○褐色脂肪細胞とは
褐色脂肪細胞は、多胞の脂肪滴(白色脂肪細胞は1つ)を持った褐色の脂肪細胞である。新生児や冬眠中の動物に多く見られ、脂肪を分解して熱を産生する働きを持っている。
発生時から褐色を示しているもの(狭義の褐色脂肪細胞)と、交感神経の刺激に応答して褐色を帯びるもの(ベージュ脂肪細胞)の二群に分けられる。冬眠をしない動物であるヒトは、年を重ねるにつれて褐色脂肪組織を減らしていく。褐色は、豊富に含まれるミトコンドリアの鉄の色である。
なお、褐色細胞腫はクロム親和性細胞の腫瘍であり、名前が似ているだけで何の関係もない。
関連:ベージュ脂肪細胞については、白色脂肪細胞
図1 Mouse体内における白色脂肪組織(WAT)と褐色脂肪組織(BAT)
30度に順応したMouseの脂肪組織(左)に比べ、4度に順応したMouseでは脂肪組織が熱を産生するように褐色に変化したことがわかる。
○体内での位置
ヒト体内に存在する褐色脂肪組織は、FDG-PET(Positron Emission Tomography)によって検出することができる。FDGはグルコースの1つのOHを陽電子(Positron)放出核種である18Fに置換した化合物であり、PETは陽電子を検出する装置である。FDGは褐色脂肪細胞などの代謝が活発な細胞に多く取り込まれる。
胎児の褐色脂肪組織の多くは肩甲骨の間、鎖骨の上、副腎・大動脈・心臓・膵臓・腎臓の周囲などに蓄積され、成人になると鎖骨の上と胸腔、傍脊髄に蓄積するようになる。
○シグナル伝達
褐色脂肪細胞による熱の産生は、交感神経から放出されたノルアドレナリンが褐色脂肪細胞のβ3受容体(GPCR)に結合するというシグナルから開始される。アデニル酸シクラーゼが活性化されてcAMP濃度が増加し、cAMPを結合して活性化したPKAが転写因子を活性化させることで、UCP1という脱共役タンパク質が合成されるようになる。
脱共役タンパク質は、ミトコンドリア内膜に存在するタンパク質のうち、プロトン勾配をATP合成以外の目的で利用するものを指す。UCP1はプロトン勾配のエネルギ―を熱の産生に用いるため、サーモゲニンとも呼ばれている。
またこのほかにも、ノルアドレナリンは脂肪分解を促進する働きを持つ。分解された脂肪は解糖系からクエン酸経路に入り、プロトン勾配を生み出すのに利用されている。
○まとめ
〇参考文献

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。