赤血球
(Red blood cell)


○赤血球とは

赤血球は、酸素と二酸化炭素を運ぶ働きをもつ、血液の主成分である。中央がくぼんだ円盤型をしており、赤いヘモグロビンを大量に含んでいる。その働きはガス運搬に特化しているため、酸素を消費するミトコンドリアや、分裂に必要な核を持たない。大きさは約7μm。血中に20兆個あると言われ、これは人の全細胞の3割から5割を占めている。

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図1 赤血球


○赤血球の形成

赤血球は、赤芽球と呼ばれる細胞から核やミトコンドリアが脱離したものである。赤芽球は骨髄において、造血幹細胞から骨髄系前駆細胞など数段階の分化を経て形成される。分化段階の各前駆細胞にはそれぞれ高い分裂能があるため、1日2000億個もの赤血球を供給することができる。核を失って(脱核)成熟した赤血球は血液へと流れ出し、全身を循環する。
 骨髄における赤血球の最大の産性能は通常発揮している分の5倍程度と言われており、それは貧血の際に発揮される。貧血、すなわち血中の赤血球が少ない状態は腎臓の尿細管の細胞が感知し、エリスロポエチンというホルモンを血中へ分泌する。エリスロポエチンを受容した骨髄系前駆細胞は分裂頻度を高め、赤血球の総量を増やす。エリスロポエチンは血中酸素を高めることから、かつてはドーピングにも使われていた、腎臓の不調による赤血球不足は腎性貧血と呼ばれている。

○赤血球の破壊

赤血球の寿命はおよそ120日である。古くなった赤血球は脾臓や肝臓でマクロファージに食され、破壊される。
若い赤血球はエネルギーを嫌気性解糖系で産生し、イオンバランスを維持することで柔軟性を保っているが、老化すると柔軟性を失って、毛細血管を通過しづらくなる。肝臓と脾臓には特に細い血管が張り巡ら されており、動きを止められた赤血球が待ち構えていたマクロファージに食されている。他にも、老化した赤血球がフォスファチジルセリン(ATPの不足によるフリッパーゼ不全)や特定の抗原を露出させてしまうことによっても食される。
ヘモグロビンの鉄分やアミノ酸は再利用されるが、ヘムの代謝物であるビリルビンという黄色い色素は胆汁や尿から排出される。糞尿の色はここに起因する。
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図2 ヘム

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図3 ビリルビン


○ヘモグロビン

 赤血球に含まれているヘモグロビンは、酸素を運搬する分子である。αサブユニット、βサブユニットをそれぞれ二つずつ持った四量体の構造を持ち、各サブユニットは鉄ーポルフィリン錯体のヘムと、それを囲うタンパク質のグロビンからなる。
ヘモグロビンは、赤血球から核が脱落する前の段階で合成される。ミトコンドリアでヘムが、リボソームによってグロビンが合成され、それが細胞室内で出会うことによって、ヘモグロビンとなる。

酸素は二価のヘム鉄に配位して運搬される。一つのヘムに酸素が結合すると他三つにも結合しやすくなるという、正のアロステリック調節が見られる。酸素が結合した状態をオキシヘモグロビンと呼び、結合していない状態をデオキシヘモグロビンという。前者は鮮赤色で動脈の色、後者は静脈血の暗赤色を示す。また、二価の鉄イオンは酸素に酸化されて三価になることがあるが、この状態をメトヘモグロビンという。メトヘモグロビンには酸素と結合する能力はないため、赤血球内の還元酵素は速やかにこれを二価に戻していく。

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図4 ヘモグロビンの構造 
 α(青)、βサブユニット(赤)が2つずつの4量体である。

○酸素の運搬

ヘモグロビンは、酸素分圧が高く二酸化炭素分圧が低い肺胞で酸素を受け取って、酸素分圧が低く二酸化炭素分圧が高い毛細血管にて酸素を放出する。酸素とヘモグロビンの結合は酸素解離曲線に依存するが、その機構をボーア効果という。

ヘモグロビンには酸素を結合しやすい開いた状態(R)と、結合しづらい閉じた状態(T)という二種類の構造がある。閉じた状態では、αサブユニットのN末端がプロトン化されて正電荷を帯びており、周囲のカルボニル基と相互作用を起こしている。このため、CO2分圧が高い環境、すなわちpHの低い環境においては、閉じた状態が安定となって酸素結合能が低下するのである。 また、CO2自身が直接αサブユニットのN末端と結合して閉じた状態を安定化する働きがある。

酸素を放出したヘモグロビンはCO2を取り込んで肺に運搬し、排出している。肺ではCO2が低く、pHは高く、開いた状態が安定となって酸素と結合しやすくなる。



図5 酸素乖離曲線


○高地順応

pHによるボーア効果以外にも、人は 2,3-BPGという物質によって赤血球の酸素親和性を調整する機構を持つ。 2,3-BPGは解糖系で産生され、ヘモグロビンの酸素親和性を弱める働きがある。

 酸素の薄い高地(2100m以上)において、肺におけるヘモグロビンと酸素との結合は弱くなるが、それでも組織としては十分な酸素を放出してもらわなければ困るため、2,3-BPG濃度を高めることで酸素親和性を通常よりさらに落とすことによって活動を可能としている。また、酸素不足は頸動脈でも感知されて呼吸の増加を引き起こし、さらに腎臓からはエリスロポエチンが放出され、赤血球数は増加する。これらの機構によって標高4000mに順応するのには、およそ40日かかると言われている。

○ABO式血液型

輸血において問題となる、ABO式血液型とRh血液型について述べる。まずA型とは、赤血球の表面にA抗原という糖鎖をもつ血液型である。B抗原に対するB抗体も持っている。B型はその逆であり、B抗原とA抗体を持つ。O型は抗原を持たず、A抗体、B抗体を持つ。AB型はその逆で、A抗原、B抗原を持つが、抗体を持たない血液型である。

このことから、血球成分を輸血する場合、O型の血球はすべての人に提供でき、AB型は異なる血液型の人に対して一切提供出来ないことが言える。逆にいえば、O型は異なる血液型の血を受け入れることができず、AB型はどんな血球も受け入れることができる。

一方、血漿を輸血する場合にはこの逆となる。血漿には抗体グロブリンが含まれるため、O型の血漿を異なる血液型の人に提供してはならない。この両方の性質を利用して、事故等で急な輸血が必要な血液型が不明な患者に対しては、AB型の血漿とO型の血球が輸血される。

 対立遺伝子はABOの三種類で、AとBが優性である。AO、AAでA型の表現形を示す。

○Rh血液型

Rh血液型は、赤血球表面の抗原による血液の分類である。血球表面はいくつもの抗原を持つが、D抗原という抗原には遺伝の個人差があり、分類に用いられる。D抗原を持つ人をRh+、持たない人をRh-という。D抗原が優性遺伝することもあって、日本人は99.5%がRh+である。もしRh-の人にRh+の血液を輸血すると、Rh-の人が持つ抗体が結合して凝固してしまうため、注意が必要である。

○鎌状赤血球症
  
  鎌状赤血球症は、グロビンタンパク質の変異を原因として、低酸素時に赤血球が鎌型に変形する疾患である。酸素が結合しているときは円盤型を保つが、ヘモグロビンから酸素が乖離するとグロビンが構造を変化させ、赤血球は鎌型に変化する。鎌型赤血球は脆くて溶血を起こしやすいため、この疾患の症状は主に貧血である。

 アフリカの黒人に多く、マラリアによる選択圧が原因と考えられている。マラリアは蚊を媒介する疾患で、その原虫は赤血球内部で成長・増殖して血中に脱出する。ところが鎌型の環境は生存に悪条件であり、またすぐに溶血してしまうため、十分に成長することができない。このため、鎌型赤血球症はマラリアに抵抗性があるのだと考えられている。

 とはいえ、鎌型の遺伝子をホモで持った場合は深刻な貧血で死に至り、繁殖に不利に働く。このバランスによって鎌型赤血球症の遺伝子は一定量に保たれていると考えられている。ヘテロ遺伝子の場合、異常な赤血球の割合は4割程度とされる。

〇コオリウオ科

余談であるが、南極に住むコオリウオは脊椎動物で唯一赤血球を持たず、透明な血液を持っている。南極海は摂氏0度前後と低温であり、その環境では水/海水に十分酸素が溶けるためである。

コオリウオ
図6 コオリウオ


〇関連項目

〇参考文献
・東京Zooネット
 https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst=kasai&link_num=19672

・小児慢性特定疾病情報センター 鎌状赤血球症
https://www.shouman.jp/details/9_8_13.html

・Wikipediaの各項目
 赤血球
 鎌状赤血球症
 ボーア効果
 高地順応
 

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