○ミクログリアとは
ミクログリアは、中枢神経に位置するグリア細胞の一つである。血液脳関門を通過できない白血球の代わりとして、中枢における免疫を担当している。損傷した神経を貪食したり、集積したアミロイドβを回収する役割を果たす。中胚葉由来である。
関連:神経細胞
○形態
ミクログリアは不活性型の時はラミファイド型、活性型の時はアメボイド型と呼ばれる構造を取る。ラミファイド型は小さな細胞体から多数の細い突起を四方八方に伸ばした構造で、その突起は絶えず伸び縮みを繰り返している。ATPやADP、アミロイドβなどに走化性があり、脳内の異常を検知することができる。ミクログリアはまたグルタミン酸にも走化性を持つため、シナプス周辺にも集まっている。
異常を検知したミクログリアは突起の数を減らして細胞体を拡大させていくが、この状態をアメボイド型と呼ぶ。アメボイド型はマクロファージと類似し、免疫機能を果たしている。
また興味深い事項として、ラミファイド型(不活型)ミクログリアは昼間よりも夜間のほうが突起の数が多く、長いということが知られている。プリンの受容体P2Y12の発現量が変わることを原因とするようだが、その意味は不明。概日リズムの調整か。
○機能
ミクログリアの機能には、液性因子の放出、シナプスとの相互作用、貪食の三つがあると考えられている。細胞が放出する走化性因子に従って必要な箇所に移動し、それぞれの役目を果たす。
液性因子の放出
ミクログリアが産出する液性因子としては、TNFβやIL-1β、IL-6が知られている。いずれも炎症性のサイトカインであり、問題を起こした細胞の膜上の受容体に結合して炎症やアポトーシスの遺伝子を誘導する働きを持つ。また、カプテシンS等いくつかの酵素を放出することで、概日リズムにも関与していると考えられている。
シナプスとの相互作用
ミクログリアにはまた、不要なシナプスを排除する役目があると考えられている。このプロセスはシナプス剪定と呼ばれ、発生段階及び海馬、視覚処理回路で行われている。ミクログリアは、記憶に何らかの形で関与しているのかもしれない。統合失調症ではシナプス剪定の不全が報告されている。
貪食
三つ目の役目である貪食は、マクロファージと同様の働きである。死んだ神経細胞を貪食して排除する一方、その物質を別の傷ついた神経細胞に送って再生を促すこと働きもできる。P2Y12という受容体を介してプリン(アデニン・グアニン)を認識し、問題のある(外部に核酸を放出している)細胞を発見していると考えられている。
アルツハイマー病は、脳が萎縮して認知障害に陥る認知症の一種である。大部分は70歳以上の高齢者に発病するが、5%程度の患者は遺伝的要因によって、若年のうちに発症している。その原因はアミロイドβというタンパク質が蓄積することにあると考えられており、凝集したアミロイドβは大脳に老人斑と呼ばれる染みを形成する。
アミロイドβはAPP(アミロイドβ前駆体タンパク質)という膜貫通タンパク質の細胞外部分であり、膜内の酵素、セクレターゼによって切断されて脳内を漂っている。Notchと類似しており、本来の働きは睡眠・覚醒の制御であると考えられている。ミクログリアはアミロイドβを除去する働きがあり、老人斑の周りに集積しているのを観察することができる。
細胞外に集積したアミロイドβは神経細胞内のτ(タウ)タンパク集積を促し、τタンパクが微小管を破壊することによって繊維原繊維変化が起こり、神経細胞を死に至らしめると考えられている。これらをアミロイド仮説というが、近年アミロイド阻害薬が上市に至らなかったことなどもあり、アミロイドが本当に認知症の原因であるのかは議論がなされている。
○参考文献
・脳科学辞典
・アルツハイマー病とミクログリア 樋口真人

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。