ヒトの全細胞

ヒトの体は37兆個の細胞から構成され、その種類としては約200種であると言われています。「赤血球」「神経細胞」「骨細胞」などの体内の細胞と、「iPS細胞」「HeLa細胞」などの培養細胞を解説します。

肝臓の細胞

肝細胞

投稿日:2020年1月24日 更新日:

肝細胞
(Hepatocyte)

肝細胞とは

肝細胞は、肝臓を構成する細胞の大多数を占め、肝臓の機能を担う細胞である。糖質の調整・脂肪合成・タンパク質代謝・解毒・アルコール代謝・胆汁の分泌など、様々な働きを果たしている。”肝実質細胞”ともいう。

肝細胞の役割

図1 肝細胞の働き
肝細胞は肝臓において、栄養調節や物質代謝、胆汁分泌を行っている。

肝臓の構造

肝臓は、およそ1㎏程にもなる大きな臓器である。血液の成分を調整する働きがあり、小腸で吸収された成分はすべて門脈を通って肝臓に流れ、肝細胞による代謝を受けている

門脈は栄養に富むものの、酸素はすでに小腸で消費しつくされている。そのため、肝臓には大動脈から分岐した肝動脈が別個に流入し、酸素を供給する

門脈肝動脈に胆汁が流れる胆管をくわえた三者は肝臓内で近接して流れており、三つ組構造として観察される。三つ組構造は六角形状に配置されており、その中央には中心静脈が流れる。この六角形状の一単位を肝小葉と呼ぶ。

肝小葉の構造
図 肝臓の構造 (英語版Wikipediaより)

六角形の肝小葉が示されている。六角形の頂点では、黄緑色の胆管青い門脈(portal venule)、赤い冠動脈が三つ組構造を形成する。門脈からは紫色で示された類洞へと血液が流れ込み、両脇の肝細胞で処理されたのち、最終的に中心静脈へと流入する。

門脈から流れてきた栄養に富んだ血液は肝細胞間にある間隙の類洞を流れ、類洞を囲む肝細胞によって代謝を受けた後、中心静脈に流入する。

肝細胞の機能

肝細胞は、様々な肝臓の機能のほぼ全てを果たしている。

糖質の調整

肝細胞は、血中を流れるグルコースをグリコーゲンの形に変化させ、蓄積する働きを持つ。低血糖の際は膵臓のランゲルハンス島で分泌されたホルモン、グルカゴンを受容し、グリコーゲンを分解してグルコースを放出する。一方、高血糖時にはインスリンを受容して分解を抑制する。

グリコーゲン

図 グリコーゲンの模式図(Wikipediaより)
〇で示された物体がグルコースである。グルコースが枝分かれしながら重合し、グリコーゲンを形成する。

脂肪合成

肝細胞が蓄えられるグリコーゲンの量には限りがあるため、肝細胞は余剰のグルコースから脂肪を合成する。合成された脂肪はVLDL(超低密度リポタンパク質)として脂肪組織へ送られるとともに、一部は肝臓に蓄積する。肝細胞の30%以上が脂肪に圧迫された状態を脂肪肝と呼び、肝機能低下の原因となる。

ガチョウやアヒルの脂肪肝はフォアグラと呼ばれ、フランス料理で食されている。口に管を挿入して餌を流し込む「強制給餌」によって生産されることが動物愛護団体の批判を受け、既にいくつかの国では生産が禁じられている。

フォアグラ

図 フォアグラのソテー (Wikipediaより)

タンパク質代謝

肝細胞は、血中で膠質浸透圧を生み出すアルブミン、破損した血管壁を埋めるフィブリノーゲンといった血中タンパク質を合成する働きを持つ。血中アミノ酸濃度に応答して発現量が変化する。

アルコール代謝

アルコール(エタノール)代謝(分解)もまた、肝臓の肝細胞で行われている。摂取されたエタノールは一部は胃から、大部分は小腸から吸収され、肝臓に至る。エタノールは主にまずアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドに、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸・次いでアセチルCoAへと変化する。

アセチルCoAの多くはクエン酸回路に入り、CO2とH2Oへと分解される。しかしながら、アルコール摂取量が多いとそれも限界を迎え、アセチルCoAは脂肪酸合成に用いられるようになる。したがって、多量の飲酒は脂肪合成を招き、長期的には脂肪肝の原因となる。

アンモニア代謝

アンモニア(NH3)は神経毒性を持つ、生体に有害な物質である。全身の組織で常時産生され、グルタミンの形で血中に排出されている。肝細胞は血中のグルタミンを取り込んでアンモニアを再生産し、アンモニアからさらに尿素を合成する。肝細胞で産生された尿素は尿中に排泄される。

コレステロールの代謝

細胞膜の材料の一つであるコレステロールは、3割が食物から取り込まれ、7割は肝細胞で合成されている。合成の材料となるのはアセチルCoAであり、30段階の反応を経てコレステロールに至る。反応の二段階目に用いられるHMG-CoA還元酵素の阻害剤、スタチン類は高脂血症の治療薬として用いられている。

薬物代謝

薬物代謝は、主に酸化反応による変性(第1相)、グルクロン酸やグルタチオンを付加する抱合(第2相)排出(第3相)と、三つの段階に分けることができる。

主に肝臓で行われている変性の過程においては、シトクロムP450(CYP450)と呼ばれるグループに属した酸化酵素が重要な働きを持つ。シトクロムP450は、一酸化炭素に結合すると450nmに特徴的な吸光ピークが現れることからその名がつけられている。

CYP450には遺伝子多型が存在し、ヒトによって酵素活性が異なることから、人によっては薬物が代謝されずに高濃度で血中に残留し、深刻な副作用をもたらすことがある。また、グレープフレーツなどいくつかの柑橘類は主要なCYP450の一つ、CYP3A4を阻害する物質を含むため、薬剤との併用には注意しなければならない。

 グレープフルーツ
図 グレープフルーツ

胆汁分泌

肝臓は絶えず胆汁を分泌し、胆汁は胆管を介して胆のうに蓄えられたのち、十二指腸に放出される。胆汁には、胆汁酸と胆汁色素が含まれている。

胆汁酸は、両親媒性の酸である。疎水部を介して食物中の脂肪分に親和し、細かい粒に分ける(乳化)働きを持つ。脂肪を乳化することにより、消化酵素リパーゼによる消化を可能とする。胆汁酸の多くは再び小腸で吸収され、肝臓を経て胆汁に入る。これを腸肝循環という。

コール酸
胆汁酸の例:コール酸

胆汁色素の正体は、ヘモグロビンを構成するヘムの代謝物、ビリルビンである。ビリルビンは黄色い物質であるが、腸内細菌によってウロビリノーゲンという別の物質に、さらにステルコビリンに変化する。ステルコビリンは茶色い物質であり、これが大便を色づける色素となる。

また、ウロビリノーゲンの一部は小腸で吸収され、体内でウロビリンとなる。ウロビリンは黄色い物質であり、尿中に排出されてその色を示している。

肝炎

肝臓が炎症した状態が肝炎、悪化した状態が肝硬変・肝がんである。肝炎の原因は主にB型・C型肝炎ウイルスやアルコールの過剰摂取である。B・C型ウイルスは輸血や刺青によって感染し、慢性肝炎に至る場合が多い。特に血液製剤の肝炎ウイルス汚染はかつて深刻であり、1960年代には輸血された患者の半数が肝炎ウイルスに感染したと考えられているが、現在は0.5%以下と低率に抑えられている。

2015年、C型肝炎ウイルスの治療薬としてソバルディハーボニーという二つの薬の販売が始まった。これらはウイルスの持つRNAポリメラーゼを阻害する薬剤であり、インターフェロンの投与なしに治療効果を発揮するという点で画期的である。その売上高の大きさから、がん治療薬のオプジーボと共に、公的保険を圧迫るかもしれない薬剤として有名であった。

参考文献

薬害肝炎とは

デファイテリオ社

ミノファーゲン製薬 肝臓はどんな器官?

疾肝啓発 あすか製薬

-肝臓の細胞

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