ヒトの全細胞

200種類あると言われる人の細胞を、一つ一つ、全てまとめるつもりです。
2019/1/6 human-cell.comにサイト移転します。よろしくお願いします

カテゴリ: 目に関する細胞

ミュラー細胞
(Müller cell)

○ミュラー細胞とは

ミュラー細胞は、網膜に特異的に存在するグリア細胞である。グリア細胞は神経系を構成する神経以外の細胞のことを指し、網膜には脳と同じようにアストロサイトやミクログリアも局在している。ミュラー細胞の核はは内核層(水平細胞・双極細胞の層)に位置し、内境界層から視細胞層にまでの網膜の全層に支柱のように伸びた形態をとっている。ドイツ人のヘンリッヒ・ミュラー博士(1820-1864)によって発見・報告された。


myu
http://www.igakuken.or.jp/retina/topics/topics1.html より引用

図1 網膜の層構造
 


○機能

ミュラー細胞の主な機能は物質の取り込み視神経への栄養供給血流の調整、の3つに大別される。

1.物質の取り込み


まず取り込まれる物質には、視細胞や双極細胞が神経伝達物質として用いたグルタミン酸・GABA、レチナールの代謝産物であるレチノール、K+などのイオンがある。ミュラー細胞のグルタミン酸・アスパラギン酸トランスポーター(GLAST)を介して取り込まれたグルタミン酸はグルタミンに還元されて神経細胞へ戻され、神経細胞内部で再びグルタミン酸やGABAに合成されて神経伝達物質として利用される、というサイクルをとっている。

レチナールは錐体・桿体細胞においてシス型がオプシンと結合しており、光を浴びてトランス型になると外れ、デヒドロゲナーゼに還元されてトランス型レチノールとなり、細胞外に排出される。細胞外に排出されたレチノールはミュラー細胞が回収し、再びシス型レチノールに戻した上で細胞外に分泌される。それを視細胞が取り込んで酸化、シス型レチナールとして、再びオプシンに結合する。

2.栄養供給

ミュラー細胞はまたグリコーゲンを産生し、網膜の栄養を蓄える役割をも果たす。ミュラー細胞自身のエネルギー=ATP産生は毛細血管から取り込んだグルコースの嫌気的解糖系と乳酸発酵によっていることが知られているが、これは視神系細胞に酸化的リン酸化のための酸素を温存するためとされる。ミュラー細胞から視神系に対しての栄養分は乳酸の形で提供されており、その量は受容した光に応答して増えている。

3.血流の調整

血管内皮細胞にも接するミュラー細胞はさらに、病原体などの異物流入を防ぐ血液網膜関門の形成にも寄与する。分子的には、ミュラー細胞はPDEF(色素上皮由来因子)やトロンボスポンジンという物質を分泌することで血管新生を防ぎ、血管内皮細胞同士の結合を強化している。


そのほかにも視神経を覆う絶縁体を形成したり、構造を器械的に支えたりと、網膜神経伝達の維持に働く。また、エステラーゼを介した視細胞の分化促進や発生における視神経軸索の誘導機能も認められている。

ミュラー細胞は網膜の3つのグリアのうち、視神経と同じ系列の網膜幹細胞から分化する唯一のグリア細胞である。網膜幹細胞はミュラー細胞の他にアマクリン細胞、視神経幹細胞、双極細胞、神経節細胞、内皮細胞、周皮細胞へと、網膜のすべての細胞に分化することができる。またミュラー細胞自体も分化(脱分化?)能を残しているため、網膜幹細胞に戻った上で、損傷をはじめとする刺激に応じて網膜の細胞へと分化することができる。




〇参考文献
実験医学オンライン
 https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/610.html

Müller Cells and Diabetic Retinopathy(Vision,Res 2018)

Wikipedia
 Muller cell

脳科学辞典
  視覚系の発生

目次へ

網膜神経節細胞
(Retinal ganglion cell)

○網膜神経節細胞とは

網膜神経節細胞は、双極細胞やアマクリン細胞から受け取った情報を処理し、視床外側膝状体へと伝える神経細胞である。長い軸索をその特徴とし、網膜全体で150万細胞ほどが存在する。双極細胞に対応したオン型とオフ型とが存在し、その受容野は双極細胞と同様に中心周辺拮抗型である。神経節細胞にはミエリン鞘がなく、間脳が突出したものとされる。


網膜の細胞
図1 網膜
 黄色で示されているのが神経節細胞である。



○スパイク

オン型錐体双極細胞が光受容のシグナルを受けてグルタミン酸を発すると、オン型の神経節細胞のAMPA/KA受容体に結合する。神経節細胞は暗時でも自発的に活動電位のスパイクを出しているが、グルタミン酸を受容すると発火の頻度が上昇する。オフ型はこの逆であり、光があたる場合にスパイク頻度が抑制される。スパイクの頻度を情報として下流に伝えている。

supaiku
図2 スパイク
 中心オフ型神経節細胞は、中心がオフで周囲がオンの場合にもっともよく発火する。



○視神経交叉

神経節細胞の軸索が集まったものを視神経という。神経節細胞の軸索は鼻側半分と耳側半分とでまとめられ、一つの目からは二本の神経が伸びている。そのうちで、耳側半分の神経線維は同じ側(右目なら右側)の視索(交叉後の神経束)に入り、鼻側半分のものは反対側に入る。右目と左目からの神経線維は視床の近くで交わり、これを視神経交叉という。


交叉した視神経は間脳の視床外側膝状体(左右)に投射される。この仕組みによって、右視野の情報は左の外側膝状体で、左視野の情報は右側の外側膝状体で処理されることとなる。


nou
図3 視神経交叉
 http://www.js-brain.com/kankaku/sikousa.html より引用


○視床外側膝状体

外側膝状体は視床の一部をなす部位であり、左右に一対存在する。6層の構造を持って腹側を第1層と呼び、1、2層に位置する神経細胞をM細胞、3,4,5,6層をP細胞、間にあるものをK細胞という。M細胞(大細胞)は高速で簡単な処理を、P細胞(小細胞)は低速で詳細な処理を行う。K細胞(顆粒細胞)に関してはよくわかっていない。また、外側膝状体と同じ側に位置する目(耳側)の情報は2,3,5層に、反対側の目(鼻側)は1,4,6層に投射される。

外側膝状体で処理された情報は、大脳一次視覚野へと向かう。

Lateral_geniculate_nucleus
図4 外側膝状体


〇神経節細胞の種類

外側膝状体のどの細胞に投射するかに応じて、神経節細胞はいくつかの種類に分かれている。
(日本語訳は筆者)

1.Midget細胞(小人細胞)
 外側膝状体のP細胞に投射する神経節細胞である。受容野は小さく、色に応答する。応答速度は速い。
2.Parasol細胞(日傘細胞)
 外側膝状体のM細胞に投射する神経節細胞である。受容野は大きく、コントラストに応答する。応答速度は遅く、持続する。
3.Bistratified細胞(二層細胞)
 外側膝状体のK細胞に投射する神経節細胞である。受容野は中間で、色・コントラスト共に応答する。応答速度は中くらいである。
4.光感受性神経節細胞
 色素としてメラノプシンを持ち、それ自体が光を受容する神経節細胞である。視交叉上核に投射し、概日周期に関係する。


〇関連項目 
双極細胞
アマクリン細胞

〇参考文献
・脳の仕組みと役割
 http://www.js-brain.com/kankaku/sikousa.html

・Wikipediaの各項目
 神経節細胞
 概日リズム
 外側膝状体 
 視神経

目次へ

アマクリン細胞
(Amacrine cell)

○アマクリン細胞とは

アマクリン細胞は、網膜の桿体双極細胞から神経節細胞へのシグナル伝達を担う細胞である。情報処理を行っているとされるが、不明な点も多く残されている。

網膜の細胞
図1 網膜の細胞
 緑色で示された細胞がアマクリン細胞である。橙色の双極細胞と黄色の神経節細胞が接する付近に存在し、信号を修飾する


○A2アマクリン細胞

A2アマクリン細胞と呼ばれる種類のアマクリン細胞は、桿体双極細胞(オン型のみ)の信号を受容して、錐体経路オン型の信号を促進し、オフ型を抑制する働きを持つ。
桿体双極細胞は、受容野の中心に光が当たった時に神経伝達物質のグルタミン酸を放出する。アマクリン細胞はAMPA/KA型受容体を持ち、グルタミン酸を受容すると脱分極する。オン型錐体双極細胞はアマクリン細胞とギャップ結合しているため、結果として光を受容すると脱分極側に振れる。

一方でオフ型錐体双極細胞に対しては、脱分極した際に興奮抑制性物質のグリシンを放出する。グリシン受容体はGABAA受容体に類似しており、リガンド結合に応じてClイオンを流入させることで、過分極側へ作用する。

GABA

図2 GABAの構造
 GABAは日本語ではγーアミノ酪酸という。カルボニル炭素に隣接するCがα、その隣がβ、その隣がγであり、そこにアミノ基がついていることからこの名がついている。神経抑制性物質である。

guriin
図3 グリシンの構造
 GABAと似た構造をしており、こちらも興奮抑制性である。


○多軸索アマクリン細胞

多軸索アマクリン細胞は、広範囲の桿体双極細胞からの信号を受信し、広範囲の錐体双極細胞へと発信する種類のアマクリン細胞である。首を振るなどして視野が動いた時に混乱しないよう、情報処理を助けているとされる。また、動いている物体への強く反応にも寄与している。


〇スターバーストアマクリン細胞

スターバーストアマクリン細胞は、物体の向きを検知する細胞である。この細胞は、GABAのみならず、興奮性神経伝達物質のアセチルコリンを合成する酵素、コリンアセチルトランスフェラーゼを放出するという特徴がある。


○多様性

アマクリン細胞はこの他にも、脊椎動物で16〜20種類が認められている。なお、これは形態の差で判断されているため、役割としてはもっと多様かもしれない。わかっているのは、脳に信号が到達する前に、網膜で既に多様で複雑な情報処理が行われているという事実ばかりである。


〇関連項目
双極細胞
網膜神経節細胞


〇参考文献
・滋賀大学 痛みと鎮痛の基礎 「網膜」
 http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/basic-eye.html
・埼玉医科大学生理学 「網膜の視覚情報処理」
 http://www.saitama-med.ac.jp/uinfo/seiri2/research-retina.html
・中央大学 上村修二 「多機能な網膜」
 http://www.bio.chuo-u.ac.jp/nano/kisoseibutsu/retina.pdf 

目次へ

水平細胞
(Horizontial Cell)

※先に双極細胞の記事をお読み下さい

○水平細胞とは

水平細胞は、網膜に存在し、視細胞から双極細胞にむけてシグナルを伝える細胞である。双極細胞それ自体も直接視細胞からのシグナルを受け取るが、水平細胞は双極細胞の周囲に存在し、周囲の幾つかの視細胞からのシグナルを受容する。桿体細胞の一種類、錐体細胞の三種類に応じて、水平細胞は四種類存在する。


○水平細胞の働き

その役目は、双極細胞のオン中心、オフ中心の機構を協同的に生み出すことにある。すなわち、オン型双極細胞がオンのシグナルで活性化された時、その周囲の水平細胞もオンシグナルを受けていれば、双極細胞を抑制するように働く。逆に水平細胞がオフシグナルを受けていれば、双極細胞を活性化する向きに作用する。水平細胞の役割は、シグナルを修飾することとも表現される。

まとめれば、双極細胞の受容野とは、双極細胞それ自身が直接シグナルを受け取る視細胞の受容野を中心として、水平細胞がシグナルを受け取る視細胞の受容野が周辺に広がった領域である。オフ型双極細胞がオフ中心と、オン型双極細胞がオン中心と呼ばれる所以である。

suiheinogainenn
図1 双極細胞と水平細胞
 図は、オン中心型の双極細胞を示している。
 左図では、光を受容して過分極した視細胞のシグナルを受け取り、脱分極している。
 一方右図では、双極細胞は直接は視細胞からのシグナルを受け取らないが、間接的に水平細胞からシグナルを受け取り、過分極している。

○分子機構

水平細胞は、AMPA/KA型グルタミン酸受容体を持ち、グルタミン酸を受容すると脱分極する。水平細胞は脱分極した状態において、視細胞に向けてGABAを放出する。
GABAは興奮抑制性の神経伝達物質である。GABAA受容体に結合し、Clイオンを流入させて過分極を起こす。すなわち視細胞が光受容したのと同じ向きに作用し、放出グルタミンの量を減らす効果がある。

まずはオン中心型双極細胞を考える。オン中心型の場合、視細胞から双極細胞へのグルタミン酸はシグナル抑制に働いている。中心のみがオンで外側がオフの時に最も強いシグナルが働くが、この時受容野周辺部では光を受容せず、グルタミン酸は多く放出されている。水平細胞は脱分極し、GABAを放出する。GABAを受容した視細胞はグルタミン酸の放出を減らす。これは双極細胞直下の視細胞にも作用するため、結果としてオン型双極細胞のグルタミン受容はさらに減って、より強いシグナルを受け取ることとなる。
概念
図2 オン中心型の機構
 →は活性化(脱分極)、T字は抑制(過分極)を表す。
 中心の視細胞に光が当たると、中心の視細胞からオン型双極細胞への抑制が弱まり、双極細胞を活性化する向きに働く。一方、周辺の視細胞に光が当たると、水平細胞の活性化が弱まる。すると水平細胞による中心視細胞への抑制効果が小さくなって、オン型双極細胞は抑制される。



オフ中心型においては、この逆である。すなわち、中心がオフ、周囲がオンの時にシグナルが強く表れる。オフ中心型双極細胞はグルタミン酸を受け取って活性化するが、オンの刺激を受けた水平細胞は過分極し、GABAをあまり出さない。すると中心の視細胞は大いにグルタミン酸を放出することができ、結果として双極細胞が強いシグナルを発することとなる。

概念おふ
図3 オフ中心型の機構
オン中心型とは、中心の視細胞のグルタミン酸によるオフ型双極細胞の反応のみが異なる。


〇関連項目
双極細胞
桿体細胞
錐体細胞

〇参考文献
・滋賀大学「痛みと鎮痛の基礎知識」
(http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/basic-eye.html)
・東京女子大学「生物学特論」 第12回 講義資料
(http://www.cis.twcu.ac.jp/~asakawa/MathBio2010/lesson12/)
・下垂体脊椎動物網膜の水平細胞から錐体への情報伝達に関する研究の進歩 高橋恭一

目次へ
続きを読む

双極細胞
(Bipolar cell)
○双極細胞とは

双極細胞は、網膜に存在し、いくつかの視細胞(錐体細胞、桿体)からの信号を処理して神経節細胞へと伝える細胞である。視神経の光応答シグナルを受け取って活性化するオン型と、シグナルがない場合に活性化するオフ型の、二種類が存在する。
網膜の細胞
図1 網膜の細胞
 青:視細胞(円柱型桿体細胞・錐型錐体細胞)
 赤:水平細胞 
 橙:双極細胞 
 緑:アマクリン細胞 
 黄:神経節細胞

○受容野

受容野とは、ある細胞ないし集団が担う受容の領域である。例えば目全体の受容野は、見えている現実世界の領域のことであり、レンズを頂点として、前方に無限に広がる円錐型をしている。一つ一つの双極細胞は幾つかの視細胞のシグナルをまとめて受容しているが、担当する視細胞達が光を受けている領域が、双極細胞の受容野である。一細胞あたりの受容野が小さければ小さいほど解像度は高い。双極細胞は中心窩の付近で最も密であるから、そこが視力を決定する。

○オフ中心とオン中心
Receptive_field
オフ型の双極細胞は、又の名をオフ中心型ともいう。
すなわち、受容野の中心がオフで周縁部がオンの時に活性化されるが、受容野の中心と周縁部がともにオフであるときは抑制される。オン中心型はこの逆であり、中心がオンで周縁がオフの時に活性化する。この仕組みによって目はコントラストを認識し、境界をはっきりと認識することができる。この機構には、水平細胞も大きく関与する。

○オン、オフの分子機構

オン型、オフ型の差を生み出す分子機構においては、視細胞からの神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体の違いが重要である。視細胞は光を浴びると膜が過分極を起こしてグルタミン酸の放出量が低下するが、双極細胞はこれを検知している。

まず、オン型の双極細胞は受容体としてmGluR6を持っている。mGluRは代謝型グルタミン酸受容体と呼ばれるグループに属したGPCRである。mGluR6はGiと共役しており、グルタミン酸を受容するとアデニル酸シクラーゼの活性を低下させ、cAMP濃度を下げる。cAMPはPKAを活性化し、PKAはCaチャネルをリン酸化し、開くことで脱分極を起こす働きがあるため、mGluR6は興奮を抑制する向きに働く受容体である。
視細胞が光を受けてグルタミン酸の放出量が減ると、この抑制効果が小さくなるため、興奮が下流へ伝わっていく。

一方、オフ型の双極細胞に存在する受容体はAMPA/KA型である。AMPA/KA型はチャネル共役型受容体であり、グルタミン酸と結合すると陽イオンチャネルを開いて脱分極を起こす。視細胞が光を受けてグルタミン酸が減るとこのチャネルが閉じるため、興奮は抑制される。

〇双極細胞の種類

桿体双極細胞と、3種類の錐体双極細胞が存在する。錐体双極細胞はオン中心型、オフ中心型ともに存在する一方で、桿体双極細胞はオン中心型のみが存在する。錐体双極細胞は直接に神経節細胞にシグナルを伝えるが、桿体双極細胞はアマクリン細胞を介する、という違いもある。

〇まとめ

・双極細胞は、視細胞の信号を神経節細胞に伝える細胞

・オフ中心型とオン中心型の二種類が存在する。

・グルタミン酸受容体の違いによって、オフ中心・オン中心の機能が支えられている。


〇関連項目
水平細胞
桿体細胞
錐体細胞

〇参考文献
・滋賀大学「痛みと鎮痛の基礎知識」
(http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/basic-eye.html)
・東京女子大学「生物学特論」 第12回 講義資料
(http://www.cis.twcu.ac.jp/~asakawa/MathBio2010/lesson12/)
・下垂体脊椎動物網膜の水平細胞から錐体への情報伝達に関する研究の進歩 高橋恭一
・Wikipedia「受容野」
・脳科学辞典「受容野」

目次へ

↑このページのトップヘ