ミュラー細胞
(Müller cell)

○ミュラー細胞とは

ミュラー細胞は、網膜に特異的に存在するグリア細胞である。グリア細胞は神経系を構成する神経以外の細胞のことを指し、網膜には脳と同じようにアストロサイトやミクログリアも局在している。ミュラー細胞の核はは内核層(水平細胞・双極細胞の層)に位置し、内境界層から視細胞層にまでの網膜の全層に支柱のように伸びた形態をとっている。ドイツ人のヘンリッヒ・ミュラー博士(1820-1864)によって発見・報告された。


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http://www.igakuken.or.jp/retina/topics/topics1.html より引用

図1 網膜の層構造
 





○機能

ミュラー細胞の主な機能は物質の取り込み視神経への栄養供給血流の調整、の3つに大別される。

1.物質の取り込み


まず取り込まれる物質には、視細胞や双極細胞が神経伝達物質として用いたグルタミン酸・GABA、レチナールの代謝産物であるレチノール、K+などのイオンがある。ミュラー細胞のグルタミン酸・アスパラギン酸トランスポーター(GLAST)を介して取り込まれたグルタミン酸はグルタミンに還元されて神経細胞へ戻され、神経細胞内部で再びグルタミン酸やGABAに合成されて神経伝達物質として利用される、というサイクルをとっている。

レチナールは錐体・桿体細胞においてシス型がオプシンと結合しており、光を浴びてトランス型になると外れ、デヒドロゲナーゼに還元されてトランス型レチノールとなり、細胞外に排出される。細胞外に排出されたレチノールはミュラー細胞が回収し、再びシス型レチノールに戻した上で細胞外に分泌される。それを視細胞が取り込んで酸化、シス型レチナールとして、再びオプシンに結合する。

2.栄養供給

ミュラー細胞はまたグリコーゲンを産生し、網膜の栄養を蓄える役割をも果たす。ミュラー細胞自身のエネルギー=ATP産生は毛細血管から取り込んだグルコースの嫌気的解糖系と乳酸発酵によっていることが知られているが、これは視神系細胞に酸化的リン酸化のための酸素を温存するためとされる。ミュラー細胞から視神系に対しての栄養分は乳酸の形で提供されており、その量は受容した光に応答して増えている。

3.血流の調整

血管内皮細胞にも接するミュラー細胞はさらに、病原体などの異物流入を防ぐ血液網膜関門の形成にも寄与する。分子的には、ミュラー細胞はPDEF(色素上皮由来因子)やトロンボスポンジンという物質を分泌することで血管新生を防ぎ、血管内皮細胞同士の結合を強化している。


そのほかにも視神経を覆う絶縁体を形成したり、構造を器械的に支えたりと、網膜神経伝達の維持に働く。また、エステラーゼを介した視細胞の分化促進や発生における視神経軸索の誘導機能も認められている。

ミュラー細胞は網膜の3つのグリアのうち、視神経と同じ系列の網膜幹細胞から分化する唯一のグリア細胞である。網膜幹細胞はミュラー細胞の他にアマクリン細胞、視神経幹細胞、双極細胞、神経節細胞、内皮細胞、周皮細胞へと、網膜のすべての細胞に分化することができる。またミュラー細胞自体も分化(脱分化?)能を残しているため、網膜幹細胞に戻った上で、損傷をはじめとする刺激に応じて網膜の細胞へと分化することができる。




〇参考文献
実験医学オンライン
 https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/610.html

Müller Cells and Diabetic Retinopathy(Vision,Res 2018)

Wikipedia
 Muller cell

脳科学辞典
  視覚系の発生

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