ヒトの全細胞

ヒトの体は37兆個の細胞から構成され、その種類としては約200種であると言われています。「赤血球」「神経細胞」「骨細胞」などの体内の細胞と、「iPS細胞」「HeLa細胞」などの培養細胞を解説します。

腸に関係する細胞 膵臓の細胞

δ細胞

投稿日:2020年11月28日 更新日:

δ細胞

Delta cell

δ細胞とは

δ細胞(D細胞)は、ソマトスタチンと呼ばれる抑制性ホルモンを内分泌する細胞である。膵臓のランゲルハンス島に位置するものと、消化管(胃・小腸)に位置するものの二種類が存在し、どちらもδ細胞と呼ばれている。ソマトスタチンは、脳下垂体からの成長ホルモンの分泌、ランゲルハンス島α細胞からのグルカゴンの分泌、壁細胞からの胃酸の分泌などを抑制する作用を示すペプチドホルモンである。

ランゲルハンス島のδ細胞

ランゲルハンス島

膵臓には、内分泌細胞群の塊であるランゲルハンス島(直径約100µm)が数百万個含まれる。ランゲルハンス島にはグルカゴンを分泌するα細胞、インスリンを分泌するβ細胞などが位置しており、ソマトスタチンを分泌するδ細胞はランゲルハンス島細胞の5%程度を占めている。ランゲルハンス島からのソマトスタチンの分泌量は、全身を流れるソマトスタチンの5%程度である。

古くは、ランゲルハンス島の細胞はα、β細胞(A,B細胞)とその他=C細胞という三つの細胞群から構成されると考えられていた。δ細胞は、C細胞の中で独特な染色が見られる細胞として、新たにδ細胞(D細胞)と名付けられたという歴史を持つ。

形態

α細胞、β細胞が丸い形態を示すのに対し、δ細胞は神経のような突起を伸ばした複雑な形態をとっている。この突起を介してδ細胞は多くのα細胞・β細胞に近接し、傍分泌作用を発揮しているのではないかと考えられている。

ソマトスタチンの作用

ランゲルハンス島のδ細胞から分泌されるソマトスタチンが全身に与える影響は小さく、主にランゲルハンス島内で傍分泌作用を示す。ソマトスタチンの受容体は抑制性のGタンパク質共役型受容体(Gi) であり、隣接する膵α細胞からのグルカゴン分泌、β細胞からのインスリン分泌の両者を抑制する。

ソマトスタチン分泌制御

ランゲルハンス島δ細胞からのソマトスタチン分泌は、β細胞からのインスリン分泌とよく似た制御を受けている。すなわち、 δ細胞は血中グルコース濃度(血糖値)が高い場合にソマトスタチンを多く分泌する。血糖値に比例してグルコースを細胞内に取り込み、代謝によって生じたATPの量をATP依存性のカリウムチャネルが検知していることに因る。

低グルコースの状態においてATP依存性カリウムチャネルは開放されており、細胞内から細胞外に向かってカリウムイオンが流れている。血糖値が高くなった場合、増加したATPの量を検知したカリウムチャネルが閉じることで細胞内カリウムイオン濃度が上昇して膜電位が正に振れ、したがって脱分極が起こる。それを検知した電位依存性のカルシウムチャネルが開くと、流入したカルシウムイオンによってソマトスタチンを含む小胞の分泌が行われる。

また、β細胞が低血糖時に分泌するウロコルチン3も、ソマトスタチン分泌を促進する作用をもつ。ウロコルチン3は38アミノ酸からなるペプチドであり、ウロコルチン3やその受容体を抑制するとソマトスタチン分泌が半分近くまで減少すると報告されている。

そのほか、小腸が食物に応じて分泌するインクレチン(GLP-1、GIP)によってもソマトスタチン分泌が促進される。

糖尿病とδ細胞

糖尿病はα細胞からのグルカゴン、β細胞からのインスリン分泌のどちらもが異常をきたした状態であり、その両者を制御するδ細胞が糖尿病において重要な役割を果たしている可能性がある。糖尿病とδ細胞の関係ははっきりとはわかっていないが、糖尿病モデル動物では低血糖時のソマトスタチン分泌量が増加していることが報告されており、糖尿病患者でインスリン投与時に起こりうる低血糖(=グルカゴン分泌不全)に関与しているかもしれない。

消化管のδ細胞

胃や小腸に位置するδ細胞は、全身のソマトスタチンのうちの65%を分泌すると考えられている。ガストリンを分泌するG細胞などとともに、腸内分泌細胞(enteroendocrine cells , EEC ) と呼ばれる細胞群に属する。

細胞名ホルモン場所主な作用
Aグレリン食欲制御
D(δ)ソマトスタチン胃・小腸ガストリン分泌制御
Gガストリン胃酸分泌制御
Iコレシストキニン小腸胆嚢収縮
KGIP小腸インスリン分泌
LGLP-1小腸・結腸インスリン分泌
Mモチリン小腸腸管の蠕動
Nニューロテンシン小腸・大腸胃酸分泌
Pレプチン食欲制御
Sセクレチン胃・小腸小腸pH上昇
表 腸内分泌細胞の種類

胃腸から分泌される ソマトスタチンの主な作用は、G細胞からのガストリン分泌抑制と、その結果としての胃酸分泌抑制である。消化管の液体が産生に偏っている、すなわちpHが低い場合に反応して分泌され、腸管を胃酸から守っている。

参考文献

The somatostatin-secreting pancreatic δ-cell in health and disease
Nat Rev Endocrinol. 2018 Jul; 14(7): 404–414

Pharmacology and physiology of gastrointestinal enteroendocrine cells
Pharmacol Res Perspect. 2015 Aug; 3(4): e00155

-腸に関係する細胞, 膵臓の細胞

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


関連記事

no image

杯細胞

杯細胞 (Goblet cell) 目次1 杯細胞とは2 呼吸器官3 消化管3.1 小腸3.2 大腸4 粘液分泌制御5 参考 杯細胞とは 杯細胞は、粘液の主成分であるムチンを分泌する、呼吸器・消化管の …

no image

α細胞

α細胞 alpha cell   目次1 α細胞とは2 α細胞の分化3 グルカゴンの作用4 グルカゴンの分泌制御5 糖尿病とα細胞6 参考 α細胞とは  α細胞は、膵臓のランゲルハンス島に存 …

no image

パネート細胞

パネート細胞 Paneth cell 目次1 パネート細胞とは2 抗菌ペプチド2.1 αディフェンシン2.2 C型レクチン2.3 リゾチーム2.4 ホスホリパーゼA23 幹細胞の維持4 参考 パネート …

no image

β細胞

β細胞 Beta cell 目次1 β細胞2 β細胞の分化3 インスリンとは4 インスリン分泌制御5 糖尿病5.1 Ⅰ型糖尿病5.2 Ⅱ型糖尿病6 β細胞の再生7 参考文献 β細胞  β細胞は、膵臓の …