概要
クロム親和性細胞は、副腎髄質に位置し、ノルアドレナリン・アドレナリンなどのカテコラミン類を分泌する細胞である。発生学的には、交感神経の節後神経細胞が軸索を失ったものと考えられている。酸化剤であるクロム塩溶液を加えるとカテコラミンが酸化され、茶色のポリマーが生じることから、その名がつけられた。
参考:ECL細胞
カテコラミン
カテコールアミンは、チロシンから合成されるL-ドーパ、ドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの物質群を指す。チロシンからL-ドーパを合成するチロキシンヒドロキシラーゼTHが合成経路の律速経路となっている。
チロシン
ノルアドレナリン(エピネフリン)
アドレナリン
クロム親和性細胞からは主にアドレナリン(80%)とノルアドレナリン(~20%)が分泌される。アドレナリン、ノルアドレナリンの主な作用は共に血圧上昇であるが、アドレナリンは心臓の収縮を強化し、ノルアドレナリンは血管収縮を強化するという点が異なる。
分泌制御
クロム親和性細胞は、交感神経節の節前神経細胞に神経支配される。節前神経細胞がアセチルコリンを分泌すると、それを受容したクロム親和性細胞に脱分極が発生し、カルシウム濃度が上昇するとによってカテコラミン小胞が分泌(エキソサイトーシス)される。
神経細胞から分泌されるPACAPという27-38アミノ酸から成るペプチドも、カテコラミン分泌を制御する。PACAPはGPCRに受容され、カテコラミン合成の律速酵素チロシンヒドロキシラーゼ(TH)を活性化し、また転写を促進することで、蓄積されるカテコラミンの総量を増加させる。
また、副腎皮質が分泌する糖質コルチコイドを受容したクロム親和性細胞では、ノルアドレナリンからアドレナリンを合成する反応を担う酵素PNMTが活性化され、アドレナリンの分泌が増強される。
節後神経細胞とクロム親和性細胞
交感神経系の節後神経細胞は、節前神経細胞が放出したアセチルコリンの刺激を受けて脱分極し、ノルアドレナリンを放出する細胞である。クロム親和性細胞も節後神経細胞と同様にアセチルコリン受容体や電位依存性のイオンチャネル、シナプス小胞を持っており、アセチルコリンを受容すると脱分極してカテコラミンを分泌する。
神経細胞とは異なり、通常クロム親和性細胞は軸索を持たないが、アストロサイトを培養した培地(Conditional medium, 分泌物を含む)や神経成長促進因子を加えると神経様の形態を示すようになると報告されている。
褐色細胞種
クロム親和性細胞ががん化したものを、褐色細胞種という。褐色細胞種は無制御にカテコラミンを分泌してしまうことで高カテコラミン血症となり、高血圧(Hypertension)高血糖(Hyperglycemia)代謝亢進(Hypermetabolism)頭痛(Headache)発汗過多(Hyperhydrosis)の5H 病と呼ばれる症状を示す。アドレナリンα2受容体抑制するクロニジンという薬で高カテコラミン血症が抑えられない場合、褐色細胞腫と診断される。
2018年のノーベル賞医学生理学賞となった低酸素応答因子HIF、を分解するVHLユビキチンリガーゼを原因とする遺伝病フォン・ヒッペル・リンドウ病、の主要な病態である。
参考文献
1)Chromaffin cells as a model to evaluate mechanisms of cell death and neuroprotective compounds
2) Medical histology – Indiana state university
3)What’s New in Endocrinology: The Chromaffin Cell

2019年3月薬学修士。現在は博士課程の駆け出し研究者です。
細胞生物学を専門分野として、3年以上研究を続けています。
図は青でDNA,緑で紡錘体(微小管)を免疫染色した画像です。
よろしくお願いします。