ヒトの全細胞

ヒトの体は37兆個の細胞から構成され、その種類としては約200種であると言われています。「赤血球」「神経細胞」「骨細胞」などの体内の細胞と、「iPS細胞」「HeLa細胞」などの培養細胞を解説します。

培養細胞

HeLa細胞

投稿日:2019年1月7日 更新日:

HeLa細胞
(HeLa cell)

○HeLa細胞とは

HeLa細胞は、ヘンリエッタ=ラックスという黒人女性の子宮頸癌を由来とする細胞株である。1951年に確立されたHeLa細胞はヒト培養細胞の中で最も長い歴史を持ち、分裂の速さや環境変化に対する生存力の強さ、付着細胞であることが培養を容易にしているため、現在でも多くの研究室でin vitroモデルとして用いられている。

HeLa
図1 HeLa細胞
DNAをHoechestという色素によって染色したもの。左側の細胞は分裂期に入っている。




○不死化

通常のヒト細胞を組織から分離してシャーレ上で培養しようとする場合、何回かは分裂を繰り返すが、ある回数以上は分裂することができない。これをヘイフリック限界と言い、ヘイフリック限界を無視して無限に分裂を繰り返す細胞を,不死化した細胞、と呼ぶ。

ヘイフリック限界の分子的原因はテロメア短縮である。細胞周期を一周するごとにDNAは二倍に複製されるが、その両端を完全に複製することは不可能であり、DNAの両端に存在する「テロメア」という遺伝情報の乗らない繰り返し配列(TTAGGG)が分裂ごとに短くなっていく。テロメアは分裂カウンターの役割を果たすと言われ、5kbを切ると分裂周期は止まってしまう。ガン細胞などの不死化した細胞はテロメアを延長するテロメラーゼという酵素を多く発現しているため、ヘイフリック限界を回避できることが知られている。

○ヒトパピローマウイルス

HeLa細胞の場合、ヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮頚部に感染したことが不死化の原因であるとされる。HPVは二本鎖のDNAウイルスであって、複数のタンパク質をコードする(Open reading frame)配列を持つ。その中に位置するE6,E7と呼ばれるたんぱく質が不死化の原因になったと考えられており、それぞれp53,pRBの働きを阻害する。p53はDNA損傷や環境変化に応答して修復やアポトーシスを誘導するタンパク質であり、pRBはS期に進行させる転写因子E2Fと結合して抑制する働きを持つ。p53,pRBは共に著名ながん抑制遺伝子である。

さらにp53はテロメラーゼの発現を抑えることが報告(Xu, et.al, 2000)されており、結果としてE6はテロメラーゼの発現増強の原因の一つにもなっていると考えられる。

なお、長い歴史の中ですでにパピローマウイルスのDNAはHeLa細胞のゲノムに挿入されており、HeLa細胞を扱ってもウイルスに感染する心配はない。

○HeLa細胞の異数性

通常、細胞は1-22番の常染色体を2本ずつと性染色体2本で、合計46本(2n)の染色体をもつ。しかしながら、HeLa細胞は異数性であり、それより多くの染色体をもっていることがしられている。

下の図は2006年に発表されたHeLa細胞の染色体の様子であるが、全ての染色体が異常に多いことがわかる。染色体の本数は細胞ごとに異なり、平均して82本程度になっている。

HeLa karyotype
図2 HeLa細胞の染色体数は異常である。
Smirnov et al., 2006 より

○HeLa細胞の培養

HeLa細胞は付着細胞であり、シャーレ(ディッシュ)の上で育てることができる。分裂はおよそ24時間に一回であり、シャーレ上を細胞が埋め尽くした状態を(100%)コンフルエントという。例えば今50%コンフルエントであれば、100%コンフルになるのは明日、と考えられる。HeLa細胞に限らず、コンフルエントに至ってしまった培養細胞は形質が変化することが経験的に知られているため、そうなる前に数を調整する必要がある。

シャーレに付着した細胞をトリプシン処理によって剥がし、数を減らして別の新しいシャーレに撒きなおす作業を「継代」と呼ぶ。継代もまた数をこなすごとに細胞の形質が変化するので、その回数を記録したり、継代回数の少ない細胞を冷凍保存しておく必要がある。

培地はE-MEM(最小必須培地)と呼ばれる液体にウシ胎児血清(FBS)を加えたものが用いられる。一般的に血清を加えないと細胞は分裂しないことが知られており、その原因物質は成長因子であると推測されるが、特定はされていない。ただし、HeLa細胞はFBS無しでも分裂することができるともいう。

○まとめ

  • HeLa細胞は、60年前に確立された最古のヒト培養細胞
  • 黒人女性ヘンリエッタ=ラックスの子宮頸がん細胞が由来
  • パピローマウイルスの影響で不死化




〇参考文献

・<総説>ヒトの老化・ガンとテロメラーゼ 井出利憲・田原栄俊

・Downregulation of telomerase reverse transcriptase mRNA expression by wild type p53 in human tumor cells.

Xu,D et al  oncogene, 2000

・HeLa 商品詳細

http://www.saibou.jp/service/kensaku/detail.php?catalogno=EC93021013-F0

・細胞培養講座「血清はなぜ必要?」

http://www.saibou.jp/service/know07.php

・Wikipedia

テロメア

HeLa細胞

ヒトパピローマウイルス

-培養細胞

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