ヒトの全細胞

200種類あると言われる人の細胞を、一つ一つ、全てまとめるつもりです。
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カテゴリ: 生殖細胞

セルトリ細胞

(Sertoli cell)


〇セルトリ細胞とは

 

セルトリ細胞は、柱状の形態をとった精細管の上皮細胞である。セルトリ細胞間の密着結合によって血液精巣関門を形成し、また精子形成を助ける「ナース細胞」としての役割を持つ。1865年にこの細胞を発見したセルトリ博士からその名がつけられている。

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図1 セルトリ細胞

セルトリ細胞(7)は血液精巣関門(8)を形成し、生殖細胞の分化(1-6)を支えている。





〇セルトリ細胞の形態


セルトリ細胞の形態学的な特徴は、①核が大きく、②Cytosolic Armと呼ばれる構造を持ち、③精細胞と接していることにある。セルトリ細胞の核は基底膜に近いところに位置し、なぜか球形ではなく刻みの入った形をしている。クロマチン構造は密集していないユークロマチンが主であり、大きい核は薄くしか染色されないため、PAS染色での識別は困難である。その一方で、核内構造体である核小体は逆に非常に濃く染まり、近接する二つのChromosome center satelliteとともに、三つ一組で観察される。IHCによって核を確認するためのマーカーとしては、AR(アンドロゲン受容体)やSOX9、WT1といった転写因子が用いられている。

Cytosolic Armは精子を包み込んでいる、厚さわずか50nmの薄い構造体である。一つのセルトリ細胞から何本のもArmが伸びており、細胞の表面積は16000μm2にも及ぶ。直径10umの球形細胞の表面積が300μm2程度であるから、これは非常に大きな値であることがわかる。

 

 

〇精子形成の補助


セルトリ細胞は精子分化のための環境を提供するとともに、各種シグナルによって分化を促進すると考えられている。精原細胞のみを体外に抽出したin vitro条件でも精子は一定率で分化するが、その効率は精巣内部に大きく劣る。

精原細胞から精細胞への分化過程にある細胞は、常にデスモソームやギャップ結合、接着結合を介してセルトリ細胞に接しながら、セルトリ細胞の細胞間隙を基底膜から内腔側へと移動する。内腔まで至った精細胞は鞭毛を内腔側に伸長していくにつれてセルトリ細胞の奥深くに貫入し、核の近くにまで迫る。セルトリ細胞の側ではApical Ectoplasmic specialization(ES) と呼ばれる構造が精細胞との接着面とアクチン繊維とをつなぎ留め、薄いArmの形態を支えている。最終的に十分成熟した精細胞はアクチン―ミオシンモーターの力で内腔側へ押し返され、セルトリ細胞が精細胞の細胞質の大半を食作用によって回収し、精子は精細管内腔に放出される。放出された細胞質を残余体と呼ぶ。

セルトリ細胞は内分泌されたFSH(卵胞刺激ホルモン)やテストステロンのシグナルターゲットである。セルトリ細胞は受容したシグナルを生殖細胞に転送する働きを持ち、例えばセルトリ細胞によるビタミンAの傍分泌は精原細胞A型からA1型への分化を促す。


 

〇血液精巣関門



セルトリ細胞同士の密着結合とそれに結合するBasal ESは、血液精巣関門(Blood testis barrier : BTB)を形成する。血液精巣関門は血漿成分を完全に遮断するため、関門を超えて内腔側に移動した細胞は、すべてセルトリ細胞からの栄養供給を受ける。具体的には、例えば鉄イオン輸送に関して、セルトリ細胞がトランスフェリンを産生して鉄を集め、それを内腔側に放出していることが知られている。セルトリ細胞には精細胞の不要物を回収する働きもあり、グルタチオン還元酵素やCYP450といった薬物代謝酵素群の発現が顕著に高くなっている。

精原細胞からの分化過程での細胞移動の際には、セルトリ細胞は適切に密着結合やESの構造を組み替えて関門を乱さずに通過させることができる。一方で、血液精巣関門は免疫細胞や抗体を通過させないため、精細管の中は免疫の無い状態が維持され、免疫細胞による精子の攻撃が抑えられている。精子の形成が始まるのがすでに免疫寛容が終了した生誕後であるため、免疫細胞は精子を異物と認識してしまうのだ。睾丸の怪我で免疫細胞と精子が接触してしまうと精巣炎を発症し、最悪の場合男性不妊に陥るらしい。

セルトリ細胞は別個体に移植されても生存し、またともに移植された細胞をも免疫反応から守る働きがあるため、放出する物質によって化学的にも免疫阻害を行うと考えられている。具体的にはアポトーシス阻害物質(SERPINA3N)や補体阻害(CD55ほか)、抗炎症サイトカイン(TGFB1)などが報告されている。この機構をうまく利用して、糖尿病患者にインスリン放出β細胞とセルトリ細胞を移植するなどの医療応用が可能であろうと考えられている。


〇幹細胞ニッチ


精巣において、幹細胞はセルトリ細胞と精細管基底膜との間の”幹細胞ニッチ”に所在しており、セルトリ細胞はGDNF(グリア細胞由来神経栄養因子)を放出することによってこの幹細胞ニッチを支えている。GDNFは幹細胞の分化を抑制し、自己複製を促進する働きを持つ。GDNFの放出はFSHやFGF2による正の制御と、幹細胞が膜に生やしているNotchリガンド(DLL/JAG)の負の制御によって調節されている。幹細胞の増加はセルトリ細胞のNotchシグナルを活性化し、GDNFの放出抑制を引き起こす。幹細胞の減少はこの逆の効果を生み出すことで、幹細胞の数が維持されている。

index

図2 幹細胞の維持




〇参考文献

・The Sertoli Cell: one hundred fifty years of beauty and plasticity (L. R. Franca. et al., 2016)


精子
(Spermatozoon)


〇精子とは


精子は男性の生殖細胞である。頭部と尾部とに大別され、頭部は先体と核から、尾部は頸部、中片部、鞭毛から成る。頭部・尾部の長さはそれぞれ5μm、50μm程度であり、精巣で毎日一億個ほどが生産されている。

動物のみならずシダ・コケ・藻なども精子を保有しており、これらを総称して英語では「Sperm」と呼ぶ。中でもヒトのように単一の移動性鞭毛を保有するものを「Spermatozoon/Spermatozoa(複)」と呼び、藻の精子のように移動しないものを「Spermatium」という。
精子構造

図1 精子の構造 英語版Wikipediaより



〇頭部

精子の移動先端には、精子核の帽子のような構造体、先体(アクロソーム)が位置している。先体はゴルジ体が変化して生じた細胞小器官であり、ヒアルロニダーゼ等の加水分解酵素群を含む。これらの酵素は受精の際に卵膜を通過する反応、先体反応に必要である。卵子は細胞膜の周囲に纏う透明帯が精子と接触すると、先体反応が促進される。

精子の核は一倍体であり、常染色体を核一本ずつと性染色体を一本(XorY)で、合計23本の染色体を含んでいる。それぞれの染色体はDNAのCpGアイランドに適切なメチル化を受けており、受精後の発現が抑制される。これをゲノム刷り込み、もしくはゲノムインプリンティングという。また精子のヌクレオソームヒストンは塩基性アルギニン残基に富んだプロタミンというタンパク質に90%程度置換されており、DNAは高度に凝集している。

核と頸部の間は後輪(Posterior ring)と呼ばれる構造が観察され、また核の脇には先体から頸部に向かうManchetteと呼ばれる微小管の束が存在し、物質輸送に関与している。

〇尾部

核の直下にある精子で最も細い領域を頸部という。頸部には二本の中心小体(27本の微小管から成る円筒構造)が存在し、核に近いものを近位(proximal)中心小体、それと垂直に交わっているものを遠位(distal)中心小体と呼ぶ。卵子は中心小体を持たないため、受精後には二本の中心小体が二つの細胞分裂極として機能する。

Centriole
図2 頸部の二本の中心小体
The sperm centrosome: its role and significance in nature and human assisted reproduction より


頸部の直下にあり、10-14層のらせん状に連なったミトコンドリアが位置する領域を中片部という。Jensen ringもしくはRing centrioleと呼ばれる構造が鞭毛部との境界に存在し、物質の行き来を妨げている。

頸部の遠位中心小体=基底体を構成する微小管が長く伸びたものが、鞭毛の軸糸につながっている。中心小体が微小管のマイナス端、軸糸先端がプラス端である。軸糸は中央に2本の中心微小管と、その周りに2本の微小管9対(周辺微小管)が囲った9+2構造をとっており、間を架橋するモータータンパク質ダイニンがATPのエネルギーによって波打ち運動を起こしている。精子は鞭毛運動による推進力を利用して分速数ミリメートルの速度で移動することができる。鞭毛の先端部は細胞膜が存在せず、裸の状態で外部に露出している。

〇精子の形成

精子は、精巣にびっしり詰まった精細管の中で精原細胞から分化する。Spermatogenesisと呼ばれるこの過程はおよそ74日かかると考えられている。

まず精細管の基底膜に接触しているA型精原細胞が有糸分裂によってB型精原細胞となり、少し内腔側に移動したB型が有糸分裂で一次精母細胞となり、そして減数第一分裂で二次精母細胞となり、最後に減数二次分裂で精細胞、成熟して精子となる。この精子の分化過程はすべてセルトリ細胞に接触して起きており、分化の段階を経るごとに精管の基底膜から内腔へと移動していく。

セルトリ細胞同士は密着結合と、精巣特異的なESと呼ばれる細胞接着により、細胞間隙からの免疫細胞や物質の行き来を妨げており、これを血液精巣関門 Blood testis Barrierと呼ぶ。精母細胞が分化して内腔へ向かう際には既存のBTBが分解されて新たなBTBが基底膜側に作られるため、精母細胞はBTBを乱さずに通過することができる。

精細管内腔まで到達した丸い精細胞を、英語ではSpermatidと呼び、SpermatidからSpermatozoon(精子)に分化する過程をSpermiogenesisという。25日程度を要するSpermiogenesisはゴルジ体期、先体期、鞭毛形成期、成熟期の四段階に分けられる。ゴルジ期にはミトコンドリアとゴルジ体が反対側に移動して極性を生むと同時に核の高度凝集が起こり、先体期、鞭毛期にはそれぞれの構造が形成され、成熟期になるとリボソームなどの不要な細胞質を含む小胞、残余体が放出され、セルトリ細胞の食作用を受ける。残余体を失うまでは精細胞同士は細胞質を介して互いに繋がっている。


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図3 精子分化
 基底膜(1)から内腔側に移動しつつ分化(2~6)する。精細胞は分化中常にセルトリ細胞(7)に接触し、セルトリ細胞同士は血液精巣関門(8)を形成している。

〇精子の旅

精子は、精巣において精原細胞が減衰分裂することによって生じる。発生した精子ははじめ運動能を持たないが、精巣上体に排出されてから成熟し、やがて運動能を獲得する(Maturation)。精巣上体は精管につながっており、射精管、尿道へと続く。精子は運動能を獲得したのちも、精巣上体から尿道までの移動は平滑筋による蠕動運動で輸送されている。

精子は射精によって対外に放出されたのち、女性の体内に入った場合、卵子に引き寄せられて卵管を移動し、やがて受精に至る。細胞がある方向に誘引されることを走化性と呼ぶが、精子の走化性の原因物質は黄体ホルモンのプロゲステロンが候補として考えられている。

〇無精子症

男性精液中に精子が観察できない状態を無精子症と呼び、男性の1%が罹患していると考えられている。物理的に精管が閉塞している状態を閉塞性無精子症、精子形成不全を非閉塞性無精子症と分類することができる。非閉塞性の大きな原因の一つは高プロラクチン血症である。プロラクチンは、脳下垂体前葉から放出されるタンパク質ホルモンであり、生殖行動を女性的に促進する働きを持つ。

非閉塞性無精子症の不妊治療としては、かつては第三者から提供を受けるしか手段がなかったが、現在は精巣を手術することで3~4割の患者に若干の精子が認められることが明らかになった。




〇参考文献
・Current biology 「Spermatogenesis」(Hitoshi Nishimura, 2017)
・The sperm centrosome: its role and significance in nature and human assisted reproduction ( 2011)
・ヒト精子の超微形態と妊孕性(年森清隆、2008)
・筑波大学下田臨海センター稲葉研究室ホームページ
・Wikipediaの項目
 Spermatozoon 

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