α細胞とは
α細胞は、膵臓のランゲルハンス島に存在し、グルカゴンを内分泌する細胞である。グルカゴンは肝臓でのグリコーゲン分解や糖新生、脂肪組織での脂肪分解を促進することによって血糖値を高める働きを持つ。
ランゲルハンス島にはα細胞のほか、β細胞(インスリン)、δ細胞(ソマトスタチン)、ε細胞(グレリン)、PP細胞が存在する。ランゲルハンス島についてはβ細胞を参照。
α細胞の分化
α細胞は、β細胞、ε細胞などとともに内胚葉由来であり、膵前駆細胞(Pdx1陽性)、膵内分泌前駆細胞(Ngn3陽性)を経て分化する。膵内分泌前駆細胞においてはPax4,Arxという二つのホメオボックス転写因子が拮抗して働いているが、Arxが優位になるとα細胞に、Pax4が優位になるとβ細胞やδ細胞に分化する。
※Pax4 : Paired box 4.ショウジョウバエの発生初期に体節をつくる遺伝子 pairedのホモログ
※Arx:Aristaless related homeobox. ショウジョウバエの触角(Arista)の発生に必要なホメオボックス遺伝子Aritalessのホモログ
α細胞にPax4を過剰に発現させる(2009)、もしくはArxを抑制する(2013)と、β細胞に変化することが知られていた。2017年にCell誌に発表された論文では、α細胞にGABAを添加するとPax4の発現が上昇し、やがてβ細胞に分化していくことが報告された。過剰発現や遺伝子抑制を治療に用いることが技術的に困難であるため、GABAを加えるだけでβ細胞に変化させるという本方法はⅠ型糖尿病治療に役立つ可能性が期待されている。
グルカゴンの作用
グルカゴンは、29アミノ酸から成る一本鎖のペプチドホルモンであり、血中グルコース濃度を高めるように働く。グルカゴンの受容体はGs型のGタンパク質共役型受容体(GPCR)であるため、受容した細胞ではサイクリックAMP産生・プロテインキナーゼA(PKA)の活性化がひき起こされる。
グルカゴンを受容した肝細胞では、活性化したPKAがホスホリラーゼキナーゼを、ホスホリラーゼキナーゼがホスホリラーゼを活性化する。ホスホリラーゼはグリコーゲンを分解し、血中にグルコースが放出される。

グルカゴンはGs型の受容体に受容され、プロテインキナーゼA(PKA)⇒ホスホリラーゼキナーゼ(PPK)⇒グリコーゲンホスホリラーゼ(PYG)の順に活性化してグリコーゲン分解を促進する。
また、白色脂肪細胞においては中性脂肪(トリアシルグリセロール)からの脂肪酸とグリセロールへの分解を促進(脂肪動員)し、脂肪酸を血中に放出させる。血中に流れた脂肪酸は肝臓においてグルコース新生やエネルギーの獲得に用いられる。
グルカゴンの分泌制御
α細胞からのグルカゴンの分泌は、低血糖の状態(6mM以下)や神経系によって促進されている。
一方、グルカゴン分泌を抑制する刺激には、近接するβ細胞が分泌するインスリン・GABA・亜鉛イオン、δ細胞が分泌するソマトスタチン、食物に反応して小腸のL細胞から分泌されるGLP-1が報告されている。ただし、GLP-1受容体がα細胞の膜に発現しているかは議論があり、β細胞のインスリン分泌促進を介した制御である可能性も高い。
糖尿病とα細胞
糖尿病患者のα細胞は、グルカゴンが高血糖時に分泌過剰、低血糖時に分泌不全という逆転した病態を示している。本来の食後にはインスリン分泌亢進とグルカゴン分泌抑制が起こって血糖値上昇が制御されるが、これが逆転した糖尿病患者では通常より血糖値の高い「食後高血糖」という状態を示す。一方、インスリン投与過剰などで低血糖になったときは本来分泌されるべきグルカゴンが分泌されないことによって、重篤な低血糖を引き起こす。
参考
糖尿病における膵 α 細胞量調節とグルカゴン分泌制御 糖尿病61(2) 42-44 2018
糖尿病診療に活かすグルカゴンの理解 東京内科医会 内分泌代謝フォーラム
Long-Term GABA Administration Induces Alpha Cell-Mediated Beta-like Cell Neogenesis Cell, 2017

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。