ヒトの全細胞

ヒトの体は37兆個の細胞から構成され、その種類としては約200種であると言われています。「赤血球」「神経細胞」「骨細胞」などの体内の細胞と、「iPS細胞」「HeLa細胞」などの培養細胞を解説します。

結合組織に関する細胞

白色脂肪細胞

投稿日:2018年2月8日 更新日:

白色脂肪細胞
(white fat cell)

○白色脂肪細胞とは

白色脂肪細胞は、細胞内に一つの大きな脂肪滴(単胞)を持った白い細胞である。脂肪の蓄積を担っており、脂肪を用いて熱を産生する褐色脂肪細胞とはことなる働きを持つ。直径は最大で150μmにもなる大きな細胞で、大人では400億個ほど存在する。単に「脂肪細胞」というときは白色脂肪細胞を指す。

 エネルギーの貯蔵と保温が主な役割であり、グルカゴン、アドレナリン、ノルアドレナリン、成長ホルモンなどが脂肪細胞膜上のGPCRに結合すると脂肪分解が進み、血中に脂肪酸を放出する。


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図1 白色脂肪組織

○白色脂肪細胞の形成

白色脂肪細胞は、脂肪前駆細胞でPPARγという転写因子が働いて、脂肪滴を蓄えることによって生じる。脂肪滴に蓄えられている物質は脂肪(無極性物質に溶解する物質、主に中性脂肪、一部コレステロールエステル)であり、前駆細胞は血中のカイロミクロン等のリポタンパク質から取り込んでいる。

脂肪滴を溜め込んで肥大化した白色脂肪細胞は隣接する脂肪前駆細胞に働いてPPARγを活性化し、新たな白色脂肪細胞を生み出す。

従来、脂肪細胞は子供の頃にしか現れず、思春期まで痩せていること重要だと考えられてきたが、現在は否定されている。また前駆細胞と白色脂肪細胞は可逆的な変化であり、貧栄養時に脂肪滴を失った白色脂肪細胞は前駆細胞に戻る。

○脂肪の取り込みとリポタンパク質

中性脂肪は疎水性であり、血中では不安定であるため、両親媒性のアポタンパク質が覆って安定化した、脂質の輸送体”リポタンパク質”に輸送されている。「中性脂肪」は脂肪酸のグリセリンエステル(トリアシルグリセロール)のことを指す。

その大きさや性質から、カイロミクロン、VLDL、HDL、LDL等に分類される。カイロミクロンは、小腸で分解されて吸収された食物中の脂肪が、吸収後に再び中性脂肪となって詰められたリポタンパク質であり、リンパ管・毛細血管へと送られる。VLDL肝臓で生産された中性脂肪を脂肪組織に輸送するためのリポタンパク質である。HDL,LDLはコレステロールを輸送するリポタンパク質である。

Chylomicron.svg

図2 カイロミクロン

 ApoA-Eはアポタンパク質。Tはトリアシルグリセロール、Cはコレステロールエステル。周囲を両親媒性のリン脂質とアポタンパク質が覆っている。

脂肪細胞は、細胞外の毛細血管にカイロミクロンやVLDLが通った際、そのアポタンパク質ApoCに反応して毛細血管に向けてリポプロテインリパーゼを分泌する。分泌されたリポプロテインリパーゼは、リポタンパク質中の中性脂肪を分解して脂肪酸を遊離させる。遊離した脂肪酸を取り込むことにより、脂肪細胞は脂肪を脂肪滴に蓄積することができる。

○脂肪動員

空腹、運動などでエネルギーが必要になったときには、アドレナリンやノルアドレナリンが内分泌される。それを脂肪細胞が受容すると、脂肪滴中の脂肪を分解して脂肪酸を細胞外に放出する。血中に放出された脂肪酸は血中アルブミンと結合して細胞内を流れ、必要な細胞に取り込まれてエネルギーを産出する。これを「脂肪動員」という。

○ベージュ化・褐色化

白色脂肪細胞は、寒冷刺激を受けたとき、熱を産生する型(脱共役タンパク質のUCP1陽性)のベージュ脂肪細胞へと分化することが報告されている。この過程を「褐色化」もしくは「ベージュ化」という。

ベージュ脂肪細胞と褐色脂肪細胞はどちらも多数の脂肪滴を持ち、熱産生の働きという点も同じであるが、白色脂肪組織内にある場合は「ベージュ」、外なら「褐色」と呼ぶ。また、ベージュ脂肪細胞が白色と同様に脂肪前駆細胞由来であるのに対して褐色脂肪細胞は筋肉と同じ細胞群から分化したり、ベージュ脂肪細胞のみ寒冷刺激が終わると白色脂肪に戻ったり、といった違いが存在する。

寒冷刺激を受けると交感神経が活性化し、アドレナリンが放出される。そのアドレナリンを白色脂肪細胞のアドレナリンβ3受容体が受容することがきっかけとなり、褐色化と熱産生が引き起こされている。したがって、β3アドレナリン受容体の作動薬ミラベログンを用いても、脂肪細胞の褐色化を誘導することができる。

脂肪の褐色化を促進することができれば糖尿病治療につながるのではないか、との考えから、寒冷刺激を与えることによる体脂肪率の変化が計測され、実際に低下することが示されている。寒冷刺激を加えなくとも、寒冷刺激に反応して開くTRPchannelのアゴニストであるカプシノイドを投与することによっても、体脂肪が減少することが明らかとなった。

○産生する因子

白色脂肪細胞は、アディポネクチンやアンジオテンシノーゲン、レプチン、TNFαなどの様々な因子を産生し、体内環境を調節する働きを持つ。

・アディポネクチン

 アディポネクチンは、μg/mlレベルの高濃度で血中を流れているホルモンである。インスリンの感受性を高め、血糖値を下げる働きを持つ。脂肪細胞が多くなればなるほど濃度が低下していくという不思議な特徴を持つ。

・アンジオテンシノーゲン

  アンジオテンシンの前駆体である。アンジオテンシンはレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系に関与する物質であり、血圧の上昇作用を持つ。脂肪細胞が多くなると濃度も上昇し、高血圧を引き起こす。

レプチン

 レプチンは脳に体内の脂肪の量を伝えているペプチドホルモンであり、食欲を制御する神経細胞を抑制する働きを持つ。レプチン受容体を欠損したdb/db(diabete)マウス、レプチンを欠損したob/ob(obesity)マウスは食欲が収まらず、通常よりも太った個体として知られる。

 またレプチンは交感神経系を亢進させる働きを持っているため、過度の肥満は血管の収縮を引き起こし、高血圧を発症する。

・TNFα (Tumor neclosis factor alpha)

 炎症性サイトカイン(脂肪が分泌するものをアディポサイトカインという)の一種であるTNFαは固形がんの壊死を生じさせるサイトカイン(腫瘍壊死因子)として発見されたが、インスリン感受性や脂肪組織のグルコース取り込みを低下させる作用も持つため、血糖値を上昇させて糖尿病を引きおこす向きに作用する。

○まとめ

・白色脂肪細胞は、脂肪を蓄えた大きくて白い細胞である。
・転写因子PPARɤによって分化誘導される。
・レプチン等のホルモンを産生し、体内環境を調節する。
 




〇参考文献

Qシリーズ 新組織学

脂肪細胞の正体 河田照雄
6.脂肪の褐色化による糖尿病治療 日本糖尿病学会59巻
褐色脂肪細胞およびベージュ脂肪細胞の制御機構と臨床的意義 生化学 89巻
・東邦大学 基礎生化学講義
兵庫大学 公開講座

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