杯細胞とは
杯細胞は、粘液の主成分であるムチンを分泌する、呼吸器・消化管の円柱上皮細胞である。
腸管側が大量の分泌顆粒によって膨らんでおり、形が西洋杯に似ていることから杯細胞と名付けられた。
図1 杯細胞の模式図 Birchenough et al, 2015より
下部の丸い青は核、上部の緑色の下流が粘液の分泌顆粒を示している。
呼吸器官
気道・気管の上皮細胞は、杯細胞・クラブ細胞(クララ細胞)・神経内分泌細胞・繊毛細胞・基底細胞の5種類によって構成されている。杯細胞はクラブ細胞とともに呼吸器での粘液産生を担う。
粘液の主成分はムチンと呼ばれる糖たんぱく質である。ムチンのコアタンパク質は100kDa程度であるが、複数の糖鎖と結合することによって500KDa程度となり、さらに多量体化した状態で分泌される。ムチンの糖衣は保水能力を与え、細菌類のプロテアーゼからコアタンパク質を守っている。
図2 膜結合型ムチンの模式図 (Wikipediaより)
黒い一本のコアタンパク質から複数の糖鎖が枝分かれしている。
気道の粘液は、空気とともに侵入する微粒子や細菌から組織を守る働きを持つ。通常、粘液内の微粒子は繊毛細胞によって体外へ送り出されているが、微粒子の量が多くなると炎症が発生する。炎症によって粘液の産生量が増加した時、粘液は痰として体外に排出される。気道が常時炎症状態にある喘息やCOPD患者では杯細胞の数が増加していることが報告されている。
消化管
小腸
小腸の上皮細胞は、杯細胞・吸収上皮細胞・パネート細胞・腸内分泌細胞・タフト細胞・M細胞の6種類に分類される。気管のものと同様に、小腸の杯細胞もムチンを分泌して粘液の産生に働く。粘液は腸内細菌に対する腸管の物理防御の役割を果たすと同時に、パネート細胞の分泌する抗菌ペプチドを含む液体として、化学的バリアの役割を担ってもいる。
6種類の上皮細胞はいずれも基底の幹細胞から分化して生じ、3-7日で入れ替わると考えられている。杯細胞への分化にはNotchシグナルが阻害されることが重要である。
大腸
小腸の100倍の腸内細菌が暮らしている大腸にはパネート細胞が存在しない代わりに、より多くの杯細胞が位置し、圧倒的に厚い粘液層に覆われている。腸管側に位置し、ムチンが密に詰まっている内粘液層と、腸内細菌のプロテアーゼによって緩んだ外粘液層の二層に分けることができる。腸内細菌は外粘液層にのみ生息し、内粘液層は無菌状態が保たれている。
ムチン遺伝子に異常を持つマウスは粘液層を欠いており、腸管上皮細胞に細菌が侵入しやすいことが報告されている。
粘液分泌制御
腸内細菌から腸管上皮を防御するという粘液の役割を支える為、杯細胞は自然免疫に関与するTol様受容体やNod様受容体といった分子で細菌由来の物質を認識すると、粘液の放出を促進することができる。また、腸内細菌が産生する酢酸・プロピオン酸などの短鎖脂肪酸にも反応して粘液分泌を亢進する。
参考
New developments in goblet cell mucus secretion and function (Birchenough et al, 2015)

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。
「ムチン(mucin)」について
学術秘書
池田です。
「ムチン」は、動物性の成分です。
http://www.wakasanohimitsu.jp/seibun/mucin/
日本国内でのみ拡散していた、「植物や発酵食品にムチンが含まれる」とする
誤報の(「学術情報」という意味で)大本になっていた情報が訂正されました。
*
食品工業辞典(日本食品工業学会編、昭和54年第1版発行)の用語解説の訂正に
ついて
2020/07/30
当学会の前身である日本食品工業学会編の食品工業辞典の「むちん[ムチン]
」の解説について、現在の科学的知見から以下のように訂正させて頂きます。
(訂正前)
動植物より分泌される粘質物一般をいう。
(訂正後)
動物より分泌される粘質物一般をいう。
https://jsfst.smoosy.atlas.jp/ja/notices/71
では。
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株式会社はなもみ(法人番号:3050001008638)
代表取締役社長 池田剛士(携帯:09041347927)
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>>1
株式会社はなもみ代表取締役社長
池田剛士様
コメントありがとうございます。
オクラや里芋の粘質はムチンでは無いとは、知りませんでした。