目次
マクロファージとは
マクロファージは、死細胞や体外由来の異物などに対して強い食作用を示す免疫細胞である。好中球(ミクロファージ:小食細胞)に対応して、マクロファージ(大食細胞)と名付けられた。
異物を貪食すると炎症性サイトカインを放出して血管拡張を促し、またリンパ節へ移動してT細胞へ抗原提示を行う。血中を流れる単球がいずれかの組織に入って分化したものがマクロファージである。
図1 マウスのマクロファージ
wikipedia より
TLRを介した認識と貪食
マクロファージはその表面にTLR(Toll様受容体)を発現し、外部からの物質を非特異的に認識、貪食(ファゴサイトーシス)してリソソームで分解することができる。
マクロファージは異物をTLRなどの受容体で認識・貪食し、リソソームと融合させることで分解する。また、貪食に応じて炎症性サイトカインを放出する。 出典:英語版Wikipedia
TLRファミリーはヒトでは10種類が知られており、グラム陽性菌のペプチドグリカンを認識するTLR2、リポ多糖を認識するTLR4、細菌の鞭毛を認識するTLR5などが含まれている。
TLRを介して外敵を認識したマクロファージにはシグナルが走り、インターフェロン類や炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-8、IL-12など)の発現が上昇する。
マクロファージから放出されたTNF-αは血管内皮細胞に作用してNOの産生を増強させ、血管を拡張させる。これによって流れを落とし、またケモカインであるIL-8の作用によって好中球を外敵発見部位に呼び寄せている。
また、マクロファージではアラキドン酸経路も活性化し、プロスタグランジンなどの脂質メディエーター類の放出も増強される。脂質メディエーターもまた、血管を拡張させる向きに働く。
抗原提示
異物を貪食したマクロファージはリンパ管を通ってリンパ節に移動し、T細胞に対して抗原提示を行う。
図 MHCクラス2(緑)を介した抗原提示
マクロファージは樹状細胞やB細胞とともにMHCクラス2を発現しており、貪食した異物の一部をMHCクラス2に乗せることで細胞表面に提示し、対応するTCR(T cell receptor)を持ったT細胞の認識を待つ。抗原提示を受容したT細胞は活性化し、エフェクターT細胞として機能を発揮するようになる。
マクロファージはまた、分泌するTNFαなどの炎症性サイトカインを介して樹状細胞を活性化する働きもあり、間接的にも抗原提示を促進している。抗原提示能はマクロファージよりも樹状細胞のほうが強い。
関連:樹状細胞
活性化マクロファージ
マクロファージは、ヘルパーT細胞(Th1)が分泌するインターフェロンγ(IFNγ)を受容すると「活性化マクロファージ(M1マクロファージ)」と呼ばれる状態に変化し、一部は融合して巨大な「※ラングハンス型巨細胞」となる。
活性化マクロファージは貪食能が上昇した状態であり、また抗ウイルス作用・抗腫瘍作用も示す。活性化マクロファージが炎症部位に集積しすぎて固化すると、肉芽腫と呼ばれる状態になる。
※ラングハンス型巨細胞は、皮膚に存在するランゲルハンス細胞とは異なる。
M1/M2マクロファージ
活性化マクロファージには、TNFαなどの炎症性サイトカインを産生して炎症を促進するM1型のほかに、IL-10などの抗炎症性サイトカインを産生して炎症を抑制するM2型という全く正反対の種類が存在する。M1型は免疫応答、M2型は組織修復に働くと考えられている。
IFN-γなどのTh1サイトカインによって活性化されるM1マクロファージとは異なり、M2マクロファージはIL-4、IL-6やIL-10などのTh2サイトカインによって活性化されたマクロファージである。Th1・Th2についてはT細胞の項目を参照。
ガン悪性化とマクロファージ腫瘍組織に浸潤したマクロファージを、TAM(Tumor-associated macrophages)と呼ぶ。TAMはM2マクロファージに属するため、腫瘍でのTAMは免疫応答を抑制し、腫瘍の悪性化の原因となることが指摘されている。
腫瘍の周囲のマクロファージがM2型であるのは、がん細胞がIL-6を分泌しており、マクロファージのM2型への分化を促しているためであると考えられている。
腫瘍に存在するマクロファージは免疫応答抑制に留まらず、VEGF(血管内皮増殖因子)を産生して血管新生を促したり、EGF,FGFといった成長因子を放出することにより、がん微小環境を形成することによっても悪性化を引き起こしている。
死細胞の除去
マクロファージはまた、アポトーシスを起こして死んだ細胞を除去する役割も担っている。
アポトーシスを起こしかけた細胞では通常は細胞外膜には存在しないリン脂質であるホスファチジルセリン(PS) を表出し、またマクロファージが分泌する補体成分C1qが細胞膜に結合している。マクロファージはPSやC1qを介して細胞を認識し、貪食することで除去している。
一般に、アポトーシスを除去する際は炎症を起こさないが、ネクローシスを起こした細胞は炎症を引き起こすことが知られている。
これは、ネクローシスに伴って放出されたHMGB1などの細胞内成分(Damage associated molecular patterns, DAMPs)がTLRに結合し、炎症性サイトカインの放出を促進するためと考えられている。
マクロファージの発見
マクロファージは1892年にロシアの微生物学者・メチニコフによって発見された。メチンコフはヒトデの幼生にバラの棘を刺して一晩放置していたところ、運動性の細胞によって包囲されていることを発見し、この細胞をマクロファージと名付けた。メチニコフはこの功績で1908年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。
なお、ヒトの免疫細胞はマクロファージのほかに単球や好中球・樹状細胞・リンパ球など様々な種類のものが存在するが、無脊椎動物ではマクロファージのみで免疫を担うと考えられている。
特殊化したマクロファージ
組織特異的に特殊化したマクロファージとしては、以下のものがあげられる。
・破骨細胞 … 骨の分解を行うマクロファージ
・クッパ―細胞 … 肝臓の類洞に位置するマクロファージ(下)
・ミクログリア … 脳内のマクロファージ
・肺胞大食細胞 … 肺胞のマクロファージ
クッパ―細胞
クッパ―細胞は、肝臓の類洞内皮細胞に接着し、類洞内に常在するマクロファージの一種である。
クッパ―細胞は通常のマクロファージと同様、消化管を介して取り込まれた異物を排除する働きを持つ。また、大量の異物を食すると活性化し、サイトカインを放出して類洞外の伊東細胞を刺激し、コラーゲン産生・線維化を促進する。
参考文献
腫瘍微小環境におけるマクロファージの役割 -病理学から見たがん治療へのアプローチ
熊本大 竹屋元裕 先生
休み時間の免疫学 講談社 斎藤紀先

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。