主細胞とは
主細胞は、胃小窩の特に底部に偏在し、ペプシノーゲンを分泌する細胞である。ペプシノーゲンは壁細胞が分泌する塩酸によってN末端側が加水分解され、消化酵素のペプシンとなる。ペプシンはプロテアーゼであり、タンパク質の分解を触媒する。
関連:壁細胞
ペプシノーゲン
分泌され、塩酸で活性化されたペプシンもまた、不活性のペプシノーゲンに作用し、自身の数をさらに増やしていく。ペプシンの活性中心はペプチドがはまる「溝」のような構造をとっているが、ペプシノーゲンはN末端がその部位にフタをして、活性を抑えている。
もし活性型ペプシンを翻訳によって生産していれば、主細胞内部でタンパク質を分解してしまうことが予想される。それゆえ、ペプシノーゲンという安定な前駆体を分泌している。
ペプシンの触媒機構
ペプシンは活性中心に2つのアスパラギン酸を持った、“アスパラギン酸プロテアーゼ”の一種である。
片方のアスパラギン酸残基が一般塩基触媒として水分子からプロトンを奪い、活性化した水分子がペプチド結合のカルボニル炭素を求核攻撃する。すると四面体型のオキソアニオン中間体ができるが、それをもう一つのアスパラギン酸残基が安定化し、反応効率を高める。そして最後にC-N結合が切断され、ペプチドは二つに分かれることとなる。
図2 反応機構
反応の至適pHは強酸性で、温度は37~42度である。基質ポケットの大きさの関係から疎水性残基、特に芳香族アミノ酸のN末端側の切断を好む。
胃の次に位置する十二指腸においては、粘膜が重炭酸イオンを多く分泌することでpHが高くなっており、ペプシンの働きは抑えられる。
ペプシコーラ
余談であるが、ペプシコーラの「ペプシ」は、まさにペプシンのことである。ペプシコーラは1894年にアメリカの薬剤師によって消化不良治療薬として開発された。その主成分はコーラナッツや砂糖であったが、ペプシンも含有されていたため、ペプシコーラと呼ばれた。今は残念ながら含まれない。
図3 ペプシコーラ
ペプシン分泌制御
主細胞のペプシンの分泌は、胃酸を分泌する壁細胞と同様の制御が働いている。その第一は副交感神経である。嗅覚、味覚、視覚等で食べ物を把握すると、その情報が伝わってアセチルコリンを放出する。アセチルコリンはGPCRのムスカリン受容体に結合し、ペプシノーゲンが放出される。幽門部のG細胞が出すガストリン、クロム親和性細胞が分泌するヒスタミンもまた放出を促進する。
健胃薬
漢方の用途として、消化を促進する”健胃”というものがある。センブリをはじめとする苦味健胃、ミカン科の芳香性健胃薬が有名であるが、これらは強力な味やにおいを持つ。強い刺激を受けた味覚、嗅覚から副交感神経にシグナルが伝わり、主細胞や壁細胞での胃酸・ペプシノーゲンの放出を促進するのである。
関連項目

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。