毛乳頭細胞
(Follicle Dermal Papilla Cells)


○毛乳頭細胞とは


毛乳頭細胞は、毛根の一番奥深くに位置する間葉系の細胞である。毛の元となる毛母細胞の分化や毛の伸長を促し、また神経細胞や繊維芽細胞などへの幅広い分化能を有している。

禿との関連が指摘されている男性ホルモン「アンドロゲン」の受容体を発現している。


毛包
図1 毛根


○発毛サイクルの制御

ヒトの毛は、成長期(5年)、退行期(3日)、休止期(数カ月)という発毛サイクルを繰り返す。成長期を終えて退行期に入った毛根では、毛母細胞を含む上皮細胞がアポトーシスを起こして毛が抜けていく。

このとき、毛乳頭細胞は無傷のまま保たれている


皮膚の内部に残された毛乳頭細胞は、休止期を過ぎたのち、周囲の上皮細胞を適切に分化させることで毛根形成を促す。毛乳頭細胞の発毛を促進する働きを、脱毛症に対する治療に応用できないかと期待されている。

○アンドロゲン(男性ホルモン)

アンドロゲンは、テストステロンをはじめとした男性ホルモンの総称である。男性は主に精巣のライディッヒ細胞から、女性の場合は卵巣内の卵胞から産生される。思春期の開始時に多く発現し、男性器や陰毛の発達、精子形成、筋肉や骨格の発達、声変わり、体毛増加といった第二次性徴を引き起こす。


アンドロゲンはステロイドホルモンであるため、細胞膜を通過して細胞内に侵入することができる。細胞内にに侵入したアンドロゲンは細胞質中のアンドロゲン受容体(AR)と結合し、核内に移行したARは転写因子として働いて、下流の遺伝子発現を調整する。毛乳頭細胞はアンドロゲン受容体を強く発現している。


teststelon


図2 テストステロンの構造(アンドロゲンの一種)


○アンドロゲンと禿頭について

アンドロゲンは、腋毛・髪毛の硬毛化や髭・胸毛の増毛を促すが、体全体の産毛や眉毛には関与しないと考えられている。また、発毛のサイクルにおいて、アンドロゲンはひげの成長期を延長する作用を持つが、髪のそれは短くするなど、アンドロゲンの作用は体の部位ごとの作用に違いがあることが指摘されている。


禿について考えれば、頭頂部が側頭部よりも禿げやすいなどの部位差が見られる。テステステロンは毛乳頭で5αリダクターゼに還元され、強力なジヒドロテストステロン(DHT)となってから実際に作用するが、禿げやすい部位と禿げにくい部位では5αリダクターゼの種類が異なっていることが知られており、禿げやすさの違いはこれが原因とされる。


"女性ホルモンで髪の毛が促進され、男性ホルモンで退化する"というアイデアは良く知られているが、そもそも毛乳頭に女性ホルモン受容体があるのかは不明であり、俗説に過ぎない。髪はヒトに独特なものであって、実験動物がうまく応用できないという。

zabiel

図3 フランシスコザビエル
 これはトンスラと呼ばれるカトリック聖職者の髪型であり、禿げとは異なるが、「禿げといえばザビエル」という風によく知られている。本来のトンスラは側頭部の髪も切って鉢巻状にのみ残すものであり、この図は想像で描かれたとのこと。



○参考文献

Hair follicle dermal papilla cells at a glance Journal of cell science, 2011
・髪の毛の生物学 安藤健二

〇関連項目
毛母細胞

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