パネート細胞
Paneth cell
パネート細胞とは
パネート細胞は、小腸の陰窩の底に所在する細胞である。αディフェンシンなどの抗菌ペプチドを分泌し、小腸の細菌叢を制御し、また陰窩の底でニッチを形成して幹細胞を維持する役割を持つ。陰窩の幹細胞は杯細胞・吸収上皮細胞などに分化すると上部(絨毛)へ押し出されて数日で入れ替わるが、パネート細胞は陰窩の底という定位置を維持し、一か月の間生存している。

突起=絨毛の間の陰窩の底にパネート細胞は位置し、粘液層に抗菌ペプチド(MAMP)を分泌する。
Paneth cells directly sense gut commensals and maintain homeostasis at the intestinal host-microbial interface(2008)より引用
抗菌ペプチド
パネート細胞は、αディフェンシン、C型レクチン、リゾチーム、ホスホリパーゼA2、ラクトフェリンといった抗菌ペプチドを腸管の粘液層へ外分泌し、腸内自然免疫に寄与している。通常、パネート細胞は小腸の陰窩にのみ局在するが、炎症が発生した際は消化管全体に異所的に形成され、抗菌ペプチドを放出する。
パネート細胞はその表面にPRR(パターン認識受容体)のNOD2等を発現しており、PRRを介して細菌の壁(リポ多糖)を認識すると、抗菌ペプチドの発現が増強される。パネート細胞を喪失させたマウス、NOD2をノックアウトしたマウスでは、腸上皮の微生物の付着が増強され、細菌感染・蠕虫感染のリスクが増加することが示されている。
αディフェンシン
αディフェンシンは、細胞膜のリン脂質と相互作用する疎水性のドメインを持ったペプチドである。αディフェンシンは塩基性タンパク質の多いドメイン、すなわち正電荷を帯びたドメインを持っており、脊椎動物に比べてリン脂質が負に帯電した細菌の細胞膜に選択的に挿入される。挿入されたディフェンシンは細胞膜に孔を形成し、陰イオンを流入させることによって細菌を破壊する。
C型レクチン
カルシウムイオン依存的に糖鎖に結合するタンパク質をC型レクチンという。パネート細胞からはToll様受容体―Myd88シグナル依存的にRegⅢファミリータンパク質と呼ばれるC型レクチンが合成されており、グラム陽性球菌に抗菌性を示す。RegⅢファミリータンパク質は小腸上皮表面から50µmを微生物叢から守るのに重要な働きを担っている。

青は小腸上皮細胞の核、緑は細菌類を示している。Reg3欠損の小腸では細菌が上皮細胞に迫る様子が見られる。
The antibacterial lectin RegIIIγ promotes the spatial segregation of microbiota and host in the intestine (science, 2012)
リゾチーム
リゾチームは、細菌が帯びているペプチドグリカンの糖鎖を加水分解する酵素である。グラム陽性細菌に抗菌性を示す。
ホスホリパーゼA2
ホスホリパーゼは膜脂質を分解する酵素であり、細菌の膜を分解することで抗菌作用を示す。ホスホリパーゼA2は生体内でもプロスタグランジン類の合成に重要であり、炎症に関与している。
幹細胞の維持
パネート細胞はまた、小腸上皮のすべてに分化することができる多能性の幹細胞(crypt base columnar cell, CBC細胞) に接触し、その維持と増殖に重要な役割を果たしている。
幹細胞性の維持にはノッチシグナルが重要であり、パネート細胞はそのリガンドであるDll4を発現する。また、上皮成長促進因子EGFやWnt3を分泌することによって幹細胞の分裂を促進し、小腸上皮の再生を支えている。
参考
Science direct “paneath cell”
https://www.sciencedirect.com/topics/neuroscience/paneth-cell
ライフサイエンス領域融合レビュー
腸管上皮細胞と腸内細菌との相互作用
2016/08/31
奥村 龍・竹田 潔(大阪大学大学院医学系研究科 免疫制御学)
ホスホリパーゼA2ファミリーの多様性と生命応答における役割
Journal of Japanese Biochemical Society 90(3): 348-360 (2018)

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。