ヒトの全細胞

200種類あると言われる人の細胞を、一つ一つ、全てまとめるつもりです。
2019/1/6 human-cell.comにサイト移転します。よろしくお願いします

2018年01月

ミクログリア
(Microglia)


○ミクログリアとは

ミクログリアは、中枢神経に位置するグリア細胞の一つである。血液脳関門を通過できない白血球の代わりとして、ミクログリアが中枢における免疫を担当している。中胚葉由来である。損傷した神経を貪食したり、集積したアミロイドβを回収する役割を果たす。

○形態

ミクログリアは不活性型の時はラミファイド型、活性型の時はアメボイド型と呼ばれる構造を取る。ラミファイド型は小さな細胞体から多数の細い突起を四方八方に伸ばした構造で、その突起は絶えず伸び縮みを繰り返している。ATPやADP、アミロイドβなどに走化性があり、脳内の異常を検知することができる。ミクログリアはまたグルタミン酸にも走化性を持つため、シナプス周辺にも集まっている。

さて、異常を検知したミクログリアは突起の数を減らして細胞体を拡大させていくが、この状態をアメボイド型と呼ぶ。アメボイド型はマクロファージと類似し、免疫機能を果たしている。

また興味深い事項として、ラミファイド型ミクログリアは昼間よりも夜間のほうが突起の数が多く、長いということが知られている。プリンの受容体P2Y12の発現量が変わることを原因とするようだが、その意味は不明。概日リズムの調整か。

○機能

ミクログリアの機能には、液性因子の放出、シナプスとの相互作用、貪食の三つがあるといわれている。細胞が放出する走化性因子に従って必要な箇所に移動し、それぞれの役目を果たす。

まずミクログリアが産出する液性因子としては、TNFβやIL-1β、IL-6が知られている。いずれも炎症性のサイトカインであり、問題を起こした細胞の膜上の受容体に結合して炎症やアポトーシスの遺伝子を誘導する働きを持つ。他にもカプテシンS等いくつかの酵素を放出しており、概日リズムにも関与していると考えられている。

シナプスとの相互作用としては、不要なシナプスを排除する役目が考えられている。このプロセスはシナプス剪定と呼ばれ、発生段階及び海馬、視覚処理回路で行われている。ミクログリアは、記憶に何らかの形で関与しているのかもしれない。

三つ目の貪食は、マクロファージと同様な働きである。死んだ神経細胞を貪食して排除する一方、その物質を別の傷ついた神経細胞に送って再生を促すこと働きもある。P2Y12という受容体を介してプリン(アデニン・グアニン)を認識し、問題のある(外部に核酸を放出している)細胞を発見していると考えられている。


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図1 ミクログリアの機能(脳科学辞典)


○アルツハイマー病

アルツハイマー病は、脳が萎縮して認知障害に陥る認知症の一種である。大部分は70歳以上の高齢者に発病するが、5%程度の患者は遺伝的要因によって、若年のうちに発症している。その原因はアミロイドβというタンパク質が蓄積することにあると考えられており、凝集したアミロイドβは大脳に老人斑と呼ばれる染みを形成する。

アミロイドβはAPP(アミロイドβ前駆体タンパク質)という膜貫通タンパク質の細胞外部分であり、セクレターゼによって切断されて脳内を漂っている。Notchと類似しており、本来の働きは睡眠・覚醒の制御などが考えられている。ミクログリアはアミロイドβを除去する働きがあるとされ、老人斑の周りに集積しているのを観察することができる。

集積したアミロイドβがτ(タウ)タンパクを引きつけ、τタンパクが微小管を破壊することによって神経細胞を死に至らしめると考えられている。


○参考文献

・脳科学辞典
 ミクログリア
 P2Y受容体
・アルツハイマー病とミクログリア 樋口真人

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アストロサイト
(astrocyte)


○アストロサイトとは

アストロサイトは中枢神経に存在するグリア細胞の一種である。ニューロンの細胞体・シナプスや毛細血管、シナプス部位と接しており、ニューロンへの栄養供給、血液脳関門の形成、神経伝達の補助といった働きを持つ。日本語では星状膠細胞という。神経幹細胞から分化する。


350px-Kudo_Fig3


図1 アストロサイト


○GFAP

アストロサイトを観察する際は、多くの場合GFAPというタンパク質をマーカーに用いる。GFAPはアストロサイトに特異的に見られる中間径繊維であり、細胞の強度を支えている。血液脳関門のシグナル伝達に関与している可能性も示唆されているが、詳しいことはわかっていない。


○アストロサイトの構造

アストロサイトは上の方法などを用いて細胞骨格を染めると☆のように見えることから、星状膠細胞と名付けられている。しかし、実際のアストロサイトは遥かに多くの突起を伸ばし、枝分かれも豊富であるため、寧ろスポンジ状であるという。一つのアストロサイトがカバーする領域は非常に大きく、200万個もの神経細胞に一つのアストロサイトが接触していると考えられている。


○血液脳関門

血液脳関門は、血液から脳に対して選択的に物質を輸送する仕組みである。血管内皮細胞、周皮細胞、アストロサイトによって構成され、脳内の毛細血管の全てを覆っている。毛細血管はTJによって密着結合して間隙からの無秩序な物質交換を防ぎ、膜上に発現したチャネル、トランスポーターを介して必要な物質のみをやりとりしている。細胞膜を通過できる脂溶性の高い物質もまた、関門を通過することができる。


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図2 血液脳関門

さて、その血管内皮細胞とニューロンは直接接触しておらず、物質輸送にはアストロサイトを介している。血管内皮細胞はアストロサイト側にもチャネルやトランスポーターを発現し、アストロサイトも同様の膜を持つ。アストロサイトに取り込まれた物質はニューロンに運ばれ、同じような仕組みで供給される。グルコースの場合、アストロサイトで乳酸に変換された後でニューロンへ取り込まれている。


○神経伝達の補助

神経細胞が伝える活動電位は、Na+イオンを細胞内に流入させ、K+イオンを細胞外部に放出する一連のやりとりである。神経伝達が正常に行われるためには外部環境が定常であることが求められるが、それを担うのがアストロサイトである。アストロサイトもまたK+、Na+などのチャネル、トランスポーターを持っており、脳内イオン濃度の維持に努めている。

また、シナプス部位のアストロサイトはグルタミン酸やGABA、グリシンといった神経伝達物質を素早く取り込み、信号を初期化する働きも持っている。この働きによって神経伝達の頻度を上昇させることができる。

○シナプス可塑性

シナプス可塑性とは、シナプスに発現するチャネルなどが変化し、情報伝達効率が変わることをいう。例えば集中している場合、目の奥のマイネルト基底核からアセチルコリンが放出され、記憶力の向上につながる。

アセチルコリンは直接ニューロンに働いて可塑性を生むと考えられてきたが、近年実はアストロサイトが受容してシグナルを出していることが判明した。アセチルコリンを受容したアストロサイトはCaチャネルを開き、D-セリンの含まれる顆粒を放出する。D-セリンはシナプス後膜のNMDA型グルタミン酸受容体に結合して開きやすくする働きがあるため、結果としてアセチルコリンの放出が伝達効率の向上を促進する。

またアストロサイトはD-セリンのみならず、S-100βというタンパク質も放出している。これもシナプス可塑性に関与すると思われるが、統合失調症患者の脳髄液に多く含まれることが分かっているため、新たな治療につながる可能性が期待されている。

○参考文献

・脳科学辞典
 グリア細胞
 血液脳関門
 中間径フィラメント
・2016年9月RIKEN NEWS
 「グリア細胞”アストロサイト”は脳内で何をしている?」

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神経幹細胞
(Neural stem cell)


○神経幹細胞とは

神経幹細胞は、神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイトへ分化する能力を持った幹細胞である。発生に際してそのほとんどは死滅するが、一部は海馬や側脳室に生き残り、分化を続けている。


○分化と制御

神経幹細胞は非対称分裂によって新たにできた細胞の片方のみを分化させているが、その分子機構はbHLH型転写因子の働きによる。bHLHはbasic Helix Loop Helix ドメインでDNAと結合する分子の名称であり、分化においてはAscl1、Olig2、Hes1という3つの因子が作用している。

もう片方の細胞は自己複製となるが、こちらにはNotchとHesのシグナル経路が働く。Hesという同一分子がいかにして違う働きを持つかは不明である。

また、神経幹細胞が全て同一種で刺激によって分化するのか、それともはじめから分化運命が決まっているのかについても議論があり、よく分かっていない。

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図1 神経幹細胞の分化


○bHLH型転写因子

Ascl1は神経細胞、Hes1はアストロサイト、Olig2はオリゴデンドロサイトへそれぞれ分化させる因子であるが、未分化状態においてはいずれの発現量も周期的に振動している。何らかの刺激で分化が誘導されると一つの因子の蓄積が起こり、作用を及ぼす。この機構に、発現増強と分解抑制が関与すると考えられされている。

共通の特長は、2本のαヘリックスがループを介して近接する、bHLHドメインを有することである。発現量が十分に増えて二量体を形成すると、例えばAscl1は5'CANNTG3'というEbox領域に結合し、下流の遺伝子を発現させるようになる。中枢神経における分化の大まかな方針だけではなく、末梢神経における運動神経か感覚神経か等の複雑な分化にも、bHLH型転写因子が関与している。


○Notch経路とHes

Notchとは、神経幹細胞に見られる1回膜貫通タンパク質である。隣接する細胞の膜タンパク質であるDeltaやJaggedのリガンドとして働く。リガンドと結合すると、Notchの細胞内部分(NICD)が切り出されて転写因子となり、様々な遺伝子を発現させをる。Hesはその標的遺伝子の1つである。

発生段階においては、まず神経幹細胞の自己複製のみが続いて数を増やし、次いで神経細胞が分化し、最後にグリア細胞が分化する。Notch-Hes経路は、神経細胞の分化前は分化抑制へ、神経細胞の分化後は分化の促進に働くという二面性を持っている。
350px-Notch_fig1


図2 Notchシグナル


○成体神経幹細胞

 神経幹細胞の多くは発生段階で消失し、成体にはほとんど見られない。これは、各々の神経幹細胞には自己複製の回数制限があるためと考えられている。成体海馬や即脳室でわずかに見られる神経幹細胞は、p57というタンパク質が発現して分裂を抑えているために生存できるのだと考えられている。


○関連項目
神経細胞
オリゴデンドロサイト
・アストロサイト


○参考
・脳科学辞典 
 神経幹細胞 
 Notch
 bHLH型転写因子
・京都大学 プレスリリース
http://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2013_1/131101_1.htm

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オリゴデンドロサイト
(oligodendrocyte)


○オリゴデンドロサイトとは

オリゴデンドロサイトは、中枢神経の白質において軸索に巻きつき、髄鞘を形成する細胞である。基本的に末梢神経のシュワン細胞と同じ働きを持つが、オリゴデンドロサイトには髄鞘を作らないものも見られる。その数はニューロンの三倍程度と考えられている。

髄鞘

図1 髄鞘の構造

○機能

オリゴデンドロサイトの機能は、信号伝達を早めることである。第一の機構は軸索形成であるが、シュワン細胞が一つの軸索に巻きつくのに対して一つのオリゴデンドロサイトは50本もの軸索に巻きついた構造をとっている。

第二に、ニューロンに対してランヴィエ絞輪にイオンチャネルを集積させるシグナルを伝えている。また網膜神経節細胞について、オリゴデンドロサイトが巻きついた部位での軸索が太くなっていることが知られており、軸索を太くするシグナルも発していると考えられている。軸索が太ければ太いほど、活動電位の伝達速度は高まる。

ところで、中枢神経は損傷すると再生しないことが知られているが、オリゴデンドロサイトは神経細胞の軸索延長を阻害する働きを持つ。その働きを持つ分子としてはNogoが知られており、オリゴデンドロサイトの細胞膜上に発現している。この機構は、軸索が誤って再生された時に生じかねない情報処理上の混乱を防いでいると考えられている。


○名前

 そもそもオリゴデンドロサイトは、幾つかの(オリゴ)突起を持つ(デンドロ)細胞(サイト)という意味であり、敢えて日本語にすれば希突膠細胞となる。発見時すでにニューロンとアストロサイト(星状膠細胞)が知られており、第3の脳細胞であった。名前の通り突起が少ないように見えるが、実際の突起は15本以上存在し、50本もの軸索に巻きついた構造を取っている。


○グリア細胞

シュワン細胞やオリゴデンドロサイトのように、神経系に位置するニューロン以外の細胞をまとめて〝グリア細胞〟と称する。グリアはギリシャ語で糊(英:glue)を意味している。

グリア細胞の種類としては、シュワン細胞とオリゴデンドロサイトの他に、ミクログリア、アストロサイト、衛星細胞(外套細胞)がある。ミクログリアは免疫、アストロサイトは血液脳関門形成などに働いており、共に中枢神経系である。衛星細胞は抹消に存在し、神経を取り巻いている。

○関連項目
神経細胞
シュワン細胞

○参考文献
・脳科学辞典 
 グリア細胞 
 オリゴデンドロサイト 
 Nogo
 髄鞘
 
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シュワン細胞
(Schwann cell)


○シュワン細胞とは

シュワン細胞は、末梢神経において神経細胞の軸索を取り巻き、髄鞘を形づくる細胞である。中枢のオリゴデンドロサイトなどと共に、神経膠(こう)細胞と呼ばれている。シュワンの名は19世紀のドイツ人博士テオドール・シュワンが発見したことによる。シュワンは細胞説の提唱者であり、”代謝”という概念を考えた人物としても知られる。


○髄鞘

髄鞘は、ニューロン軸索の周りで神経膠細胞のリン脂質二重膜が何重にもまかれた渦巻き様の構造を持つ。細胞膜には特にスフィンゴミエリンが多く存在し、ミエリン鞘ともいう。絶縁体として電気信号の減衰を防いでいるが、数mm間隔でランヴィエ絞輪と呼ばれる軸索の露出が見られる。ここにはチャネルが高密度に存在しており、電気信号はランヴィエ絞輪を跳躍電動して素早く伝わっていく。髄鞘の構造形成にはMBP(ミエリン塩基性タンパク質)が大きな寄与を持つ。

髄鞘が見られる神経細胞を有髄神経、髄鞘が見られない神経細胞を無髄神経と呼ぶ。脳の白質や神経節前線維など太い線維は有髄神経、灰白質や節後線維など細い線維は無髄神経である。無髄線維の場合もシュワン細胞が周囲にあるものの、その細胞質が軸索を覆っているだけであり、渦巻き様構造は見られない。一つのシュワン細胞がいくつもの無髄線維をまとめた構造を持つ。

ニューロン
図1 末梢神経の構造(看護roo より)


○末梢神経の再生

中枢神経は一度損傷すると二度と再生しないが、損傷した末梢神経は軸索の再生能を持つ。というのも、末梢神経は組織の神経であって、外部からの傷を受けやすいためである。末梢神経が傷つくと、まずシュワン細胞が突起を形成し、その膜上のNGF(神経成長因子)やGDNF(グリア細胞由来神経栄養因子)の誘導に沿って神経細胞が中に軸索を伸ばしていくことで再生される。


○生存シグナル

それとは逆に、神経細胞からシュワン細胞に対しては生存のシグナルが送られている。その鍵となる物質は神経膜に刺さっているニューレグリンであり、Erb2というチロシンキナーゼ型受容体を介してシュワン細胞の生存や増殖を促す。シュワン細胞の無意味な増殖が防がれている。


○脱髄疾患

ニューレグリンの異常などで末梢神経から髄鞘が消滅すると、神経伝達に異常をきたす。これを脱髄疾患といい、シャルコー・マリー・トゥース病やギランバレー症候群が著名である。両疾患は、脱髄疾患の内でも末梢神経の異常であるニューロパチーに分類される。

シャルコー・マリー・トゥース病は、運動能力の低下や感覚減退を症状とする1万人に一人の遺伝性難病である。原因遺伝子は様々であるため、有効な治療法は見つかっていない。

ギランバレー症候群は四肢の運動機能低下を症状とし、患者は10万人に1人程度である。その原因は自己免疫システムの不全にあるが、ウイルス感染症に罹患した時やワクチン摂取時に稀に発生することがある。特にHPVワクチンが有害であるとの報告もあったが、現在は疑問を持たれている。


○進化

神経伝達の速度は重要であるため、生物は進化の過程において軸索の巨大化か、髄鞘の形成という戦略を取った。前者にはイカが知られており、脊椎動物は後者である。無脊椎動物についても、エビやミミズなどは髄鞘を平行進化で獲得している。

○関連項目

オリゴデンドロサイト

○参考
・脳科学辞典
 髄鞘
 シュワン細胞
・Qシリーズ 新生理学 日本医事新報社 
・看護roo 神経伝達の仕組み
 https://www.kango-roo.com/sn/k/view/2106

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