味細胞
Gustatory cell
味細胞とは
味細胞は、舌の味蕾に50-150個ほど存在し、味を感じる上皮細胞である。味蕾は舌の表面に存在する穴のような構造であり、表面の味孔から流入した物質を、中に位置する味細胞が味毛とよばれる突起で受容し、シグナルを味神経に伝えている。味細胞は10日程度で入れ替わると考えられている。
図1 味蕾の構造(Wikipedia英語版 tasteより)
上部(舌表面)の味孔(taste pore)から流入した物質を内部の味細胞が受容し、下方の求心性神経細胞(afferent nerve)へシグナルを伝える。
それぞれの味細胞は、酸味・甘味・うま味・塩味・苦味のいずれかを感じることに特化している。電子顕微鏡による形態の観察からはⅠ型・Ⅱ型・Ⅲ型の三種類に分類されており、甘味・うま味・苦味を感じる細胞がⅡ型に、酸味がⅢ型に属する。塩味を検知する味細胞は同定されていない。また、Ⅰ型はグリア細胞である。
酸味
酸味は、酢酸などから生じるH+イオンを感じる味である。H+はⅢ型味細胞が膜上に発現したOTOP1というチャネルを介して細胞内に取り込まれる。
H+を取り込んだ細胞では膜電位が変化し、脱分極が発生する。脱分極が閾値を超えると活動電位が生じ、カルシウムイオン依存的に神経伝達物質としてATPや5-HTを小胞分泌する。分泌したATPや5-HTが味蕾の神経細胞を刺激し、酸味のシグナルが伝わっていく。
興味深いことに、酸味受容の味細胞は炭酸水の泡や高濃度の塩分にも反応することが知られている。
図2 レモン
レモンに含まれるクエン酸は酸っぱいが、弱酸である。酸っぱいか否かは弱酸・強酸とはあまり関係がない。
甘味
うま味と共に、Ⅱ型味細胞膜上に発現するGタンパク質共役型受容体であるTAS1Rファミリーに受容される。
自然・人工に関わらず、甘味を受容する受容体はTAS1R2とTAS1R3のヘテロダイマーである。
甘味・うま味・苦味の味覚受容体はGq型のGタンパク質共役受容体であることから、物質を受容した味細胞ではホスホリパーゼCの活性化や細胞内カルシウムイオン濃度の上昇がみられる。
TAS1R3のノックアウトマウスは人工甘味料の味を感じられないが、グルコースを感じる能力は残ることが知られている。これは、味細胞に発現し、ATPのエネルギーによってナトリウムイオンとグルコースを細胞内にとりこむSGLT1というトランスポータに依ると考えられている。SGLT1は腸管においても、糖の吸収に重要な役目を果たしている。「塩と砂糖」を同時に取り込むSGLT1のおかげで、塩がスイカなどの甘い食物をさらに甘くするのではないか、と考えられている。
図3 お汁粉
お汁粉も塩を加えることで甘くなることが知られている。
うま味
うまみは、グルタミン酸や核酸、コハク酸といった物質をTAS1R1とTAS1R3のヘテロダイマーが受容することで感じられる。うま味を呈する代表的な物質は昆布(グルタミン酸)、鰹節(核酸:イノシン酸)やシイタケ(核酸:グアニル酸)、貝類(コハク酸)などがあげられる。
図4 味の素
うま味成分であるグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸を含む調味料
苦味
苦味は、Gタンパク質共役型受容体のTAS2Rファミリーを発現する細胞によって受容される。TAS2Rは25種類程度が存在し、さまざまな苦味に対応することができる。
TAS2Rファミリーの内、TAS2R38遺伝子は人によって異なることが知られている。TAS2R38はフェニルカルバミド(PTC)を感じる受容体であるが、日本人の10%はTAS2R38が機能しておらず、その苦味を感じない(味盲)という。
なお、渋みと苦味は異なる。渋みはワインや渋柿の味であり、食物に含まれるタンニンなどの物質が舌のタンパク質を変性させたことを感じる「触覚」であると考えられている。
塩味
塩味はナトリウムイオンによって生じる味であり、ENaCというチャネルが重要である。ENaCからNa+が流入した場合に脱分極してシグナルが伝わり、CALHM1/3を介してATPを分泌する。
利尿剤(アミロライド)にはENaCの阻害効果があり、塩味を感じさせにくくすると報告されている。
神経伝達について
Ⅲ型味細胞はシナプス小胞を細胞膜に融合させることによって神経伝達物質を放出するが、Ⅱ型味細胞にはシナプス小胞を構成するタンパク質が発現していない。
その代わりに、Ⅱ型味細胞では、例外的にCALHM1という電位依存性のATPチャネルを持ち、活動電位が生じた場合にATPを細胞外に向けて分泌している。塩味もまた、CALHMM1がシグナル伝達に重要であることが示されている。
ミラクリン
ミラクルフルーツに含まれるミラクリンは、そのもの自体は無味だが、後で食べるものの酸味を甘味に変えてしまうという面白いタンパク質である。ミラクリンは甘味受容体であるTAS1R2とTAS1R3のヘテロダイマーに結合するが、通常はシグナルを伝えない。酸味を食することによって口腔内のpHが下がったときにのみ、ミラクリンの構造が変化してシグナルを伝えられるようになる為に、甘く感じるのである。
図5 ミラクルフルーツ
西アフリカ原産。古くから、現地の人達は食事前にこの実を食べていたという。
参考文献
Taste transduction and channel synapses in taste buds

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。