目次
○メサンギウム細胞とは
メサンギウム細胞は、腎臓の糸球体に位置し、構造と機能を支える細胞の一群である。「メサンギウム」の単語はラテン語で「meso」+「angis」であり、「meso」は「間」、「angis」は毛細血管を意味する。すなわちメサンギウムは「毛細血管の間に詰まっている構造」であり、「メサンギウム」の語は細胞のほかにメサンギウム基質、毛細血管の基底膜を含む。
糸球体内・糸球体外の二種に分類される。
○糸球体内メサンギウム細胞とは
糸球体内メサンギウム細胞は、その名の通り糸球体の内部に存在するメサンギウム細胞である。糸球体外のメサンギウム細胞とは位置・機能が異なるため、区別されている。
糸球体内メサンギウム細胞は、①食作用を有した細胞と、②血管平滑筋細胞に類似して収縮が可能な細胞の二群に分けられる。後者は線維芽細胞の一種として基底膜に似たメサンギウム基質を産生して毛細血管の間を埋める働きを持つ。その機能は糸球体構造の維持と考えられる。
〇貪食
貪食を行うメサンギウム細胞は、血中を流れている単球が糸球体に定着して生じたマクロファージである。濾過の目が詰まることを防ぐために、糸球体に集積した抗体や補体といった高分子を貪食・分解していると考えられている。
〇収縮
糸球体内のメサンギウム細胞は、収縮・弛緩することによって毛細血管の血管腔を調節し、糸球体での濾過を制御していると考えられている。例えば、強力な血管収縮作用を持つアンジオテンシンが作用するとメサンギウム細胞は収縮し、血管腔が縮小し、糸球体濾過が減少することが報告されている。
○糖尿病性腎症
糖尿病を患い、血糖値が高くなった患者はしばしば腎臓の障害、すなわち腎機能低下と蛋白尿症を併発し、いずれ腎不全を発症する。糖尿による腎障害の原因は糸球体基底膜・メサンギウム基質の拡大にあると考えられており、これによって腎臓の濾過機能が破綻することによる。
アルブミンやグロブリンといった血漿タンパク質が糸球体のバリアを超えて尿に流入するようになると免疫機能不全などの症状を引き起こし、また基底膜の肥大は毛細血管を圧迫して腎機能の低下も招く。
メサンギウム基質が拡大する理由には、メサンギウム細胞の食作用が関係する。高血糖・高脂血症である種の蛋白質が凝集すると、メサンギウム細胞(マクロファージ)はそれをエンドサイトーシスで取り込んで分解する。この際にメサンギウム細胞のpHが低下して、TGFβなどのサイトカインを傍分泌してメサンギウム細胞(線維芽)の分裂を促し、さらに基底質の産生能を向上させている。
〇糸球体外メサンギウム細胞
糸球体外メサンギウム細胞は、糸球体外に位置するメサンギウム細胞であり、傍糸球体装置を形成する細胞の一つである。その機能はあまりわかっていないが、エリスロポエチンとレニン(?)を分泌していると考えられている。
図2 糸球体
5bが糸球体外メサンギウム細胞、7が緻密斑、6は傍糸球体細胞である。
〇傍糸球体装置
糸球体の傍に存在して尿量調節を担っている傍糸球体装置は、糸球体外メサンギウム細胞、遠位尿細管の緻密斑、輸入細動脈の傍糸球体細胞から構成される。緻密斑は尿細管の特殊な上皮細胞であり、尿中のCl-イオンの濃度センサーの役割を果たす。濃度に応じて傍糸球体細胞のレニン分泌を制御し、血圧や濾過量を変動させている。
○エリスロポエチン
糸球体外メサンギウム細胞が産生するエリスロポエチンは、骨髄の造血幹細胞に作用して巨核球や赤血球への分化を誘導するタンパク質ホルモンである。慢性腎不全によってエリスロポエチンが産生できなくなった場合、赤血球が不足して悪性貧血に陥る。また、エリスロポエチンは赤血球を増やすことからドーピングにも用いられている。
血中の酸素分圧によって産生は制御されており、低酸素応答因子のHIFがその分子機構の鍵となる。HIFは低酸素状態で核内に移行し、転写因子として働いてエリスロポエチンの産生を促進する。通常の酸素分圧でのHIFは翻訳されて間もなくユビキチン化され、プロテアソームに分解されるが、低酸素状態ではユビキチン結合の活性が鈍るため、働くことができる。がんも低酸素状態にあるため、HIFがよく働いている。
○参考文献
・糸球体メサンギウム細胞の細胞特性
日腎会誌 2008:50(5), 554-560
・メサンギウム細胞の機能とtransmembrane signalling
総説 膜 14(1), 11-20 (1989)
・Wikipedia 「糸球体外メサンギウム細胞」「糸球体内メサンギウム細胞」

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。