○メルケル細胞とは
メルケル細胞は、皮膚の表皮付近に位置して触覚に関与する細胞である。大きさは約10μmの球形である。1875年にドイツ人のメルケル博士によって発見されたことから、その名がつけられている。
図1 メルケル細胞 JT生命誌より
○触覚
皮膚の触覚には5種類の機構が関与している。メルケル細胞、自由神経終末、ルフィ二終末、パチニ小体、マイスナー小体である。ルフィニ終末、パチニ小体、マイスナー小体は真皮に位置し、それぞれ皮膚の伸び、細かな振動、大まかな振動を検知する。自由神経終末は表皮の中に入り込んで温度、痛み等に反応を示す。メルケル細胞は表皮の基底層=真皮との境目に位置し、隣接するAβ求心性神経とともにメルケル触盤を形成する。
Aβ求心性神経は、神経線維の分類の一つである。神経線維は信号伝達が速いものから順にAα、Aβ、Aγ、Aδ、B、Cと分類され、そのうちAβは求心性有髄の、皮膚触圧を担う神経である。一方、痛みやかゆみはAδ市線維とC線維が担っており、Aβはこれらの抑制にも働くため、痛い箇所を圧迫することで痛みを抑えることができる。
○メルケル細胞の機能
メルケル細胞は弱い刺激を検知し、物体の形、大きさ、質感といった情報をAβ神経に伝え、遅順応1型応答を惹起させている。逆順応1型応答は、動的な刺激ばかりでなく静的な刺激にも反応し、「触れている」という感覚を神経に与える応答である。
20から40個のメルケル細胞が一つの神経と対応しており、表面のデコボコや角を認識するのに役立っている。
○分子機構
図2 メルケル細胞のシグナル伝達 Hoffman et al.(2018, Neuron) のGraphical abstract
メルケル細胞の表面に位置するPiezo2という機械刺激依存性の非選択的陽イオンチャネルが反応の鍵となる。Piezo2は30回膜を貫通した構造を取っており、0.6μm程度の機械的刺激を受けると開く。開いたPiezo2から細胞内に陽イオンが流入することで、膜電位が上昇する。
膜電位が上昇すると、膜電位依存性のCaチャネルが開き、細胞内にカルシウムが流入する。これをきっかけとして神経伝達物質(ノルアドレナリン)の顆粒が放出され、それを隣接するAβ感覚神経が受容し、シグナルが伝わる。
○参考文献
・生命誌ジャーナル
高度な触覚センサとして活躍する小さな細胞 仲谷正史
http://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/090/research/1.html
・Qシリーズ新生理学 日本医事新報社

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。