血小板は、止血にかかわる血液の成分である。造血幹細胞が分化して巨核細胞となり、その細胞質がちぎれて形成される。血小板は核や小胞体を持たない。大きさはおよそ2μmで、赤血球や白血球よりも小さく、血液1μL中に30万個程度含まれている。通常は円盤状であるが、血管が損傷を受けると偽足とよばれるアメーバ状の突起を伸ばし、形を変化させる。

図1 血小板の放出
Wikipediaより
○一次止血
血管内皮細胞が傷つけられて血管内皮下組織(主にコラーゲン)が露出した時、まずは血中や血小板内部に含まれるヴォン・ヴィレブランド因子(vWF)がそのコラーゲンに結合する。するとvWFは構造変化を起こして血小板の膜上の糖たんぱく質、GP1bに結合するようになり、血小板と傷の部位とを結びつける。vWF因子と結合した血小板においては続いてインテグリンの一種であるGPⅡb/Ⅲa複合体が活性化され、活性化されたGPⅡb/Ⅲa複合体には血中の繊維素であるフィブリノーゲンが結合する。さらにフィブリノーゲンは別の赤血球のGPⅡb/Ⅲa複合体とも結合し、血小板を集めていく。このような止血を一次止血、形成される血小板の塊を白色血栓という。
なお、傷がない場合に血栓が起きないよう、通常時の血管内皮細胞は血栓形成の抑制物質としてプロスタグランジンI2や一酸化窒素を産生している。

図2 一次止血
○二次止血
血小板とフィブリノーゲンからなる一次止血は弱いので、それに引き続いてさらに強固な二次止血が起こる。二次止血は、トロンビンという酵素がフィブリノーゲンに作用してフィブリン繊維を作り上げ、そこに赤血球を巻き込むことによって行われ、塊を赤色血栓という。かさぶたとも、血餅ともいう。

図4 二次止血
二次止血と関係する物質をまとめて凝固因子と言い、Ⅰ~XⅢまでの12種類が存在する(ⅵは歴史的事情により欠番)。内因性と外因性の2つの経路にいずれかによって、最終的にトロンビン(Ⅱa)が活性化される。まず内因性経路は、第12因子が負に帯電した固体(岩・ガラスなど)に触れて活性化されることに始まる。活性化した第12因子は第11因子を、活性化した第11因子は第9因子を、活性化した第9因子は第10因子をそれぞれ活性化し、第10因子がトロンビンを活性化する。
一方で外因性経路は、傷害した細胞が出す組織因子が第7因子を活性化し、第7因子が第10因子、第10因子がトロンビンを活性化する経路である。
血栓塞栓症の治療薬として第10a因子を阻害する薬剤がよく用いられており、2018年の世界の薬の売り上げでは第四位(エリキュース)と第五位(ザレルト)がランクインしている。
○フィブリンとトロンビン
フィブリンの前駆体であるフィブリノーゲンは、α鎖、β鎖、γ鎖という3つのペプチドが2本ずつ逆並行した直線構造をとっており、中央付近をEサブユニット、両端をDサブユニットという。酵素であるトロンビンが中央Eサブユニットに属するペプチドを切断すると、フィブリノーゲン同士が結合をとれるようになる。フィブリノーゲンからペプチドが切断された後の状態をフィブリンの構成単位として「フィブリンモノマー」と呼ぶ。フィブリンはさらに第13因子の影響を受けて架橋反応を起こし、血小板に加えて血球を巻き込んで強固な血栓を作る。
トロンビンはフィブリンを合成する酵素であるのみならず、血小板の膜上GPCRに受容され、血小板を「活性化」する働きもある。血小板の「活性化」には、内部でアクチン繊維を伸長して偽足を作り、接着度を高める作用や、トロンボキサンA2やvWF、フィブリノーゲンなどの放出を促進する作用、GPⅡb/Ⅲa複合体を活性化して凝集を促進する作用などが含まれる。
○線溶
血栓が失われることを、線溶という。
フィブリンを分解するタンパク質、プラスミンが線溶の主役となる。通常、プラスミンはプラスミノーゲンとして血中に存在するが、回復した血管内皮細胞が組織型プラスミノーゲン活性化因子を出すとプラスミンとなり、働くようになる。フィブリン分解産物を、Dダイマーと呼ぶ。また、役目を果たした血小板は分解される。
○関連項目
・巨核球
・造血幹細胞
〇参考文献
・日本血液製剤協会
http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/hemophilia/hem_02.html
・医学書院
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02952_07
・福岡大学 生化学 講義資料
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/adhmol.htm
・Wikipediaの各項目
血小板
凝固・線溶系
インテグリン
フィブリン
2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。
今娘が中学一年生ですが、こっち系に興味を持っています。参考文献は多ければ多いほどありがたいです。宜しくお願いします。