ヒトの全細胞

200種類あると言われる人の細胞を、一つ一つ、全てまとめるつもりです。
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2020年06月

iPS細胞
(Induced pluripotent stem cell)


iPS細胞とは

iPS細胞は、複数の遺伝子を発現させることによって多様な分化能力(分化多能性)と無制限の自己複製能を獲得させた、体細胞由来の幹細胞である

京都大学の山中伸弥教授らによって2006年にマウス、2007年にヒト細胞から樹立され、2012年にノーベル医学・生理学賞が授与された。正式な日本語名称は人工多能性幹細胞という。「iPS」の名前はiPodのように普及してほしい、との願いから付けられている。

iPS
図 iPS細胞 (Cell, 2006)
 山中教授のグループによってはじめて報告されたiPS細胞のクローンの画像

ES細胞の問題点

iPS細胞の開発以前、分化多能性を持つ人工的な幹細胞としてES細胞が作られており、1998年に作製されたヒト由来のES細胞が治療に用いられることが期待されていた。


しかしながら、①ヒト胚から樹立することへの倫理的問題②移植された人の免疫がES細胞を攻撃してしまう移植拒絶反応の問題が存在し、治療応用は困難であった。患者本人の体細胞から幹細胞を樹立する技術が求められていた

ローマ
図 ES細胞への批判の例 : AFPの記事(2008年12月12日付)

iPS細胞の樹立


1990年代前半から、薬剤によってES細胞と融合した体細胞が多能性を獲得することが知られており、ES細胞の細胞質中に多能性獲得を誘導するタンパク質が含まれることが示唆されていた。


そこで、山中教授らはES細胞中に特徴的に発現する24の遺伝子を選択し、レトロウイルスを用いて体細胞(MEF細胞、マウス胎児線維芽細胞)に導入し、ES細胞特異的な転写因子を発現するようになるかを網羅的に調査した。


具体的な方法としては、転写因子Fbx15の代わりに薬剤G418への耐性遺伝子を付けて、G418処理で生存する細胞(クローン)数を計測している。


24遺伝子の中から1つずつを導入してもES細胞状に変化することはなかったが、24遺伝子全てを同時に導入した体細胞はES細胞様に変化した。導入する遺伝子の数を徐々に減らし、ES細胞状への変化に必要なタンパク質を絞り込むことにより、最終的に4つの遺伝子がES細胞様への変化に必要だということが明らかになった。

この時明らかになった4遺伝子,[c-Myc, Kif4, *Oct3/4, Sox2]は山中4因子と呼ばれている。 後の研究では、山中4因子のほか、複数の組み合わせでのiPS細胞の樹立が可能であることなどが確かめられている。


*Oct3/4:1991年にOct3と名付けられ、同じ遺伝子が一か月後にOct4と名付けられたため、併記されている転写因子。一種類の遺伝子であり、ただ"Oct4"と表記されることも多い。



山中教授らは変化した体細胞をiPS細胞と名付け、ES細胞同様の多能性があることを明らかにした。マウスへの導入の翌年には、同様の手法を用いてヒト成人の真皮の線維芽細胞を用いたヒトiPS細胞の樹立に成功している。6歳から81歳まで様々な年齢のヒトからiPS細胞の作製に成功している。

iPS細胞の利用

再生医療

iPS細胞の応用技術として、iPS細胞から分化させた健康な細胞を体内に移植することで疾患を治療しようという、再生医療が期待されている。これまでにiPS細胞からは内胚葉・中胚葉・外胚葉(神経細胞など)由来の細胞のいずれにも分化できることが明らかとなっている。


またiPS細胞からは腎臓・肝臓・脳・腸などのミニチュア臓器(オルガノイド)を作製できることが報告されている。2016年にはマウスiPS細胞から毛包を含む皮膚オルガノイドが作製され、2019年には、発生過程を再現することで肝臓・胆管・膵臓の三つをまとめて作製できることが報告されるなど、現在も日進月歩研究が進んでいる。



図 マウス皮膚に移植したiPS細胞由来の皮膚(緑)から生えた毛
 アデランスの研究開発 ホームページより


再生医療の治験はこれまでに加齢黄斑変性やパーキンソン病、心臓病、再生不良性貧血(血小板)の患者で実施されている。

創薬

iPS細胞は再生医療のほか、創薬にも応用されている。遺伝性の疾患をもつ患者の細胞から作製したiPS細胞を用いて、治療効果を持つ薬剤の探索が行われている。


例えば2020年6月には、家族性アルツハイマー病患者のiPS細胞を用いて効果が発見された薬剤の治験が始まった。研究に用いられた患者はプレセネリンという遺伝子に変異を持ち、アルツハイマーの原因物質であるアミロイドβが増えている状態にある。


既存のアミロイドβ低減薬は副作用の問題などから実用化に至っていないが、すでに安全性が確認されているパーキンソン病の既存薬剤がアミロイドβを低減させることがiPS細胞の研究から判明し、アルツハイマー病の治療結果が期待されている。

参考文献

Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors (Cell, 2006)

Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors (Cell, 2007)


Modelling human hepato-biliary-pancreatic organogenesis from the foregut–midgut boundary (Nature, 2019)


杯細胞
(Goblet cell)

杯細胞とは

杯細胞は、粘液の主成分であるムチンを分泌する、呼吸器・消化管の円柱上皮細胞である。

腸管側が大量の分泌顆粒によって膨らんでおり、形が西洋杯に似ていることから杯細胞と名付けられた。


gobletcell
図1 杯細胞の模式図 Birchenough et al, 2015より
 下部の丸い青は核、上部の緑色の下流が粘液の分泌顆粒を示している。


呼吸器官

気道・気管の上皮細胞は、杯細胞・クラブ細胞(クララ細胞)・神経内分泌細胞・繊毛細胞・基底細胞の5種類によって構成されている。杯細胞はクラブ細胞とともに呼吸器での粘液産生を担う。


粘液の主成分はムチンと呼ばれる糖たんぱく質である。ムチンのコアタンパク質は100kDa程度であるが、複数の糖鎖と結合することによって500KDa程度となり、さらに多量体化した状態で分泌される。ムチンの糖衣は保水能力を与え、細菌類のプロテアーゼからコアタンパク質を守っている。

Mucin-2

図2 膜結合型ムチンの模式図 (Wikipediaより)
黒い一本のコアタンパク質から複数の糖鎖が枝分かれしている。


気道の粘液は、空気とともに侵入する微粒子や細菌から組織を守る働きを持つ。通常、粘液内の微粒子は繊毛細胞によって体外へ送り出されているが、量が多くなると炎症が発生する。炎症によって粘液の産生量が増加した時、粘液は痰として体外に排出される。気道が常時炎症状態にある喘息やCOPD患者では杯細胞の数が増加していることが報告されている。


消化管

小腸

小腸の上皮細胞は、杯細胞・吸収上皮細胞・パネート細胞・腸内分泌細胞・タフト細胞・M細胞の6種類に分類される。気管のものと同様に、小腸の杯細胞もムチンを分泌して粘液の産生に働く。粘液は腸内細菌に対する腸管の物理防御の役割を果たすと同時に、パネート細胞の分泌する抗菌ペプチドを含む液体として、化学的バリアの役割を担ってもいる。


6種類の上皮細胞はいずれも基底の幹細胞から分化して生じ、3-7日で入れ替わると考えられている。杯細胞への分化にはNotchシグナルが阻害されることが重要である。

大腸

小腸の100倍の腸内細菌が暮らしている大腸にはパネート細胞が存在しない代わりに、より多くの杯細胞が位置し、圧倒的に厚い粘液層に覆われている。腸管側に位置し、ムチンが密に詰まっている内粘液層と、腸内細菌のプロテアーゼによって緩んだ外粘液層の二層に分けることができる。腸内細菌は外粘液層にのみ生息し、内粘液層は無菌状態に保たれている。

ムチン遺伝子に異常を持つマウスは粘液層を欠いており、腸管上皮細胞に細菌が侵入することが報告されている。

粘液分泌制御

腸内細菌から腸管上皮を防御するという粘液の役割を支える為、杯細胞は自然免疫に関与するTol様受容体やNod様受容体といった分子で細菌由来の物質を認識すると、粘液の放出を促進することが報告されている。また、腸内細菌が産生する酢酸・プロピオン酸などの短鎖脂肪酸にも反応して粘液分泌を亢進する。




参考

腸管上皮細胞と腸内細菌との相互作用
http://leading.lifesciencedb.jp/5-e007


看護roo 気道は何をしているの?

New developments in goblet cell mucus secretion and function

B細胞
(B cell)

○B細胞とは


B細胞は、抗体を産生する免疫細胞である。造血幹細胞が骨髄(Bone marrow)で成熟して形成される。T細胞とともに、リンパ節でよく見られるリンパ球の一つに分類される。


関連:T細胞

B
図1 B細胞の分類




○B細胞の分化成熟

B細胞は、造血幹細胞からプロB細胞・プレB細胞を経て形成され、細胞膜上に抗体IgM・IgDをBCR(B細胞受容体)として発現した状態でリンパ節に移行する。


抗体は重鎖・軽鎖から構成されており、プロB細胞の段階で抗体重鎖(H)の、プレB細胞で軽鎖(L)の遺伝子再構成が行われ、多様性が担保されている。


リンパ節に移行したB細胞は、BCRに結合する抗原分子を取り込み、MHCクラス2と呼ばれる分子に提示する。提示された抗原をヘルパーT細胞が認識すると活性化され、B細胞は形質細胞・メモリーB細胞へと成熟し、増殖する。


B細胞の分化には、ヘルパーT細胞の一種であるTh2細胞が分泌するIl-6などのTh2サイトカインや、B細胞膜のCD40とT細胞のCD40Lの結合が重要である。

関連:T細胞

○形質細胞

膜型免疫グロブリンやMHC2が消失し、抗体を分泌するようになった状態を形質細胞(プラズマ細胞)という。一般的に数日で死滅する。


抗体タンパク質の翻訳は粗面小胞体で行われ、ジスルフィド化などの修飾を受けたのち、ゴルジ体に移行する。ゴルジ体において、一部の抗体は多量体化し、小胞輸送によって分泌される。


B

図2 抗体(赤)を産生するB細胞
  The scientist magazine より

○メモリーB細胞

ヘルパーT細胞によって活性化されたB細胞の一部は形質細胞ではなくメモリーB細胞へと変化し、抗原の再侵入に備える役割を果たしている。スペイン風邪の事例から、寿命は最大で90年にもなると考えられている。


形質細胞に比べて抗原との親和性が低いBCRを発現するB細胞がメモリーB細胞となりやすく、またBach2という転写因子を高発現していることが明らかになった。

○抗体の役割

Y字型の構造をとっている抗体は、2本の軽鎖と2本の重鎖の計4本のペプチドから構成され、互いにジスルフィド結合によって繋がっている。抗原の種類に関係なく同じ構造を持つ定常部と、対応する抗原に応じて異なる可変部からなる。パパインという酵素によって抗体を切断すると、定常部を含むFcフラグメントと、可変部を含むFabフラグメントの二つに分かれる。


抗体の役割はオプソニン化補体活性化による液性免疫である。オプソニン化はマクロファージなどの食細胞による貪食を促進する働きである。食細胞は抗体のFcを受容するタンパク質を発現しており、抗体と結合することで病原体を認識しやすくなる。

関連:マクロファージ


補体も抗体と同様にオプソニン化の働きを持つ。また補体には膜侵襲複合体を形成し、病原体の細胞膜を貫通させて破壊する働きを持つ。抗体を土台として補体が集積し、これらの機能を発揮する。

Antibody
図3 抗体の構造

Y字型の下部が定常部、抗原と結合する部位が可変部である。


○クラススイッチ

抗体は重鎖のタンパク質の種類(μ δ ε α γ)に応じて、IgM、IgD、IgE、IgA、IgGという5つのクラスに分類することができる。血清に最も多く含まれる抗体は、IgGクラスのものである。


成熟前のB細胞は膜上にIgM,IgDをBCRとして発現し、成熟直後の形質細胞はIgMを分泌する。IgMは五量体として機能し、補体活性化の機能が強い。


サイトカインなどの刺激を受けると、μのエキソンを含む遺伝子領域がDNA上から切り出され、その下流のエキソンが翻訳されるようになる。遺伝子の切り出しの長さに応じてクラスが変化し、これをクラススイッチという。


IgGはオプシン化の機能が強く、IgAは粘膜系の免疫に、IgEはアレルギーにと、それぞれに独自の役割を果たす。IgDの役割は解明されていない。



○参考


大阪大学 メモリーB細胞
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160510_1

Distinct cellular pathways select germline-encoded and somatically mutated antibodies int immunological memory

M-hub 抗体を理解しよう
https://m-hub.jp/biology/1008/structure-and-subclasses-of-antibody


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