ヒトの全細胞

200種類あると言われる人の細胞を、一つ一つ、全てまとめるつもりです。
2019/1/6 human-cell.comにサイト移転します。よろしくお願いします

2019年01月

Ⅰ型肺胞上皮細胞
(Type I pneumocyte)


〇I型肺胞上皮細胞とは

肺胞の上皮細胞のうち、酸素と二酸化炭素を交換する働きを持つものをI型肺胞上皮細胞と呼ぶ。70平方メートルにも及ぶ肺胞の表面積の95%を占めている。残りの5%はII型肺胞上皮細胞が占めており、表面活性物質を分泌することで肺胞を表面張力から守り、形態を維持する役目を果たしている。


Alveolar-sac-01

図1 肺胞
 https://embryology.med.unsw.edu.au より引用
 alveolus: 肺胞
 alveorar tyoe 1 cell :Ⅰ型肺胞上皮細胞




〇形態

I型肺胞上皮細胞は厚さ0.2μmの扁平な形態をとり、片面が肺胞(外気)に、もう片面が基底膜を介して毛細血管に接触している。細胞小器官はあまり発達しておらず、異物を取り込む飲作用小胞=ピノソームのみ観察される。

隣接する肺胞上皮細胞は密着結合しているため、隙間からの無制御な物質交換は無く、すべて肺胞上皮細胞、基底膜、血管内皮細胞を経由することとなる。これを血液空気関門と呼び、その厚さは約2.0μmである。密着結合には組織液の流出を防ぐ働きもある。

Ⅰ型肺胞上皮細胞は外気からの毒などの刺激を受けやすく、したがって傷つきやすいが、自身には分裂能傷ついた場合にはII型肺胞上皮細胞がI型肺胞上皮細胞に分化して置き換わり、傷を修復する。

Ⅱ型肺胞上皮細胞がタバコなどで遺伝子損傷を起こした場合、肺癌に発展することがある。

〇疾患

肺胞に関係する重篤な疾患として、急性肺損傷(ALI)と急性呼吸促迫症候群(ARDS)について取り上げる。両者はともに肺に水が溜まる肺水腫の一種である。敗血症や外傷を原因として好中球による急性炎症が起こり、肺胞上皮細胞・血管内皮細胞が障害を受け、毛細血管からの水分透過能が上昇することが原因と考えられている。死亡率は4割にも上る。

症状としては死胞の増加に伴って呼吸能が低下することにより、頻呼吸になることが挙げられる。この疾患の診断基準は動脈血の酸素分圧(mmHg)であり、空気中の酸素の割合(%)で除した値が300を下回るとALI、200を下回るとARDSと認められる。

急性ではなく、喫煙による慢性的な炎症を原因として肺胞上皮や気道上皮が傷つき、ガス交換能力が低下する疾患を、慢性閉塞性肺疾患(COPD)という。症状は息苦しさで、男性の死亡原因の第9位となっている。気管支が閉塞して肺に空気が溜まり、肺気腫という状態になる。


〇酸素と二酸化炭素の交換

空気に触れている肺胞上皮は末端組織に比べてO2濃度が高く、CO2濃度が低く保たれており、毛細血管を流れる赤血球のヘモグロビンは酸素解離曲線に従って酸素を受け取ることができる。

無極性分子である酸素は細胞膜や基底膜を容易に通過するため、酸素の交換には特別なチャネルやトランスポーターを必要としない。二酸化炭素も酸素と同様に膜を通過することができるが、I型肺胞上皮細胞は分化の過程で透過能を二倍に向上させることが知られている。この機構にはアクアポリン5が関与するという。



〇まとめ
  • Ⅰ型肺胞上皮細胞は、肺胞の95%をカバーする厚さわずか0.2µmの薄い細胞

  • 二酸化炭素と酸素の交換機能を持つ

  • 血液空気関門を形成して血液を体外の異物から守る



○参考文献

・呼吸器系組織の創出に向けた基礎研究の進展 田所友美
・二酸化炭素の細胞膜透過に関る「CO_2チャネル」は存在するのか?  -科研費
・呼吸器とアクアポリン(日本小児アレルギー学会、2001)
・急性肺損傷(ALI),急性呼吸促迫症候群(ARDS)の 病態と診療 -藤島清太郎
・Wikipedia
   Ⅰ型肺胞上皮細胞
   肺胞
   Pulmonary alveolus
 急性呼吸窮迫症候群

HeLa細胞
(HeLa cell)



〇HeLa細胞とは

HeLa細胞は、ヘンリエッタ=ラックスという黒人女性の子宮頸癌を由来とする細胞株である。1951年に確立されたHeLa細胞はヒト培養細胞の中で最も長い歴史を持ち、分裂の速さや環境変化に対する生存力の強さ、付着細胞であることが培養を容易にしているため、現在でも多くの研究室でin vitroモデルとして用いられている。

HeLa

図1 HeLa細胞
 DNAをHoechestという色素によって染色したもの。左側の細胞は分裂期に入っている。




〇不死化

通常のヒト細胞を組織から分離してシャーレ上で培養しようとする場合、何回かは分裂を繰り返すが、ある回数以上は分裂することができない。これをヘイフリック限界と言い、ヘイフリック限界を無視して無限に分裂を繰り返す細胞を不死化した細胞、と呼ぶ。

ヘイフリック限界の分子的原因はテロメア短縮である。細胞周期を一周するごとにDNAは二倍に複製されるが、その両端を完全に複製することは不可能であり、DNAの両端に存在する「テロメア」という遺伝情報の乗らない繰り返し配列(TTAGGG)が分裂ごとに短くなっていく。テロメアは分裂カウンターの役割を果たすと言われ、5kbを切ると分裂周期は止まってしまう。ガン細胞などの不死化した細胞はテロメアを延長するテロメラーゼという酵素を多く発現しているため、ヘイフリック限界を回避できることが知られている。

〇ヒトパピローマウイルス

HeLa細胞の場合、ヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮頚部に感染したことが不死化の原因であるとされる。HPVは二本鎖のDNAウイルスであって、複数のタンパク質をコードする(Open reading frame)配列を持つ。その中に位置するE6,E7と呼ばれるたんぱく質が不死化の原因になったと考えられており、それぞれp53,pRBの働きを阻害する。p53はDNA損傷や環境変化に応答して修復やアポトーシスを誘導するタンパク質であり、pRBはS期に進行させる転写因子E2Fと結合し、その機能を抑える働きを持つ。p53,pRBは共に著名ながん抑制遺伝子である。

さらにp53はテロメラーゼの発現を抑えることが報告(Xu, et.al, 2000)されており、結果としてE6はテロメラーゼの発現増強の原因の一つになっていると考えられる。

すでにパピローマウイルスのDNAはHeLa細胞のゲノムに挿入されており、HeLa細胞を扱ってもウイルスに感染する心配はない。

〇培養

HeLa細胞は付着細胞であり、シャーレ(ディッシュ)の上で育てることができる。分裂はおよそ24時間に一回であり、シャーレ上を細胞が埋め尽くした状態を(100%)コンフルエントという。例えば今50%コンフルエントであれば、100%コンフルになるのは明日、と考えられる。HeLa細胞に限らず、コンフルエントに至ってしまった培養細胞は形質が変化することが経験的に知られているため、そうなる前に数を調整する必要がある。

シャーレに付着した細胞をトリプシン処理によって剥がし、数を減らして別の新しいシャーレに撒きなおす作業を「継代」と呼ぶ。継代もまた数をこなすごとに細胞の形質が変化するので、その回数を記録したり、継代回数の少ない細胞を冷凍保存しておく必要がある。

培地はE-MEM(最小必須培地)と呼ばれる液体にウシ胎児血清(FBS)を加えたものが用いられる。血清を加えないと細胞は分裂しないことが知られているが、その原因物質は特定されていない。

〇まとめ
  • HeLa細胞は、60年前に確立された最古のヒト培養細胞

  • 黒人女性ヘンリエッタ=ラックスの子宮頸がん細胞が由来

  • パピローマウイルスの影響で不死化



〇参考文献

・<総説>ヒトの老化・ガンとテロメラーゼ 井出利憲・田原栄俊

・Downregulation of telomerase reverse transcriptase mRNA expression by wild type p53 in human tumor cells.
Xu,D et al  oncogene, 2000

・HeLa 商品詳細
http://www.saibou.jp/service/kensaku/detail.php?catalogno=EC93021013-F0

・細胞培養講座「血清はなぜ必要?」
http://www.saibou.jp/service/know07.php

・Wikipedia
テロメア
HeLa細胞
ヒトパピローマウイルス

好中球
(Neutrophil)

◯好中球とは

好中球は、白血球の細胞の一つである。好酸球、好塩基球と共に顆粒球に分類され、細菌や真菌を捕食して、殺菌する働きを持つ。骨髄において造血幹細胞から分化し、成熟すると核が分葉する。

メチレンブルー(塩基性色素、青)、エオシン(酸性色素、赤)、azure Bの混合液による染色をギムザ染色という。血液にギムザ染色を用いると、好酸球はエオジンによって赤く、好塩基球はメチレンブルーで青っぽく、好中球は両者で赤紫に染まることから、それぞれの名が付けられている。

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図1 好中球 英語版Wikipediaより




◯分化と成熟

造血幹細胞、前駆細胞、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球、桿状核球、分葉核球=好中球、の順に分化成熟する。骨髄芽球までは好酸球、好塩基球に分化する可能性を残すが、前骨髄球以降は好中球への分化が運命づけられている。分化の各段階でその数を増加させており、一つの造血幹細胞から生じる好中球はおよそ300億個である。

480px-Bloodcelldifferentiationchart(Japanese)

図2 造血幹細胞の分化 Wikipediaより

好中球は四種類の顆粒を持っており、前骨髄球の段階で生じる顆粒のことを一次顆粒(アズール顆粒)と呼ぶ。その後、骨髄球まで分化すると二次顆粒が生じ、桿状核球で三次顆粒、分葉核球に至って分泌顆粒が生じる。一次~三次顆粒は食胞と融合して細菌を殺すために用いられる。一方、分泌顆粒は”分泌”と名がついている通り、細胞膜と融合する顆粒である。ATPなどの顆粒内物質を分泌することのほかに、分泌顆粒の膜に刺さっている様々な受容体を炎症に応答して表出させる働きを持つ。


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図3 分泌顆粒

体内の好中球のうち、末梢血を流れている循環プールはおよそ半数で、もう半数は脾臓や肝臓に辺縁プールとして蓄えられている。さらに骨髄にも前駆細胞を合わせた大量の滞留プールがあり、緊急事態への備えとなっている。感染症や炎症反応で放出された各種物質の刺激を受けると、プールから好中球が血液に流入し、その機能を果たす。


◯好中球による防御

好中球は、体に侵入した細菌類に対する防御の役割を果たしているが、細胞寄生細菌や細胞内ウイルスに対しては無力である。

細菌が侵入すると、まずは末梢に位置するマクロファージや樹状細胞が貪食し、インターロイキンを放出して炎症反応を引き起こす。すると血管内皮細胞の透過が亢進され、血液中を流れていた好中球が組織へと浸潤するようになる。さらに炎症した細胞はケモカインを放出しているため、浸潤した好中球は受容体を介してシグナルを受け取り、アクチン骨格を形成することによってケモカイン濃度が高い方、すなわち炎症部位へと遊走する。

そして好中球が細菌に接近すると、膜上の受容体によって細菌の細胞膜/細胞壁、もしくは付着した抗体IgGや補体(オプソニン)を認識し、貪食を開始する。細菌が取り込まれて形成された袋を食胞と呼び、そこに顆粒が融合することによって殺菌処理がなされている。

殺菌の方法は活性酸素を用いるものと、用いないものとに大別される。酸素依存性の機構においては、好中球はNADPH(還元剤)を材料として過酸化水素/活性酸素を合成し、アズール顆粒(一次顆粒)内のミエロペルオキシダーゼがCl−イオンを用いて亜塩素酸を合成する。亜塩素酸は強力な酸化剤として細菌の様々な物質を無差別に酸化するので、細菌は死ぬ。

非酸素依存機構には細胞壁を分解するリゾチーム(三次顆粒)、細菌の生存に必要な鉄を奪うラクトフェリン(二次顆粒)、プロテアーゼの一種であるエラスターゼ(一次顆粒)などがある。

細菌を貪食して殺害したのちに好中球もアポトーシス(自発的な死)し、マクロファージに食されるか、膿となって体外に出される。

〇まとめ

  • 酸性色素・塩基性色素の両方に染まる顆粒球を、好中球という。

  • 造血幹細胞から分化する。

  • 身体に侵入した細菌を殺菌するはたらきを持つ。




〇参考文献

・第75回日本血液学会学術集会
 教育講演5 好中球分化異常と疾患  平位秀世
 http://www.myschedule.jp/jsh2013/detail.php?session_unique_id=EL-05&sess_id=8&strong=1
・Wikipedia 好中球

好塩基球
(Basophil)


◯好塩基球とは

顆粒球のうち、メチレンブルーやヘマトキシリンなどの塩基性色素に染まるものを好塩基球という。その数は好酸球や好中球に比べて非常に少ない(白血球の0.5%)。体表面の寄生虫への応答や、アレルギー反応に関与すると考えられている。
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図1 好塩基球 英語版Wikipediaより






◯アレルギーと好塩基球

アレルギーはI型からIV型に分類され、I型は「IgEや肥満細胞を介した素早い応答」、II型、III型は「IgGを介した数時間程度遅れた応答」、IV型は「抗体を介さないキラーT細胞による遅延(慢性)型応答」である。と従来言われていたのだが、IgEは慢性型応答にも関わっているということが近年明らかになっている。IgE依存的な慢性型応答に対して司令塔的に働くのが好塩基球であり、それを除去すると応答が消失するという。

また好塩基球は、アナフィラキシーショック(急性なⅠ型アレルギー)にも関与する。肥満細胞が原因となる一般的なアナフィラキシーショックはIgE依存的なのに対し、好塩基球によるアナフィラキシーショックはIgG依存的である。好塩基球は肥満細胞と同様に膜上にIgGを持ち、抗原によって架橋された時、血小板活性化因子を放出して毛細血管を拡張させる。これが激しい場合、血圧が急低下することによってショックに陥る。


◯寄生虫と好塩基球

寄生虫の代表として、マダニの研究がなされている。マダ二は、皮膚に付着すると1~2週間吸血を続け、大きく膨らんで去っていくという特徴を持つ。中に病原体を持っていて、ライム病などの深刻な感染症を引き起こす可能性があるが、興味深いことにマウスやモルモットでは二度目の吸血に耐性があることが知られている。この免疫反応を担うのが好塩基球であり、吸血部位に集まっているようだ。詳しいことは不明であるが、好塩基球を除去すると耐性が失われることが知られており、直接的か間接的に関わっていることがわかる。

〇まとめ
  • 塩基性色素に染まる顆粒球を好塩基球という。

  • アレルギー反応に関与する。

  • 体内に少ししか存在せず、多くの謎が残されている。




〇関連項目


〇参考文献

Bloom!医科歯科大 No.11
「長い間謎であった好塩基球の生体内での役割を解明」 烏山 一

東京医科歯科大学 研究紹介 免疫反応における好塩基球の役割の解明
https://immune-regulation.org/index.php?id=13

Wikipeda「好塩基球」「Basophil」

好酸球
(Eosinophil)


◯好酸球とは

顆粒球のうち、酸性色素(Eosin)に染まるものを好酸球という。骨髄において造血幹細胞から分化し、骨髄、末梢血、組織に100:1:100の割合で分布する。特に上皮組織に多く、肺や子宮、皮膚、消化管によく見られる。核は2葉に分かれており、多数の顆粒を有する。

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図1 好酸球の模式図 英語版Wikipediaより




◯顆粒

好酸球の顆粒には、主としてMBP(Major basic protein)、ECP/RNASE3(Eosinophil cationic protein)、EPO(Eosinophil peroxidase)、EDN/RNASE2(Eosinophil-derived neurotoxin)、リゾチームという5種類のタンパク質が含まれている。 MBP,ECPを構成するアミノ酸にはアルギニンをはじめとした塩基性(basic)のものが多いため、顆粒は酸性色素(eosin,橙色)に染まりやすい。

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図2 好酸球ギムザ染色
 好酸球(中央)の顆粒がエオジンによって橙~赤に染まっていることがわかる。


◯分化

好酸球は他の顆粒球同様、造血幹細胞から分化し、前駆球以降は好酸球のみの分化経路に乗っている。前駆細胞から好酸球が分化するためには、IL-3、G-CSF、IL-5の順に受容することが必要である。IL-3、IL-5はT細胞が主に分泌し、G-CSFは血管内皮やマクロファージが分泌する。分化のシグナルを受け取ると、細胞内ではMAPカスケードやNFκB、Jak-Stat経路が働く。また、好酸球に対するケモカインとしてeotaxinが知られており、血管外浸潤後の遊走に働いている。


◯好酸球の機能

好中球に比べて貪食能は弱いが、蠕虫を脱顆粒によって殺害することができる。またRNAaseも保有(ECP,EDN)して、抗ウイルスにも働いている。EDNはまた、樹状細胞の走化因子としても働く。
さらに、好酸球はアレルギー部位に集まることが知られている。気管支喘息に多く集まるため、従来は傷害の原因とみられていたが、最近は寧ろTGFβを放出して組織修復(気道リモデリング)に働くと考えられている。

〇まとめ


酸性色素に染まる顆粒球を好酸球という。

造血幹細胞から分化する。

蠕虫を殺す役割。





〇関連項目
好中球
好塩基球

〇参考文献

Wikipedia 
好酸球
Eosinophilli

New生理学 日本医事新報社
大阪大学大学院医学系研究科 好酸球増多症
http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu07-2.html
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