニンであり、そのヒドロキシ基を用いて糖鎖と脱水縮合を起こす。
糖鎖は単糖のヒドロキシ基どうしが脱水縮合してできるポリマーであるが、それぞれ数個のOHを持つために複雑な枝分かれも可能で、多様性を持つ。糖鎖がタンパク質を覆っていることで、水分子の保持やタンパク質分解酵素からの保護、粘性を可能としている。
一般に、ムチン濃度が増すと分子間相互作用が強化され、粘度が増すと言われている。
○炭酸水素イオン
胃小窩細胞は粘液と同時にHCO3-イオンを放出し、塩酸を中和する働きを持つ。この炭酸イオンは血中を流れているものを取り込む。この炭酸水素イオンのおかげで、胃酸が細胞に到達するまでにはpHが4を上回るようになって、細胞の障害とペプシンの活性化を防いでいる。
○参考文献
・Wikipedia
Foveolar cell

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。