ヒトの全細胞

ヒトの体は37兆個の細胞から構成され、その種類としては約200種であると言われています。「赤血球」「神経細胞」「骨細胞」などの体内の細胞と、「iPS細胞」「HeLa細胞」などの培養細胞を解説します。

神経・脳に関する細胞

神経幹細胞

投稿日:2018年1月15日 更新日:

神経幹細胞
(Neural stem cell)

神経幹細胞は、神経細胞アストロサイトオリゴデンドロサイト分化する能力を持った幹細胞である。発生に際してそのほとんどは死滅するが、一部は海馬や側脳室に生き残り、分化を続けている。

発生段階においては、まず神経幹細胞の自己複製が続いて数を増やし、次いで神経細胞が分化し、最後にグリア細胞(アストロサイト・オリゴデンドロサイト)が分化する。

○bHLH型転写因子

神経幹細胞の分化には、bHLH型の転写因子の働きが重要である。bHLHはbasic Helix Loop Helix ドメインでDNAと結合する分子の名称であり、神経幹細胞の分化においてはAscl1、Olig2、Hes1という3つの因子が主な役割を果たしている。

Ascl1は神経細胞Hes1はアストロサイトOlig2はオリゴデンドロサイトへの分化を誘導する転写因子であるが、未分化状態においてはいずれの発現量も周期的に振動している。分化が誘導する刺激を受けた細胞では発現や分解に変化が生じ、結果として一つの因子の蓄積が起こり、分化することとなる。

01

図1 神経幹細胞の分化 京都大学プレスリリースより

細胞内で十分に蓄積するとbHLHドメインが二量体を形成し、DNAに結合するようになる。例えばAscl1は”E box”と呼ばれるDNA配列に結合し、下流に位置する神経細胞への分化を誘導する遺伝子の発現を上昇させる。

中枢神経における分化の大まかな方針を決める上記3因子のほか、末梢神経における運動神経 or 感覚神経 等の複雑な分化にも、bHLH型転写因子が重要な役割を果たしている。

○Notch経路

Notchは、神経幹細胞の維持に重要な膜貫通タンパク質である。神経幹細胞の細胞膜上に発現し、隣接する細胞の膜タンパク質であるDeltaやJaggedのリガンドとして働く。Notchがリガンドと結合すると、細胞内部分(NICD)が切り出されて転写因子となる。NICDはDNAに結合し、神経幹細胞の分化を抑制し、幹細胞を維持するような遺伝子の転写を促進する。

350px-Notch_fig1

図2 Notchシグナル 脳科学辞典

○成体神経幹細胞

 神経幹細胞の多くは発生段階で消失し、成体にはほとんど見られない。これは、各々の神経幹細胞には自己複製の回数制限があるためと考えられている。成体海馬や即脳室でわずかに見られる神経幹細胞は、p57というタンパク質が発現して分裂を抑えているために生存できる。

老齢マウスからp57をノックアウトすると神経幹細胞の分裂が開始され、神経新生が始まることが報告されている。人間に応用することで、老齢になってからの脳機能の復活を目指せないだろうかと、期待されている。

〇関連項目

-神経・脳に関する細胞

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